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入れ歯
私は野村さんの担当医である。
いつも療養所の休憩室で喋っている野村さん。
今日は一言も喋らない。
野村さんはとてもお喋りが好きな方だ。
「野村さん、どうしました?」
「・・・入れ歯を忘れた」
「忘れた? ・・・私のを貸しましょうか」
「ありがとう。ポリグリップで磨いてあるよね」
「ポリグリップで磨く?」
野村さんは時々、訳の解らない事を喋る。
私も野村さんの話しに合わせなくてはならない。
「・・・勿論です」
「じゃ、お借りします」
野村さんは私の歯で元気に喋り始めた。
この人も療養所の認定サークルのメンバーである。
最近、私はすっかりこの療養所の雰囲気に染まってしまった。
独り、黙り込んで悩んでいる人を見ると つい、
「どうしました? 私の入れ歯を貸しましょうか? 」
と励ましてしまう。
私は・・・