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・カラス育成パートその8 - 人化へのラストステップ -

「skill_tree(chaos)」


 翌朝、カラスはイゾルテが起き出す前にスキルツリーを進めることにした。あの戦いで得たポイントは3。これを全て変化ツリーに振る。


 【変化魔法:魔装具】→【変化魔法:大型動物Ⅰ】→【変化魔法:大型動物Ⅱ】と進めれば、俺は剣・盾・鎧・ゾウくらいまでの大型動物の変化が可能になっていた。


「ん、んん……朝のお散歩、カァくん……?」


「そんなところだ」


「私もそろそろ起きようかしら……。あら……?」


 イゾルテはベットサイドに見知らぬ剣を見つけた。魔剣といった風体のいかにも怪しい剣だった。


「まさか、カァくん……?」


「……なんだ、気付いてしまったか。驚くと思ったのにつまらない」


 【変化魔法:魔装具】は自らを武器防具に変化させるスキルだ。ベットサイドにゾウとなって立つか、ボルゾイとなってほっそりとたたずむか、どれも迷うところだった。


 魔装具:闇の剣から黒い大狼に変化した。それは子供を飲み込めそうなほどに巨大な狼だ。今度こそ、カッコイイを言ってもらいたい。


「かわいい!!」


「またか……」


「それにおっきい!! 私、こういう子が憧れだったの……っ!」


「やれやれ、君は憧れが多いな……」


 美人に首根っこに抱きつつかれ、興奮の鼻息を吹き付けられた。それに満足するとイゾルテを背に乗せた。すると彼女は子供に戻ったかのように喜んでくれた。


「さて、折り入って頼みがあるのだが……」


「嫌っ、今日は貴方の背中にずっといる……っ!」


「ありがたい申し出だが、君にも仕事があるだろう」


「はぁ……そうね……。着替える、政務室まで連れて行って!」


 服を脱ぎ出すイゾルテと、それに驚き背中を向ける使い魔カオス。男性扱いされていないのが不満な、いつも通りのひとときだった。


 軍服をまとい、化粧を濃くしたイゾルテは大狼の背にまたがり出勤した。今ではイゾルテに翻意を持つ者も増えていたが、巨大な怪物にまたがって出勤されては誰もが震え上がる他になかった。


「ふん……それで、話とはいつもの修行のことか?」


 政務室にこもると、イゾルテは書斎机にふんぞり返って足を机に投げ出した。


「ああ、明日の昼には戻る。行かせてほしい」


「この非常時にワガママな使い魔だ……。まあよかろう、行き先は?」


「東の【ロックフッド自治国】だ」


「帝国の植民地か。そんなところまでわざわざ鍛錬に行くのか」


「実は修行とは別件で、秘密の予定がある。詳細は秘密だ、君を驚かせたい」


 イゾルテは使い魔の隠し事が不満のようだ。一瞬、恨みがましい目をされた。


「わかった。だが送り出す者の不安もわかってくれ。貴様が斬られたと聞いたあの日は……思い知らされた……」


「光栄なことだ」


 イゾルテがカラスを腕に呼び、こちらがそれに従うと送り出すために窓辺に寄った。


「我が使い魔よ、どうか旅の無事を」


 そしていつものようにくちばしに口付けをすると、天へとカラスを放った。


「カオス……貴様のせいで、我は……命が惜しくなってしまった……」


 使い魔は雲の上まで舞い上がると、朝日を追うように東を目指した。求めるは【青い石】。使用した者にスキルポイント1をもたらすドーピングアイテムだ。


 【変化:大型動物Ⅱ】から続く次のスキルは【変化:人型】だ。あと1ポイントあれば俺は人間となれる。

 カラスの口からでは説得出来なかったイゾルテに、人間の姿で、『一緒に生きよう』とささやくことが出来る。


 東へ、東へ。ステータスの成長から恐らくは時速400~500キロメートルは出ている亜音速の翼で、カラスは運命を変えるために太陽を追った。



 ・



 それから太陽が昇り、沈みかけた夕刻頃、カラスは蛮族の女と出会った。


「魔物、減った。お前のおかげ」


「気にするな、行きがかりのなんとやらだ」


「ナントヤラ……とは、なんだ?」


「行きがかりの駄賃。君との共闘は目的のついでだった、と言いたかった」


 彼女は勇ましい戦化粧が印象的な、槍を得物とする女戦士だ。この地は第3章の舞台で、彼女はバロンの仲間になるプレイアブルキャラクター。年齢は24。ついでに言うと、だいぶ年下のバロンに惚れる。


「青い石、知らない。手伝うか?」


「こう見えて捜し物は得意なんだ。援護助かったよ、ナイラジャ」


「オレ、まだここで鍛錬する。見つからなかったら、呼べ」


「帝国を倒すためにか?」


 この辺りのモンスターはファフネシアの森とは比較にならないほどに強い。第3章の舞台なのだから、ゲーム的に見れば当然だ。

 巨大ムカデも一撃でしとめられる俺でも、この地のモンスターは強敵揃いだった。


「帝国、仲間、奪った……。みんな、捕まった……」


「ファフネシア側も似たようなものだ。だが少し前、バロンと呼ばれる男が立ち上がり、帝国海軍を2度壊滅させた」


「本当か!?」


「ああ、バロンならば帝国軍を倒し、必ず独立を勝ち取るだろう。そうなればナイラジャ、君たちにも追い風が吹く」


 未来ではこの女性も俺の仲間でトモダチだった。バロンを囲み、笑い合ったものだった。


「なぜ、青い石、必要か?」


「人間になるためだ」


「人間に……? はは、バカなやつ」


「そうだろうか?」


「人間より、鳥の方がいい。オレ、カオスが羨ましい」


「鳥は鳥で気楽に見えて大変なのだぞ?」


 ナイラジャの国は広い草原の土地だ。岩肌むきだしの不毛の土地も多く、彼らの多くは元々遊牧民をしていた。

 それが帝国に侵略され、民が荘園へと収容され、ファフネシアのように搾取されている。


 そんな彼らが帝国相手に生き抜くには、ここ、危険な魔の大地に踏み込むしかなかった。ナイラジャたち反乱軍は魔物たちと戦いながら、独立の機会をうがかっている。


「なぜ、人間になりたい?」


「好きな女を口説くためだ。俺が惚れた女はカラスではなく、人間なのだ」


「おお……っ」


 蛮族をやっていてもそこは女性だ。好いた好かれたの話に強い興味があるようだ。


「がんばれ、応援する!」


「ああ! 俺は人間となり、必ずあの女性を振り向かせてみせる!」


 色恋話に興味を持つナイラジャともう少し話すと、【青い石】を探しに再び飛び立った。魔物の姿があれば先制攻撃で叩き潰し、それを同化した。


 強そうな相手はスルーし、狩れそうな相手だけを空から狙った。同化による修行は上々。だが肝心の【青い石】はどこにも見つからなかった。



 ・



 結局、仮眠を挟みながら朝まで石を探し続けた。しかしようとして見つからず、帰りの時間が近付いていた。


「お前のチャート、ガバガバじゃないか」


 文句をつぶやいても、人化の鍵となる宝は降ってこない。やりこみプレイでいえば[オリジナルチャート失敗]といったところだった。


 この前の戦いでスキルポイントを1つ余分に得たことで、このオリジナルチャートへの道が開けたが、現実は甘くなかった。


「おお、カオス。お前の活躍、見てた」


「すまん、ずいぶん狩り場を荒らしてしまった」


「危険、減った。感謝」


 同化の術で魔物を喰らう妖しいカラスに、ナイラジャは信頼の笑顔をくれた。


「貢献出来たか。ならばよかった。しかしこちらは空振りだ、目当ての宝はついぞ手に入らなかった……」


 人間になりたかった。人間になってイゾルテに想いをぶつけたかった。カラスの姿のままでは、イゾルテは何を言っても聞かない。


「青い石、か?」


「そうだ。人に才能を授けてくれる特別な小石だ」


「小石。もしかして、これか?」


 ナイラジャの手に青く輝く不思議な石があった。


「でも、やわらかい。石とは、違う……」


「いやっそれだっ!! それをずっと探していたっ!! ゆ……譲ってくれっ!!」


「そうか、よかった! お前にやる!」


 ナイラジャはやわらかい青い石をカラスの頭上に投げた。カラスはそれをくちばしでくわえて、相手が心変わりする前に丸飲みにした。


 同化完了。石は俺に1のスキルポイントを授けてくれた。


「しかし、どこで手に入れた?」


「昨日、拾った。カオスが暴れてたところで」


「魔物が喰っていたか……。見つからぬはずだ……。よし、感謝の印にどんな姿にも化けてみせよう。馬から子猫、剣や盾にだってなれるぞ!」


「馬、乗りたい! 馬、やられて、しばらく乗ってない……」


「ならば君の馬となり、少しだけ狩りを手伝おう。人を待たせているが……君に恩を返したい」


「嬉しい! お前、カラスだけど、いい男!」


「はははっ、ありがとう、トモダチよ」


 黒く輝く青鹿毛のサラブレッドに化けると、ナイラジャが興奮した。彼女を背に誘い、辺りを駆け回り、騎乗射撃を援護すれば、俺もまた1匹の遊牧民だった。


 狩りが終わったのは昼過ぎのことで、大遅刻確定となったが、結果ロックフッドのレジスタンスたちに多くの食料支援をすることになった。


 ヘソを曲げるイゾルテの姿を想像しながら、太陽を横目に西へと引き返した。

 ついに人間になれる。イゾルテを心変わりさせられる。


「skill_tree(chaos)」


 飛びながらコンソールコマンドを唱え、最終目標であるスキルを獲得した。【変化魔法:人型】は赤い星々を彩るツリーの中で、燦然と輝いていた。


――――――――――――――――――――

status_window(chaos)


【LV】  23  →   26

【HP】 505  →  928

 【現HP】 95100/928

【MP】 460  →  556

 【現MP】  3465/556

【ATK】187  →  290

【MAG】406  →  555

【DEF】256  →  385

【HIT】513  →  580

【SPD】998  → 1208

【LUK】1117 → 1119


【獲得スキル】

 錬金系

 【錬金術:初歩】【合成術:初歩】

 【錬金術:発展】

 変化系

 【変化魔法:初歩】【変化魔法:発展】

 【補助魔法:初歩】

 【強化魔法:守】【強化魔法:時】

 【変化魔法:小動物】【変化魔法:小動物Ⅱ】

 【変化魔法:鉄化】

 【変化魔法:魔装具】new!

 【変化魔法:大型動物Ⅰ】new!

 【変化魔法:大型動物Ⅱ】new!

 【変化魔法:人型】new!


 吸収系

 【吸収魔法:初歩】【吸収魔法:発展】

 【吸収魔法:生命】

 共有系

 【共有魔法:初歩】【共有魔法:MP】

 大地系

 【大地魔法:初歩】

 感知系

 【感知魔法:初歩】【感知魔法:応用】

 ???系

 【深淵化:影人】


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