独り言
隣りの部屋の女(患者)はいつも『独り言』を喋りながら廊下を歩いている。
背が高く、痩せて、やたら甲高い声の女だ。
ケケケケと言う笑い声がやたら耳に付く。
今朝も独り言を喋りながら廊下を歩いている。
「そうなのよー。・・・昨日の二時頃? 居たわよ。寝てたわ。・・・ウソ〜。・・・行く、行く。・・・ケケケケ」
・・・また笑っている。
看護婦に聞いてみた。
「最近、隣りの部屋の女は独り言を喋りながら歩いているな。アイツは気狂いに成ったのか?」
看護婦は丁寧に教えてくれた。
「あの患者さんは携帯電話を使ってるんですよ。今の携帯はハンドフリーなんです。私も使ってますよ」
看護婦は耳からイアホンを外して私に見せた。
「コレが独り言を喋らせているのか。おまえもコレを使って独り言を喋ってるのか?」
「駅に行ってごらんなさい。皆んな使ってますよ。カケホウダイを」
「カケホウダイ?」
「何時間、独り言を喋っていてもタダ」
「そんな物、この療養所に持ち込んでも良いのか?」
「医院長も使ってるから、注意が出来ないんじゃないですか?」
「あ〜あ、それでアノ男は私の診察中に独り言を喋っているのか。私と同じ病気に成ったかと思ったよ」
一人の患者がすれ違った。
やはり独り言を喋っている。
「アレもか?」
と聞いた。
すると看護婦は、
「アノ方は今流行りのアルツハイマー疾患ですよ」
と教えてくれた。
私は・・・