だから僕は逃げたんだ
あれほど暑かった夏もいつの間にか涼しくなり、木の葉は落ちる速度が上がる中、情景に反して僕の恋心は熱く、勢いを増しているように感じた。
授業中に考えている美里さん、移動教室をうっかり間違える美里さん、昼休みに友達と話しながらも寝むそうな顔をする美里さん、どれも僕にとっては唯一無二で、新鮮で、大好きで、、、
陰キャで友達のいない僕なんかが好きになっていい存在じゃないことぐらいわかっていた。
『キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン』
チャイムの合図とともに僕はバックをゆっくりと背負う。ゆっくりというのは肝心だ。チャイムが鳴ってすぐは教室の入り口が込むためだ。それに、、、もしかしたら美里さんと話せるかもしれないし、、、。入り口ドアが開き、乾いて冷たい風が教室に入り込む。
「寒っ!、、、まあ妄想とは言え、美里さんとそうやすやすと話せるわけないか、、、」
独り言を呟き、僕が帰ろうとした時だった。
「ねえねえ!坂本君!!!突然過ぎて申し訳ないんだけどさ、、この後良かったら校舎裏に来てくれたりってできないかな?」
「ふぇっ!、、、えっっっとぉぉぉぉぉ、、、、、」
僕がその寒さゆえ、席を立って帰ろうとした時だった。それは先ほどあれほど妄想し、考えてて、夢にさえ見ていた美里さんからの発言だった。雪のように白い肌は、その黒いロングの髪と見事に似合っており、寒いからか赤色の点々が目立つ茶色マフラーを巻いていた。目は透き通るようなルビー色で、僕の顔を下から覗き込んでいる。
「み、み、みさ、、、じゃなかった。さ、さ、さ、さい、と、、う、、さ、ん?急にど、ど、どうしたの?」
緊張しすぎてどもってしまっているのが自分でもよくわかる。さっきまで寒いと感じていた体は指先から内臓、耳の端から背筋まで、、急に熱くなるのを感じる。僕のメガネはいつの間にか白くなっていて前がよく見れない。
「ん~~とね、まあ向こう着けば分かるから!!」
「はっ、は、は、は、はいっ!!!」
教室の視線が僕に集まったのを感じる。思わず大きな声で返事をしてしまったからだ。幸いだったのは、クラスメイトの半数ほどがもう既に教室から出ていた事、そして美里さんがそれを気にせずに”じゃっ!後でね!!”と、言ってくれた事だった。
僕はしばらくボーっとした。窓を見てみる。
「わぁ~~~、なんてきれいな曇り空なんだろう、、、」
数十分後ぐらいだろうか。僕は気づいた。
———待ち合わせの時間、、聞くの忘れちゃった。
辺りを見渡す。しかし誰もいない。
「うわぁ、、、どうしよう、、、美里さんのラインとか知らないし、、、」
じゃあグループラインから、、、
「・・・・・・」
「グループライン、、、入ってなかった、、、」
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仕方なく僕は校舎裏で閉門までの3時間を待つことにした。この時つらかったのは、陸上部やらの部員の人たちがここら辺を周回して走っている事だった。特にこっちに目線を向けられるとどうしたら良いのか分からない。
1時間ほどだろうか、、美里さんは”ごめ~ん、待たせちゃったぁ~?”と言いながら僕の方に歩いてきた。
「その、、、言いたいことって、、、、」
正直、どこか期待していた。自分にも遅いけど春が来るのではないか、もしかしたらこの人と付き合えるのではないか、、そう、、、期待していた。期待してやまなかった。
「坂本君って、、私の事好き、、、だよね、、、?」
「えっ、、、とぉ、、、」
予想外の答えに動揺した。
「あっ、いや、、違うんなら良いんだ。実は私、最近付き合い始めた人がいるんだけどさ、、坂本君がもし私のこと好き、、だったんならごめんなさいってことを伝えに来たの。ほら、よくあなたと目が合うし、友達も”絶対に坂本は私の事すきだ!”って、、私の早とちりだったのならそれはそれであなたには無駄に時間を使わせてしまったし謝らなきゃなんだけど、もし私の事が好きだったのなら付き合えませんって———」
”僕なんかが好きになっていい存在じゃないことぐらいわかっていた”
その言葉が頭を反芻する。風が冷たい。ここが冷えていたからか、僕にさっきのことを伝えようとしたからなのか、あなたの声は静かに震えていた。それでもあなたの声は私にとっては綺麗で、神聖な音楽そのものだった。
「ごめんなさい。私の早とちりだったよね?それにこんなこと急に———」
その言葉が言い終わる前にボソッと”違う”といって僕は走った。とにかく走った。これ以上僕は速く走ったことが無いのではないかと思うほどに走った。”息が切れようが知ったことか”。途中、運動部の人たちとすれ違っては”はえ~”とか”やば~”とかそういう言葉が聞こえてきた気がした。そんなことどうでも良かった。僕は死ぬほど本気で走った。
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いつの間にか僕は自分のベットで寝ていて、目の前には月を囲う形でロープが丸く吊るされていた。こんなことがあった後でも、月は辺り一面を照らしていつものように、見事なまでに輝いていた。僕の部屋の中に、一筋の希望かのように月の光が差し込む。きっとこの手を伸ばしても、届くことはないんだろう。
「きれい、、、」
そう、、、だから僕は逃げたんだ。
甘酸っぱい青春をイメージしていた皆さん、、、ゴメンぽこm(__)m




