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・カラス育成パート - 残SP:3 -

 イゾルテの神官レプトウスへの抗議は爽快だった。彼女はロムルス帝国を後ろ盾とする悪の神官に一歩も退かず、悪役と悪役の激しい内ゲバを演じてくれた。

 ちなみに俺の役はそんなイゾルテの肩や腕に乗って、鋭いカラスの目で敵を睨むことだけだった。


 ロムルス帝国とファフネシア自治領の協定に則って、総督に了承なく農奴の売買をしない。

 神官レプトルスにこの協定を守ると誓わせると、俺の介入により発生したIFストーリーがようやく終わった。


 その後は簡単な食事をして、心やさしい独裁者をベッドに寝かしつけた。イゾルテは激しさと弱さを併せ持つ不思議な女性だった。


 それからその翌朝、俺はバロン監視の任務を外れて自由行動に入った。無論、この話自体は事前に取り付けてあった。イゾルテが残念そうな顔をするところ以外は特に問題なく引き継ぎがまとまっていた。


「でも、どこに行くの……? 私を置いてどこか遠くに行ってしまったり……しない……?」


「数日を使ってこの国を巡る。俺の力が必要なときは召喚をしてくれ」


「そう……カァくんにも休暇が必要だものね……。でも貴方がいないと、夜が寂しい……」


「ははは、他の者に聞かれたら誤解されない言葉だ」


 イゾルテの接吻をくちばしに受け、窓辺から総督府の天空へと飛翔した。

 使い魔カオスは弱い。これから3日を使ってシナリオに付いていけるだけの戦う力を付けなければならなかった。


 まずは獲得したスキルポイントでスキルツリーを進める。様子見ついでにバロンが働く農園を訪れ、バロンとサリサが並んで綿花を摘む姿を見下ろした。


 サリサの告白は失敗してしまったものの、関係が少し進展したように見える。片手間に監視してイゾルテへの土産話を探しながら、俺は未来の俺が教えてくれた通りに【コマンド】を唱えた。


「skill_tree(chaos)」


 すると目の前にウインドウ画面が現れる。これはいわゆる【コンソールコマンド】だ。

 これを使えば、ゲームの中のキャラクターである俺たちが通常ではアクセス出来ない【スキルツリーシステム】を操作することが出来る。


 ウインドウ画面の背景は望遠鏡で見上げた星空のようなもので、スキルの項目ごとに下から上に星々が広がっていた。


 まずは【錬金術ツリー】から【錬金術:初歩】を取った。残りスキルポイントが3から2に減り、ツリー最下部の星が青く輝いた。


 V字に星と星が正座のように繋がり、2つの選択肢が生じる。これにより【合成術:初歩】と【アイテム錬金:初歩】が選べるようになった。


「なるほど、確かに戦闘への乱入を繰り返せば、かなりの優位に立てる」


 今回選ぶのは【合成術:初歩】だ。これはベースとなる物を素材を使って強化するスキルで、俺のようなホムンクルスユニットをベース素材にすることも出来る。


 採用すると画面に明るい星が1つ増え、新しい星に繋がった。残りのスキルポイントはあと1だ。


 錬金術ツリーから離れて【変化魔法】ツリーを画面中央に置いた。ツリーの最下部には既に赤い星が1つ輝いていた。使い魔カオスは最初から【変化魔法:初歩】を有している。


 それから最後のスキルポイントを使って【補助魔法:初歩】を取れば、もうこの画面は必要ない。


「close_window()」


 コマンドでウインドウを閉じ、手にしたスキルの検証に入った。【補助魔法:初歩】を取ると【魔法:アタック】と【魔法:スリープ】を覚えることが出来る。


 ツリーの構築を終えた俺は次に標的を物色した。


「何をだらだらしている貴様らーっ! イゾルテ様のためにもっと勤勉に働かんかーっ!」


 ここを選んだのは手頃な実験台がいるのもある。農場には農奴に鞭を奮って脅す嫌われ者の監視がいるもので、イゾルテの衣を借りて暴れ回る傾向があった。


「勘弁してくれ、若いの。ワシらのような老いぼれにはこれが精一杯なんじゃ……」


「黙れ、それは貴様の都合だろうが! あの冷血なイゾルテ様ならばこう言うだろう。働かないならば死――」


「ひぃっ、お助け下されぇぇ……!!」


 カラスは空中で翼を広げて『ガァ』と鳴いて【スリープ】を発動させた。

 青みがかったシャボン玉のようなものが監視に飛んでゆき、そよ風のように通り過ぎた。


「わ、若いの……? どうなされ――おおっ?!」


 鞭を振りかぶった監視は強力な麻酔弾でも撃ち込まれたように上体を揺らし、まぶたを閉じて背中からひっくり返った。


「お、おおーい? おーいっ、大丈夫か、若いの……?」


 監視は大いびきを上げるばかりでまったく目を覚ます様子がない。老人は監視が眠っている間に彼から財布を抜いた。


「おーいっ、お前らーっ! こいつ寝ちまったぞぉーっ!」


 したたかな老人は財布から金だけを抜いて戻し、仲間で分け合い、監視の目がないことをいいことに皆で休憩に入った。


「今の、君がやったの……?」


「あ、あたし、見た! そのカラスから泡が出て、それから――」


「うん、僕も見た。昨日の白いカラスとは色が少し違うけど……あの方のお知り合いですか?」


 予定外が生じた。バロンとサリサにそれを見られてしまっていた。俺がやったとひけらかしたいが素直に答えるわけにもいかない。

 検証を終えたカラスは【アタック】の魔法で翼を強化し、強化された翼でツバメのような高速飛行でその場を離脱した。


 このスリープとアタックの魔法は次のマップを攻略する上で必要になる。さらにその上で必要になるのが、単純なキャラクタースペックだった。


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