絶えない線香
私が種子島に農業移住している頃の話である。
農閑期、役場に仕事の相談に行った。
担当者は『社会福祉協議会の仕事』を紹介してくれた。
『その仕事』は独居老人宅の樹木の剪定である。
種子島の人口は26,000人である。
島を出た若者は殆ど故郷には戻って来ない。
今回は地元の同年配の相棒と私に依頼されたものだ。
着いた家は旧家の暗い部屋だった。
「社会福祉協議会から紹介されて来ました。垣根から始めます」
返事は聞こえない。
「・・・」
相棒は全くの種子島人である。
「よか、始めっど」
小さな村では村内の噂は直ぐに広まる。
とりあえず、私達はビローの樹の枝払いを始めた。
垣根の剪定は午後の仕事に回した。
昼になった。
私達二人は、暗い部屋の住人に少し話しを聞きに行った。
「おーい」
「・・・」
声が無い。
線香の匂いがする。
私は相棒に聞いた。
「・・・生きてるのか?」
相棒は笑いなが、
「まだ、死んだって話しは聞かねえど。釣りにでも行ったんだべ。そこの卓袱台に茶筒がある。茶でも入れて呑むべ」
「断らなくても大丈夫か?」
「かまねえよ」
「どうせ、居ねえんだから」
・・・やたら、線香の匂いがする部屋だ。
私は仏壇を見た。
純白の布で包まれた骨壷が挙がってた。
この家の住人は既に居ないのである。
梁の上を見た。
累代の家主の遺影が飾ってある。
初七日の祭りために役場の担当者は、二人に事前に庭の手入れを依頼したようだ。
しかし朝からこの線香は誰が挙げているのであろう。
来た時から線香の煙は絶えないのである。
訪問者などは居ないはずなのに。
私は・・・