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・カラス育成パートその7 - 残SP:3 -

 イゾルテはウルザの無事をとても喜んでいた。ウルザと老少ロンバルトが恋仲であることにも驚き、その晩の彼女は明るかった。


 俺にとっても都合のいい結末だった。強欲のウルザとまで呼ばれた女が許され、生き続ける道を選んだ。これは既成事実となって、イゾルテの認識を少しだけ変えるだろう。


 新たな変化(へんげ)に期待するイゾルテにまだ力を得ていないことを伝え、明日は修行がしたいと暇を求めた。


「ええ、それでカァくんが大きな子になれるようになるなら私待つ!」


「ありがとう、後悔はさせない」


 了承を得るとその翌朝、レジスタンスが潜む魔物の森を訪れた。


「skill_tree(chaos)」


 いつものコンソールコマンドを唱えて星々輝く画面を表示させた。

 前回の戦いで獲得したスキルポイントは3。ここからは人化のためのラストスパートだ。変化ツリーから【変化魔法:中型動物】と【変化魔法:中型動物Ⅱ】を採用した。


 残りの1ポイントは【錬金術:魔物合成】に回した。ここしばらくステータスの成長が打ち止めとなっていたので、最終決戦に向けて強化を行いたかった。


 今日まで俺は力のある素材を己に同化してきた。この術はその幅を「倒したモンスター」まで広げるものだ。

 あまり気持ちのいい術ではない。だが愛する女性を守れずに後悔するくらいなら、なんであろうと喰らうつもりだった。


「ふぅ……まあ、こんなところだろうか」


 変化魔法の検証のために黒い狼に化けた。飛ぶのもいいが、今回は慣性を制御しやすい四つ足で獲物を探した。

 魔物は【感知魔法:応用】があれば、さまようこともなくあっさりと獲物が見つかった。


「ふんっ、それで狙ったつもりか?」


 森の奥に酸を吐く大カエルがいた。それは牛ほどの大きさのグロテスクな生き物で、全身のあちこちにイボがあって同化しがたい生物だった。


「【ストーンバレット】」


 君はカエルに石をぶつけたことがあるだろうか。まあ誰にでも無邪気な子供時代がある。カエルは岩の弾丸に潰され、動かなくなった。


「ぬ、ぬぅ……これは、きつい……。だがこれもイゾルテのため、イゾルテのため……よし」


 黒狼は【錬金術:魔物合成】の力を使い、カエルを黄土色の魂に変えた。そしてその光を飲み込み、我が力にした。


「ぬ、ぬぅ……カエルの味が、する……。喰ったことなど、ないが……うぐ……っ!?」


 気持ちを切り替えて次の獲物を探した。すぐに見つかり、毒々しい赤の巨大ムカデを発見した。


「なぜ今日はこんなのとばかり出会うのだっ!? くぅ、くぅぅっ?!」


 そのムカデはちょっとしたドラゴンくらいの体躯があった。味は考えないものとして、喰らえば相当の力になること間違いなかった。


「フッ、やるではないか」


 巨大ムカデは牽制のストーンバレットを硬い殻で弾き、シャドウボルトによる拘束を引きちぎった。

 こんなのが人里に現れたらとんでもないことになる。


 ムカデは酸を吐き、突進した。酸を避けた黒狼がカラスとなって舞い上がり、それが再び黒狼となって着地するのをそのムカデは見ることになっただろう。


「強い。言うなれば1章の隠しボスといったところか。だが相手が悪かったな」


 攻撃をかわしながらシャドウボルトを100本生成した。


「喰らわせてもらう。【弾幕・シャドウボルト】」


 巨大ムカデとその影に闇の矢が流星となって連射された。物理的な力ではないシャドウボルトは殻を貫通し、ムカデの影を剣山のように縫いつけた。


「そしてこれが、鳥類が放つ特大ストーンバレット――いや、【プチメテオ】だ」


 カラスに戻った俺は天空へと飛翔した。そして上空300メートルほどのところまで舞い上がると、特大のストーンバレットを生成し、それを真下の標的に放つ。


 石は万有引力の法則に従って最初はふわりと遅く、最後は問答無用の圧倒的な速度で、巨大ムカデごと大地を吹き飛ばした。


「まさか転生後に爆撃機をやることになろうとはな」


 土煙が収まるまで待って降下すると、真っ二つにちぎれて動かなくなった巨大ムカデを赤い球体に変えて喰らった。


「ウブッ?! ま、まず……まずすぎる……っ」


 酷い悪臭のするエビのような味だった。

 次はもう少しまともなモンスターであってくれと願い、黒狼となったカラスは森の魔物を喰らい続けた。


 フォレストゴブリン――臭い。それに食いでがまるでない。

 エルダートレント――木の味だ。食べてはいけない物だと味覚が拒絶する。

 巨大クモ――ノーコメント。

 巨大ナメクジ――海外ドキュメンタリー番組のサバイバリストになったような気分だ。

 編み目模様の大蛇――当然臭い。味は淡泊で今日の中では一番マシだ。


「今日はなんなのだ……っ。先日のワイルドボアはどこに消えた……っ、おぇぇぇ……っ」


 森のボスクラスを次々と喰らったことで、全身に活力があふれ、飛躍的な急成長をした実感がわいた。だが喉の奥から感じる臭気が吐き気となり術者を苦しめた。


「え、カオス……?」


 そこにプリムの声が響いた。


「カオスッ、この森で何をしているっ!」


 続いて敵意むき出しのバロンの声も響いた。バロンはこちらに先王の白銀の剣を抜いていた。


「ククク、貴様らか……」


「何をしていると聞いている!!」


「ちょ、ちょっとバロンッ、カオスは――カオスは、やっぱうちらの敵なの……?」


 バロンはイゾルテがらみのことになると、正気を失うところがあった。その一方でプリムとしては、イゾルテの使い魔カオスは戦いにくい相手のようだ。


「敵だ。主人を裏切る使い魔など、いるはずがなかろう?」


「で、でも……でもカオスは……。ジークなんでしょ……? 色は違うけど、同じ性格のカラスに見えるもんっ!」


「さあ、そんなやつは知らないな」


 返答を返すとバロンが弾丸のように跳ねた。父の形見の剣を片手に、憎きイゾルテの使い魔を斬らんと飛び込んできた。


「ダメッ、バロンッッ、あ、ああっっ!!」


 カラスはわざとそれに斬られた。あっさりと使い魔カオスを倒せたことに彼自身が驚いていた。


「これでいいんだよ、プリム……これは僕たちの敵、いずれ倒さなきゃいけない敵だったんだ……」


「う、うぅぅ……カオスゥ……。なんだかんだいいやつだったのにぃ……戦争なんて、うち嫌い……」


 カオスはプリムの手で丁重に埋葬された。


「【リターン】」


 否、リターンの魔法で斬られた自分の時を巻き戻し、埋められてしまった地中から顔を出した。


「ふぅ……意外と乱暴なやつだ。たっぷりとプリムに怒られるといい」


 これでジークとカオスは別の鳥ということになる。カオスはバロンに斬られてもういないのだから。


 目的を果たしたカラスは西方の【竜脈】におもむき、斬られて失った生命力と、術で消費した魔力を吸い上げてから、夜中にイゾルテの元に帰った。



 ・



 イゾルテはいつもの時間にいつもの政務室にいなかった。イゾルテは自宅の寝室でうつ伏せになっていた。


「え、カァくんっ?! ああっ、よかった……っ、無事だったのね……っっ!!」


「情報が早いというのも考え物だな。その様子だと、竜の翼内部でも俺の死が騒ぎになったか」


「そうよっ!! カァくんがあの子に斬られたって聞いてっ、私、仕事も手に付かなくなって……よかった……」


 我が主は確かめるようにカラスを胸に抱いた。森の奥からは距離があったとはいえ、報告を入れておくべきだった。


「俺は不死身だ。心配をすることはない」


「カァくんがいなくなったら私……もう何もできない……。貴方がいないと私、戦えそうもない……」


「君を慕う一匹の雄として光栄だ」


 落ち着くまで好きにさせた。落ち着くまでだいぶかかったが、彼女の興味は次第に今夜のお楽しみへと移っていった。


「よければ修行の成果をお見せしよう」


「い、いいのっ!? 見たい見たいっ、今度はどんな子になれるようになったの!?」


 まずは先ほどの黒狼に化けた。今日までキャワイイ動物にしか化けられなかった俺には、カッコイイこの姿をイゾルテに見せたかった。


「か、かわいいっっ!!」


「おいおい、かわいいはないだろう。カッコイイと言ってくれ」


「かわいいかわいいかわいいっっ、すっごくいいっ、その姿! カァくんかわいいっ!!」


「カッコイイと言われたくてがんばったのだがな……。まあいい、今に見ていろ……」 


 イゾルテは黒狼の首に抱き付いて、夢の大型犬に感動していた。黒狼はイゾルテの背に前足を回し、狼なりに抱き締めた。


「もう少し大きな生き物にもなれる。何か希望はあるか?」


「雪豹になって! 図鑑を用意しておいたのっ!」


「よかろう」


 イゾルテはその晩、放し飼いの雪豹を連れて散歩に出た。使用人たちは野放しの豹を見るなり両手を上げて逃げ出し、豹を使役するイゾルテに一目を置いた。


「さすがに迷惑だ。よければ別の動物に化けよう」


「バカめ、ここは我の土地だ。己の庭園で豹の腹をモフッてゴロゴロと鳴かせても、それはこのイゾルテの自由」


「そう言うな、ここは君の好きなゴールデンの成犬になろう」


「貴様は我の命令だけを聞いていればいい。……住まいに戻るぞ」


「う、うむ……?」


 反転してイゾルテは家に戻った。家の魔法の扉が閉まるなり、彼女は足下の白豹にこう言った。


「もうカァくんっ、外でそんなにかわいい子になられたらっ、私おかしな顔しちゃうじゃないっっ!!」


「それはそれで面白いと思うが」


「そういうわけにはいかないのっ! 私は最期のその時まで、悪いお姉さんでいないといけないのっ!」


「役目など捨ててしまえばいい」


 君はどんな姿にもなれるのだと、雪豹は彼女好みの黄金の毛並みを持つ長毛犬に化けた。


「カ、カカカッ、カァくぅぅぅーーんっっ♪ 好きっ、大好きっ、世界一かわいいっっ!!」


「何を言う、世界一かわいいのは君だ、イゾルテ」


 犬となったカラスは玄関に引き返し、もう1度散歩に行こうと主人を誘った。


 物語の第一章は既に佳境。こうして平穏に暮らせる時間ももう残り少ない。イゾルテもそのことがわかっているのだろう。


 その晩の散歩は夜更けまで続く長い散歩となった。


――――――――――――――――――――

status_window(chaos)


【LV】  21  →   22

【HP】 500  → 

 【現HP】 99600/500

【MP】 460

 【現MP】  4598/460

【ATK】 70  →  185

【MAG】198  →  400

【DEF】 99  →  255

【HIT】463  →  507

【SPD】805  →  990

【LUK】1111 → 1115


【獲得スキル】

 錬金系

 【錬金術:初歩】【合成術:初歩】

 【錬金術:発展】

 変化系

 【変化魔法:初歩】【変化魔法:発展】

 【補助魔法:初歩】

 【強化魔法:守】【強化魔法:時】

 【変化魔法:小動物】【変化魔法:小動物Ⅱ】

 【変化魔法:鉄化】

 吸収系

 【吸収魔法:初歩】【吸収魔法:発展】

 【吸収魔法:生命】

 共有系

 【共有魔法:初歩】【共有魔法:MP】

 大地系

 【大地魔法:初歩】

 感知系

 【感知魔法:初歩】【感知魔法:応用】

 ???系

 【深淵化:影人】


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