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マッチ棒
筵のベッドで一日中、ブツブツと「念仏」を唱えて居る兵隊さんが居ります。
軍医に尋ねると、
「あの患者は『マッチ棒』で、自殺する事すら出来ないのだ」
よく見ると両手両足が無く、胴体と頭だけで生きて居るのです。
眼は一点を見詰め、念仏三昧でいつ来るか分からない「お迎え」を待って居るのです。
軍医は私に、
「あの患者に食事を摂らせたい。キミやってくれないか?」
「え、ワタシ?・・・ですか。 私は・・・」
私は即答が出来ませんでした。
この方のベッドの傍を通る時はいつも目を反らしていたのです。
私は看護婦として失格です。