・カラス育成パート - 錬金:自分+宝 -
天空に戻った俺は国を巡った。カラスの視力と翼を使って、これから魔力のこもった品々を集める。
一見なんの価値もなさそうな黒い石ころや、四つ葉のクローバーのような変異した草木。鳥の巣に盗まれた宝石類や貴金属、人の強い想いがこもった数々のガタクタに、大小の魔力が秘められていることがある。
「発動【合成術:初歩】……! フッ、誰かの結婚指輪だったようだが、代わりを買ってもらうことだな」
自分自身をベースに結婚指輪を合成術で融合させると、翼の羽ばたきが気持ち強くなった。後でコマンドを使ってステータスの成長を確認するとして、今はひたすらかき集めることにする。
次第にコツを覚え、カラスは人里を離れたクローバー畑に落ち着いた。三つ葉のクローバーの中に潜って四つ葉の変異を探し、魔力がこもっていることを確認した。
「発動【合成術】……! フフフッ、いいぞ、この調子で行けばラッキーマンになれるかもしれん。……いや、ラッキー・バード? 幸運の黒い鳥……?」
夜になってもやることは変わらない。月が陰ればどこかに身を隠して眠り、月が出れば魔法で自らを光らせて素材を探した。
とりおりイゾルテが恋しくなった。孤独な暴君は不眠症で、『カァくん』をお迎えしてやっと眠れるようになったという。
考えているとそこに静かな羽ばたきが近寄って来た。オオフクロウだ。命知らずにも総督閣下のカラス様を喰らおうと、鋭い鍵爪をクレーンのように伸ばして突撃して来た。
「発動【アタック】! クックックッ……フクロウごときがイゾルテが使い魔の俺を喰らわんなど、片腹痛いっ!!」
真夜中の森の王、オオフクロウはまさかカラスごときに自分が空中戦で完敗するとは思わなかっただろう。
たゆまぬ合成術による自己強化により、敏捷性は奇襲を軽々と回避させ、アタックの魔法も重ねて攻撃力アップしたくちばしが、オオフクロウの尾羽根をむしり取った。
「なんだ、羽根に微弱な魔力が秘められているではないか。発動【合成術】……」
オオフクロウは恐怖した。妖しい力がむしり取られた羽根を光に変え、それがカラスに吸い込まれてゆく光景に鋭い鳴き声を上げた。
「待て、もう少し分けてもらおうか」
オオフクロウは逃げた。カラスはそれを追った。襲撃された者の正当な権利に則って、いくらかの迷惑料をいただいた。
それなりにむしり取ると、オオフクロウは悲痛な叫び声を上げて森の奥に消えていった。
夜が明けても、太陽が南天しても、その後沈んでも、やることは変わらない。
品々との融合を重ね、着実に強くなってゆく肉体と魔力に高揚感を覚えながら、また宝を集め、それを力に変えた。
そんな俺の前に昨日のオオフクロウとそのツガイが復讐に現れた。
「出てこなければ喰われなかったものを。旦那さんも美味しそうな羽根をしている」
もはやオオフクロウのツガイなど敵ではなかった。空中戦を交わしては羽根をむしり取り、最後はボサボサの姿で逃げてゆく夫婦を見送った。
それからまた1日の時が流れ、3日目の昼が訪れると、同化という名の修行を終えたカラスは主人の元に帰った。
イゾルテの政務室の窓は開けっ放しで、羽根を羽ばたかせていざ帰投すると――
「カァくん……っ」
イゾルテは書斎机から飛び上がり、隠さなければならない素をさらけ出して腕にカラスを止まらせた。そのカラスはくちばしに四つ葉のクローバーを3本くわえていた。
「我が主よ、土産だ」
「クローバーの変異か。こんな子供だましで我が喜ぶとでも思ったか?」
言葉はつれなかったが、表情には感激があった。宝石を持ち帰るよりはまだ気が利いた土産だろう。
「自由にさせてくれて助かった。おかげでこの通り、大きな収穫があった」
イゾルテは四つ葉のクローバーに夢中だ。まあペットの鳥がこの手のラッキーアイテムを持って帰って来たら、誰だって喜ばずにはいられないだろう。
素朴な草木にやさしい微笑みを浮かべるその姿は、傲慢な独裁者を演じ切れているとは言えなかったが、幸せそうなので指摘は止めておいた。
「嬉しい……。帰って来てくれてありがとう……」
「見捨てるわけがないだろう。どこまでも付き合う」
イゾルテはメソメソと涙を拭い、そしてあの暴君へと戻った。鋭く表情を引き締め、背筋をこれでもかと伸ばして、大きな胸を突き出した。
「よく帰った、ちょうど悪巧みの誘いがあったところだ」
「それでこそイゾルテだ」
「黙れ、使い魔ごときが。先日貴様が報告した奴隷商人だが、我の忠告を聞かず勝手なことをやっているようだ」
そう聞いてカラスは暴君の腕に飛び乗った。その奴隷商人こそがステージ2の原因にして倒すべきボスだ。
「何か考えがあるようだ。聞かせていただけるか、我が主よ」
「我自らが調査を行う。部下に探らせてはいるが、どうも尻尾を見せん」
「それはその部下かあるいは末端が、鼻薬を効かされているのかもしれんな」
「ああ、その裏切り者の把握もある」
シナリオ通りの展開だ。次のシナリオでは変装したイゾルテが助っ人としてバトルに参戦する。もちろんその使い魔である俺も正史では初参戦となった。
「そういうことならバロンを追おう」
「バロン、だと?」
義弟の名前にイゾルテは言葉を詰まらせた。
「バロンもその奴隷商人の行いに気付いているようだ。バロンを誘導して、今回の件をレジスタンスに解決させよう」
そうすればイゾルテが本国と対立することもない。レジスタンスは名を上げ、それが反乱の団結力となるだろう。
「ずる賢いカラスだ。まるで先王の生まれ変わりのようだ」
「まさか。俺は他の者より少し高いところから物事を見ているだけだ」
「抜け駆けはするなよ。動きがあれば、我を呼べ」
「偉大なる主のお言葉のままに」
そういえばイゾルテの顔を見たいがあまりに、せっかく鍛えたステータスをオープンするのを忘れていた。
後ほどどこか人のいないところで、3日間の旅の成果を確かめるとしよう。
――――――――――――――――――――
status_window(chaos)
【LV】 1 → 1
【HP】 42 → 134
【MP】 35 → 75
【ATK】 3 → 25
【MAG】12 → 32
【DEF】14 → 37
【HIT】39 → 90
【SPD】85 → 196
【LUK】 9 → 999
【獲得スキル】
錬金系
【錬金術:初歩】【合成術:初歩】
変化系
【変化魔法:初歩】【補助魔法:初歩】
close_window()
――――――――――――――――――――