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そうして旅人は自由に生きる~魔と法を巡る物語~  作者: 宿木ミル


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第9話【食事の街】

 一日三食、おやつに間食。

 人によって食事スタイルというのは大きく変わってくるだろう。

 一般的には朝、昼、晩と食べるのが定番ではあるけれど、それだけでは足りない人だっている。

 おやつがないと元気になれないという声だってあるだろうから、食事は難しい。

 美味しいものを食べる幸せ、それはどんな時に感じるのだろうか。

 朝ごはんのパンを味わいながら食事の幸福について、私はふと考えていた。








 流浪の旅を行っている時、いつも悩むのは食事との闘いだ。

 食費を控え目にしようとすると大抵同じものの繰り返しになってしまうし、派手に食べようとすると高いものばかりになってしまう。バランス感覚が大切なのはわかっているけれども、それを調整するのはなかなかに難しい。

 特に私は旅においては飽きというのは最大の敵だと思っている。

 同じ風景を繰り返し見るのは習慣的な活動をするのなら悪くないだろう。しかし、私は旅人だ。旅人たる私はやはり新鮮な空気を浴びていたい。だからこそ、食事にはこだわる。

 新しい街に到着したら、その街の名物を味わう。

 美味しそうと思ったら積極的に食べてみる。

 私は、好奇心の赴くままに旅をしているのだ。


「まぁ、たまにはザ・食事っていうところも行きたくなっちゃうけどね」


 ここで、私独自の興味が膨らんでいく。

 私は法と向き合うことができる『魔法少女』だ。だからこそ、街の法律については俄然興味が湧きやすい。

 特に、変わった法律とかがあるのならば、立ち寄りたくなってしまいがちだ。


「こう……全面的に法律と食事が密接に関わってる街とかないかな?」


 歩道をのんびり歩きながら考える。

 食事こそが法律。食べることは正義なり。

 ……そんな感じの場所だって、あっておかしくないだろう。

 そんな感じの場所においては、どんな味が堪能できるのだろうか。純粋に興味がある。


「そろそろお腹も空いてきたし、どこかに入れる街があればいいけど」


 私が旅する時は、大抵朝ごはんをパンで済ませたのちに歩いて行動することが多い。

 街で宿を取らない場合、テントを作って休み、早朝から歩き出すというのが私の行動指針になる。

 動きやすいように食事量をほどほどにしていると、ちょうどお昼時になったときにお腹が空いてくるのだ。そのタイミングで街に入って、美味しいお昼を堪能するのが私の楽しみだったりもする。

 ……たまに目論見が外れて、お昼もパンとかになっちゃうこともあるけれど。


「街はどこかな……って、あれは?」


 今日のお昼は豪華にしてみたい。そう思いながら遠くを見つめていた時だった。

 派手な看板が空に浮かんでいる街が見つかった。

 空には赤いアドバルーン。そこには大きな文字でこう記載されていた。


『食通さんご歓迎! ここは食事の街!』


 噂をすればなんとやら、というものなのかもしれない。

 派手に打ち上げられている広告を見て、思わず頬が緩んだ。


「ここなら満足なお昼も堪能できるかも!」


 歩く速度が少しずつ上がっていく。

 そんなウキウキした気持ちを胸に、私は『食事の街』へと足を運ぶことを決めた。






 食事の街。

 その初見の感想は名前に偽りがない、というものだった。


「日用雑貨店よりもレストランの方が多いって凄い」


 歩いていて気が付くのが、レストランや飲食店の多さだ。それぞれが個別にレストランを経営していて、そのひとつひとつに決して少なくない人が入っている。街そのものがレストラン街のようになっている印象だ。

 逆に、日用雑貨店はかなり絞られている。工具や日常の備品を揃えるようなお店は別の街から届いたもの……つまり交易品を使ったものが多い。


「あっ、街の外側では農業とかも盛んなんだ」


 食事をどこで取ろうか迷いながら街を歩いていた時、農家の人たちが畑を耕していたのも見かけた。

 食品管理はかなり意識しているらしく、旬の野菜が取れるようにそれぞれ異なる栽培形式を調整している。笑顔で農家の人が収穫を行っていた野菜はどれもハリがあって美味しそうだった。


「さて、そろそろ……」


 ぐぅ、と音が鳴りそうなお腹を押さえながら考える。

 この街ならば、満足感がある食事が味わえそうだから、真剣に考えないといけない。

 私の今日の食事を。


「ここはあえて創作料理系のお店に挑戦してみるのもよさそうかな!」


 これだけ特徴的な街だ。なにか、変わった料理があってもおかしくはないはずだ。

 私は創作料理を求めて、街を歩いていくことにした。





 数分後。

 私は中央広場の創作料理店を選んだのだった。

 そのお店の名前はフェルテリッタ。

 不思議な名前の響きが印象的だから選んでみたのだ。


「いらっしゃーいっ! お客さん旅人さんだよねぇ? いやぁ、ラッキーですねぇ!」


 猫耳の女性店員さんが私を気前よく案内して、メニューを取り出す。

 露店形式で開かれているお店になっていて、外に椅子と机があり、私はそこで座っている。


「ラッキーってどういうこと?」

「ふっふっふ、それはですねぇ」


 私の耳元に唇を寄せて、店員さんがひそひそ声で喋る。


「ウチのお店は食べすぎにならない量にしてるんですよぉ」

「……量が少ないっってこと?」


 疑問に思って聞いてみる。

 それなりにお腹が空いているから、少なすぎるというのも少し寂しい。

 私の疑問に対して、派手に首を横に振った店員さん。そしてそれが終わったのち、またひそひそ声で私に話しかけた。


「そーじゃないんですよ、そーじゃ! 旅人さんにとっては適正な量ですよ、えぇ、間違いありません!」

「……なるほど、なんとなくだけどわかった気がする」


 あえて小声で私に話す理由。

 それは多分、街の法と関係があるからだろう。

 大声で言うと逆に目立ってしまうかもしれないから、あえて小さな声で話しているといったところか。

 納得がいった私に対して、店員さんもわかってくれたようで、うんうんと頷いていた。


「そういうことです、そういうことです。というわけで、注文どうします?」

「あっ、えっと……じゃあ、お店の名前になってるフェルテリッタで」


 まったく知らない名前の料理。それに興味が湧いた私はメニューに書かれた独創的な料理を注文することにした。

 店員さんは笑顔で頷き、すぐさま調理に取り掛かることになった。


「行きますよぉ」


 まず、店員さんはパン生地のようなものをこねていく。

 叩き、伸ばし、叩き、伸ばすを繰り返し形が整ったのが分かった瞬間、その上に具材を乗せていく。

 チーズにベーコン、ピーマンなどの具材を上に乗せたのち、またその上にパン生地を重ねる。

 その工程が何回も繰り返されて行く。具材を挟まる具材が変わりながらも、積みあがる生地がちょっとした食事のボリュームを感じさせる。


 ……やや多いのかも?


 そう心では思っていたものの、あえて口に出さないで完成を待つ。

 私が疑問に思っている間にも調理は続く。店員さんは重なった生地が崩れないようにしながら、大型の窯に調理したものを入れる。

 要領はパン……というより、ピザを焼くのに似ているのだろうか。

 しばらくの時間が経過したのち、焼きあがったものを取り出し、軽く刻んだバジルを散らして完成した。


「はいはーい、これがフェルテリッタでーす!」


 でん、と机に用意された料理……フェルテリッタの外見的な感想は何層にも積み重なったピザという印象だった。

 カリカリのパン生地の内側はもちもちしている。チーズと具材が挟まっている中間部分は様々な彩りを見せている。

 なかなか芸術的な見た目をしている。ちょっと食べるのがもったいなく思うほど。


「ほらほら、食べないと冷めちゃいますよぉ」

「う、うん。食べるね」


 こういう時は勢いが大切だろう。

 そう思いながら、フェルテリッタを持ち上げてこぼさないように気を付けながら一口味わう。


「満足感凄い味わい……!」


 カリっとしたパン生地は外見通りの味わい、それでいて噛み応えがあるモチモチさは予想通りだった。しかし、具材の味わいがそれらのおいしさを上乗せしている。シンプルな食感の一段目のピザらしい食感、二段目の爽やかな酸っぱめな感覚、そして三段目の少し辛いスパイスが効いた味わいが同時にやってきて、それがぶつかり合っていない。むしろ、調和するように合わさっている。

 食感も好印象だ。焼き方が上手なのだろう。濃厚な味わいが丁寧に伝わってくる。

 総じて食事の街のポテンシャルを感じ取れる味わいだった。

 食事を取ることに集中していたら、気が付いたころにはもう食べ終わってしまっていた。量が少し多いということもなく、いい感じに適量だった。


「ごちそうさまでした、美味しかった!」

「そりゃあ一安心、一安心ですよぉ。食事というのは笑顔で終わるのに限りますゆえ」


 店員さんも嬉しそうに笑顔でそう言葉にする。

 会計を払ったのち、少し気になったことを尋ねてみた。


「ふと気になったんだけど」

「どうぞどうぞ」

「食べすぎる人っていたりするものだったりする?」

「あー、あー、それについてはなかなか結構いたりするものですよぉ」


 腕を組みながらそう言葉にする彼女。

 悩みながら話している以上、ちょっとした悩みの種なのかもしれない。


「食べることにメリットがあるから、そうなったりするとか……」

「カンがいいですねぇ、旅人さん。おおよそ正解といっていいでしょう!」


 そこまでわかるなら話してもいい、というふうにひょこっと猫耳を動かしながら店員さんが話していく。


「ここの街の法律はこうなってるんですよぉ。『食事こそ幸福なり。よく食べ、街に貢献せよ』って感じで」

「いいことを言ってるようにも感じるけど……」

「察しのいい旅人さんなら、この法律でやってしまいがちなミスはわかると思いますが?」


 そう言われて、言われた法律について考える。

 食べることは幸福。食べると貢献に繋がる。つまり……


「街の発展の為に食べすぎる人が出てくるってこと?」

「えぇ、えぇ、その通りです! この街は食べすぎてしまう人が結構多いのです!」

「なるほど、それは大変」


 こういう事例は少なくないから、街のトラブルとしてあるのは一定は仕方がないとも思う。街の法律に従うと裕福になるという仕組みは他の街でも見かけるからだ。しかし、それで自分にとってあまりよくない選択をしてしまうというのはよくない話だと私は考える。

 ……法律というのは、よりよく生きる為に存在するものなのだから。


「ウチはこう考えてるんです。何事もほどほどが大切と」

「幸福を求めて、食べすぎると苦しくなりそうだよね」

「そうですそうです、そういうことです! わざわざ苦しい想いをしてもらうために、食事なんて提供しませんからねぇ!」


 料理人としての立場。

 食事を行い、幸福を求める人としての立場。

 そのどちらかも存在するのが難しい点なのかもしれない。

 でも、私は店員さんの考えはいいと感じていた。幸福を求めすぎるのもそれはそれで疲れてしまうと思っているからだ。


「う、うぐぅ、も、もう駄目だ……」


 私と店員さんが話していた時、近くの椅子でバタンと倒れこむ男性の姿があった。

 男性の容姿はやや太り気味。印象としては食べるのが好きそうな感じで、裕福そうだ。


「大丈夫ですか!」


 私は心配になり、駆け寄って男性に声を掛ける。

 すると、男性は苦しそうに横を向いて、私に対してうめき声を出しながらこう告げた。


「た、食べすぎて……動けない……苦しい……!」


 そう、彼は食べすぎてしまうタイプの人だったみたいだ。

 幸福さを求めて、自分のキャパシティを超えて食事を取ってしまったのだろう。

 それが影響して、動けなくなっている。


「ウチは一応消化剤はあるけど、結構強いからそれはそれで苦しくなっちゃいますよぉ?」

「ううぅ、苦しいのは辛い……! けど、割り切るしかないのか……」


 彼は苦渋の選択を迫られている様子。

 ……食事の街だったら、ちょっとうまく調整すれば私の力で救ってあげられるのかもしれない。

 そう思い、男性に提案する。


「ちょっとしたルールを付け加えれば、苦しくなくすっきりさせられるかもしれないよ」

「苦しくないのかい……? お、教えてくれ!」

「しばらく食べ過ぎないようにするっていうルール。それさえ守れるなら、私の力でなんとかなるはず」

「もう、当分は食べ過ぎない! 頼む、助けてくれ!」

「わかった、じゃあ……!」


 私の魔力を解放して、『魔法辞典』を展開する。

 そして法に介入して、人の生活をより良く豊かにする『魔の法律』の力を発動……!


「我、リベラ・マギアロアの名を持って新たな法を展開する。『何事も限度を弁えなければ幸福足りえないだろう。胃袋の余裕を考えよ』」


 詠唱し、男性に魔力をぶつけていく。


「さて、消化していくよ!」


 魔力によって余分に食べすぎてしまった胃袋のものを消化していく。

 この街だからこそできる、ちょっとした法の力を利用した魔法だ。

 消化が終わったのち、男性は立ち上がりすっきりした様子で私に話しかけてきた。


「ありがとう、君は一体……!」

「ふふっ、ちょっとした魔法が使える魔法少女の旅人だよ」


 そう言いながら、補足で言葉を付け加える。


「あなたにちょっとした魔法の力でおまじないをかけたんだ。食べすぎるのはよくないよってやつをね。もちろん、幸福の為に食べるのはいいことだと思う。けど、幸福の尺度って人それぞれだから、自分の食べれる限界を知っとくべきだと思ったんだ」


 幸せになる為に苦しむのは、時にはあるかもしれない。けれど、それが日常になるのは少し違うと思う。

 だから私は、彼の力になりたいと思ったのだ。幸せに生きられるように。


「も、もし、約束を破ってしまったらどうなるんだ?」

「今日みたいなことが繰り返されちゃうかも」

「うぅ、気を付けるよ! でも、助かった! ありがとう!」


 男性は満足げな表情で去っていく。その足取りは軽かった。

 一連の騒動が終わったのち、店員さんが私に話しかけてきた。


「まさか問題解決できるなんて! せっかくだからその魔法をみんなにかけてみたらどうでしょ?」

「それは流石にしないかな」

「どうしてです?」

「私は困ってる人を助けたいっていうのが強いからかな。それに……」


 微笑みながら言葉を続ける。


「法は人に寄り添うものだから」


 むやみに規則を作って人を縛り付けてしまっては、それこそ不幸になってしまうだろう。

 私の力は法を調整することができる。だからこそ、丁寧に使っていきたい。

 街の法と向き合って生きる人々の暮らしは、どんな形であれ、文化として尊重されるべきなのだから。


「なるほど、ではでは、まだまだ食べすぎさんとは戦わないといけないかもしれないですね」

「きっと、みんなが自分の幸福を見つけられる日が来るよ。大丈夫」

「夢見がちですねぇ」


 呆れた様子の店員さん。

 ても、その表情は浮かない表情ではなかった。


「でも、そういうのロマンがあって好きですよ、ウチも」


 食事の街。

 美味しい食事と一緒に笑顔が増えたらいいな。

 私は賑やかなレストランを見つめながらそう感じた。








「食料もよし、次の旅支度よし!」


 ある程度日持ちする野菜を用意して、食事の街から抜け出した私。

 今日も朝日が眩しい。

 朝ごはんは食事の街で済ましてきたからなんとなく幸せ気分だ。


「私も創作料理とか色々試してみようかな」


 時には慣れないことをするのも悪くはない。当然、やりすぎないというラインも決めるのは大切だけれども。

 ゆっくり歩いて、次の街まで行く道を考える。時間は気にしない。自由に行ける。それが私の旅。


「やっぱり美味しいものは笑顔で食べたいし、旅も明るく順風満帆にいきたいね!」


 幸福を求めて、無理をしないで頑張る。

 それくらいの温度がちょうどいいのかもしれない。


「さて、次はどこに行こうかな」


 ゆったりとした風が吹く。

 たまにはピクニックとかするのもいいかもしれない。

 美味しい食事を自然風景を楽しみながら味わう。それもいい。

 これからの旅のことを考えていると、気持ちが明るくなっていた。

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