ちょっきり虫
昔、まだ母が生きている頃。
『ちょっきり虫の知らせ』の話しをしてくれた。
この虫はいろんな縁を切って行くらしい。
良い縁も悪い縁も、家族の縁も、友達の縁も・・・。
ある夏の夜、この虫が蚊帳の中に入って来た。
母が、
「ちょっきり虫だから外に出しなさい」
と騒いだ。
次の夜も何故か蚊帳に入って居た。
朝起きたら、猫の子がその虫を食べていた。
それから少しして、本家と分家の繋がっている墓のコンクリートのタタキが真っ二つに割れていた。
虫を食べた猫の子が死んだ。
大好きだった犬も死んだ。
暫くして母が亡くなった。
そして父は、新しく母を迎えた。
私は親戚の家に別居した。
全てのモノが切られて繋がらなく成ってしまった。
私は成人に成り、ある女性と籍を入れた。
その女性は既婚者だった。
夫との縁を切って私の所に来てしまった。
しかし一年で離婚し、彼女は消えて行った。
引越しも十数回はしている。
厄落としの神社にも行ったが切れて行く。
テレビを観て居たら『ちょっきり虫』が笹の葉を切って居た。
私はあの時の母の話しが頭の中を過ぎった。
今は団地の八階に居を構える。
ちょっきり虫は、ここまで上がって来れない。
私は・・・