吾輩はキジ猫である
吾輩はいつも草の中に居る。
最近、草が伸びてキジ色の吾輩は人には見えにくい。
だからここを通る猫好き達は吾輩をいろいろな名前で呼んで、出て来るのを待つ。
「トラちゃーん。ミーちゃーん、ネコちゃーん、シッポちゃーん」
シッポちゃんの名前は私のシッポが二つに分かれているからである。
一種の奇形だ。
沢山の名前で呼ばれるから名前はまだ無い。
この時間にここの草の中で寝ていると、私の名前を付けた人達は必ずカリカリと飲み水を置いて行ってくれる。
実は正式な私の名称は『地域ネコ』である。
片方の耳の先がビクトリーのVに切られ、卵巣は取られてしまうし、人間とは吾輩の様な弱いモノに何て事をするのだと恨んだが、最近は猫神様に感謝している。
おかげ様で吾輩が見えなくてもエサは常に皿に潤沢に有り、新鮮な飲み水もいつも専用の容器にたっぷりと入れてある。
ありがたい事だ。
が、・・・最近あのカラスの「カラ功」がカリカリを横取りしに来る。
それだけでは無い。
吾輩の飲み水でうがいをして行くのである。
見てると実にアタマに来る。
冬のある日、植栽の茂った植え込み中に若者が発泡スチロールの箱で小屋を作ってくれた。
暖かくて寝心地は最高であった。
が! ネコ嫌いのおばさんに見つかって一週間で管理組合の爺さんが片付けてしまった。
なんて酷い事をするジジイだ。
最近、掃除のおじさんが私を見て、
「マンマ、食べたか? オブ(水)飲んだか?」
と聞いて最後に、
「頑張れよ」
と言って励ましてくれる。
でも、マンマもオブもくれない。
最近はエサを待っているのも退屈だから、遠征してカラダを鍛えている。
ミャーと可愛く鳴く「ゴマスリ言葉」も覚えた。
脚を投げ出し横になり、人間を見詰めて可愛い格好で、
「ミャー、ミャー」
と二回鳴くとエサをくれる人が益々増えて来た。
最近はチュールを買って、カリカリの上にトッピングをして行くネコ好きな方も居る。
私は耳を切られて本当に良かったと思った。
今日も植え込みから片足を出して寝ている。
片足は白い靴下(毛色)を履いている。
さっき猫好きのオジサンが来て、
「除草剤を撒いているぞ、早く逃げろ! 死んじゃうぞ」
と、何回も私に語り掛けて行った。
私は、
「ミャー、ミャー、ミャンマー」
と答えた。
吾輩はこの通りでは有名な『地域キジ猫』である。
私は・・・