呪いの本質と、無限の時間
英雄の静かな真実
信仰の街を離れ、三人はさらに人里離れた荒野を歩いていた。ライナスの口数は、以前にも増して少なくなっていた。その静寂は、何十万もの時間が澱んでいるかのようだった。
「ライナス、お前は本当にあの街の奴らを救えたと思うか?信仰の鎖が、一時の『無駄な美しさ』で断ち切れるのか?」
ジークは、頭の中で渦巻く教団の支配の影に、苛立っていた。彼は「新しい鎖を作らない抵抗」を見つけたが、それは一時的な避難所に過ぎないことも知っていた。
ライナスは立ち止まり、夕焼けに染まる荒野を見つめた。その瞳の奥には、ジークがこれまで見てきたどの表情よりも深い、計り知れない疲労が浮かんでいた。
「信仰は、人々が『終点』を求めるから生まれる」
ライナスは静かに言った。
「支配の悪循環から解放される救済の終点。死後の永遠の平穏という終点。彼らは、その終点に到達するために、現在の自由を対価として支払う。だが、僕の呪いは、その『終点』を永遠に与えない」
ライナスは、自分の少年らしからぬ小さな節くれだった手のひらを開いて見せた。
「僕は、時という支配から解放された呪いを持つ英雄だ。僕は誰よりも長く生きる。それは、僕がどの支配の輪郭からも、どの信仰の鎖からも、永遠に『外側』にいることを意味する」
「永遠に外側……」
ジークは呟いた。
「そう。永遠の傍観者だ。誰も僕を真の意味で支配できない代わりに、僕も誰かを永遠に救うことはできない。なぜなら、僕の助けは、必ず『無限の時間』という、人間にとって耐えがたい価値を伴う新しい支配になるからだ」
ジークは、ライナスがバルカスに与えた「時間を盗む力」が、単なる戦闘能力ではなく、彼の呪いの代償そのものであることを悟った。彼の強大な力は、彼自身の悲劇的な苦しみの現れだった。
呪いを解く唯一の対価
「僕の旅の目的は、この呪い、この『無限の時間』の支配を終わらせることだ」
ライナスは、初めて真剣に、そして痛みを伴う声でジークに語った。
「呪いを解く唯一の術は、僕の時間に匹敵する、誰かの『新しい価値』を見つけることだ。それは、金でも、力でも、知恵でも、信仰でもない。僕の無限の時間を、有限の生の中に封じ込められるほどの、強烈で予測不能な価値」
ジークはハッとした。
「だからお前は俺に、施しに頼るな、対価を生み出せ、支配の輪の外に出ろと教えてきたのか。俺の『無価値な生』が、お前の『無限の呪い』の対価になるかもしれないと?」
ライナスは微かに、痛みを堪えるような笑みを浮かべた。
「そうだ。君の価値は常に、誰かの『おこぼれ』でしかなかった。だが、その無価値な生から、支配のルールが通用しない価値が生まれたとき、それは僕の無限の時間を覆す力になる。鍛冶屋の街での君の器用さ、信仰の街での君の無駄な美しさ。それらは、僕の呪いを解くための、予測不能なヒントだ」
ルイーダの現実的な錨
その時、荒野の向こうから、聞き慣れた軽快な足音と、快活な声が聞こえてきた。
「ライナス、ジーク!こんなところでぼんやりしてたら、日が暮れて熊にでも食われるわよ!」
休憩所で食料を調達していたルイーダが、彼らのもとへやってきた。彼女はライナスの深刻な表情と、ジークの緊張した顔を見て、二人が重要な話をしたことを察した。
「いい?お腹が空いたら、賢い者だって支配者に屈するのよ。まずは腹ごしらえ!」
ルイーダは、ジークに温かいスープが入った革袋を差し出した。ジークは、今、目の前のスープが、ルイーダが自ら生み出した価値であることを、ライナスの無限の呪いを解くためのヒントとして、これほど重く感じたことはなかった。
「支配?それが世界よ」ルイーダは焚き火の炎を見つめながら、静かに答えた。
「生きるってことは、誰かの支配に組み込まれるか、誰かを支配するか、それともライナスみたいに永遠に呪われるか、よ」
彼女は、人生のすべてを悟ったような明るさで笑った。
「私はただ、『強さ』という価値を追求するだけ。誰の支配も受けず、誰を支配するつもりもない。私は、私の拳という予測不能な力で、支配の鎖を一時的にねじ曲げる。それが、私の唯一の自由よ」
ルイーダの言葉は、ライナスの深遠な哲学とはまた違う角度から、ジークの道を示していた。永遠の解放か、瞬間の自由か。ジークの旅の使命は、「新しい鎖を生まない価値」を創造し、ライナスの呪いを終わらせることに定まった。




