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拾った眼鏡
私は九七歳に成ってしまった。
療養所内では既に末期高齢者である。
今朝も広場のネコに餌を与えに来た。
ベンチに眼鏡が置いて在る。
だれかが忘れて行ったのだろう。
掛けてみる・・・。
全てのものが曲がって見える。
このレンズは私には合わない。
が・・・?
このレンズを透すと新しい世界が観える様だ。
これは魔法の眼鏡かも知れない。
今までを振り返ると、私は直線と丸しか見えなかった。
私は曲がった事が大嫌いだった。
だから戦後、警察官一筋に三十年間も続けて来られたのだ。
あの頃は取り調べ中、少しでも辻褄が合わなければ叩く、蹴るの理不尽な事をして来た。
しかしこの眼鏡を掛けて観ると真っ直ぐに歩く人がアホらしくみえる。
私は離婚を三回もしている。
妻だった女は全て真っ直ぐな私から逃げて行った。
なぜ今、この眼鏡が私の手元に在るのだろう。
神はこの眼鏡を掛けて道を歩けとでも言うのか。
私にはもう、曲がる道などないのである。
私は・・・