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・【バトルステージ3】大いなる遺産 - イゾルテを討て -

 戦いが圧勝で片付くと、そのチェスの駒にそっくりな魔導機械は言った。


「管理コードヲ、入力シテ、下サイ」


 8体は2列横隊で集結し、バロンにパスワードを求めた。再び動き出した敵にバロンたちは剣を抜いて警戒したが――


「管理コードノ、入力ガ、必要デス」


 ポーンが望むのは管理コードの再入力だけだった。


「殿下、これはもしや、古代遺産のたぐいなのでは……? 古代遺産の利用には合い言葉が必要だと、先王様よりうかがったことがございます」


「えー、でも合い言葉って言われてもさーっ? 手紙にそんなのなかったよねー?」


「ど、どうしましょう……? また襲ってきたら、困ります……っ」


 カラスはポーンの肩に飛び移り、高見の見物と決め込んだ。バロンが父の手紙を取り出して文面を読み返すも、まあそんなところに合い言葉があるはずもない。


「困りましたね……。これがロジェ王様が仕込んだ何かなら、不手際などあるはずがないのですが……」


「うん、そうですね、父上は几帳面な人でした。パスワードを伝え忘れたなんて――」


 その時、8体のポーンから高いシステム音が響き共鳴した。


「キャッ、な、何……っ!?」


「変な音っ、変な音鳴ったんだけどぉーっ!?」


 世界で最も多いパスワードは【password】だ。あるいは別の説では【123456789】であるとされる。

 魔導機械に仕掛けられたパスワードは、まさかの【password】だった。


「認証完了。コレヨリ、貴方様ノ麾下ニ、入リマス。管理者様ノ、オ名前ヲ」


「バロンッ、うちらのリーダーはバロンッ、うちらはレジスタンス【竜の翼】だよ!」


「管理者:バロン、組織名:竜の翼。バロン様、コノ身尽キルマデ、オ仕エ、イタシマス」


 カラスはポーンの肩であきれ果てた。先王はやはり好きになれない。このようなズボラなパスワードを設定する人種が俺は理解できない。

 いくら覚えるのが億劫だとはいえ、パスワードに【password】はないだろう……。


「やったぁぁーっっ!! この子たちすっごい強かったしっ、ちょー頼もしい戦力になるじゃんっ!」


「これが陛下の大いなる遺産……。危なかった……我々はもう少しで壊してしまうところでした……」


「よ、よくわからないけどやりましたね、姫様っ!」


 一方でバロンはいつもの過集中に陥っていた。彼はポーンを真正面から見上げて唇に指を当て、これまでの反乱計画から、魔導機械兵を運用した反乱計画へと軌道修正を始めているようだった。


「ジークッ、この機械仕掛けの兵は、遺跡にあとどれくらいあるのですかっ!?」


 それが突如こちらを見上げ、具体的なパラメーターを求めてきた。


「チェスのポーンに似たこれが101体。これとは別に特殊なヤツが7体いるぞ」


「えっ、そんなにっ!?」


 1体でも厄介な超兵器が101体+7体もいると知って、バロンはらしくもない大きな声を上げて驚いた。


「これを使えば当時帝国相手にいい勝負が出来ただろうに、使わずに伏せるとは、狂った男だ」


 バロンの耳にカラスの言葉は届いていなかった。バロンは再び没頭し、希望の芽生えた反乱計画に薄笑いを浮かべて軌道修正を進める。


 やがてバロンがこっちの世界に戻ってくると竜の翼の精鋭たちは前進した。さっきと同型のポーンが道を塞ごうとも、攻略法を見つけてしまえばもはや大した相手にはならなかった。


 むしろその都度、ふざけたパスワードを入力させられる息子に少し同情した。ポーンタイプ101体の認証をするのは容易ではなかった。


 残るは特別仕様の7体だけだ。一行はさらに遺跡深部へと踏み込むと、ついに【バトルステージ4-2】とでも呼べるエリアを訪れた。


「つ、強そう……っ」


「むしろ強くて上等っ!」


「これまでのがポーンで、これがナイトにビショップ。古代の人もチェスが好きだったんだね」


 ナイトタイプはパワーと機動力に秀でる近接型。姿はケンタウロスのような鎧人形だ。それが大部屋に6体いる。当然ながら馬よりも大きい。


 ビショップは杖を持った魔法タイプで、こちらもポーンより一回り大きい。現在はアイスボルトを次々と生み出し、こちらにそれを撃ち出そうとしている。


「ジークッ、迎撃を!」


「言われるまでもない。サポートは俺に任せてお前たちは突き進め」


「敵はあと7体っ、全ての外部装置を破壊すれば僕たちの勝利だっ!! 総員っ、突撃ぃっっ!!」


「イヤッハァーッッ、なんかスリルあるぅーっ!!」


 バロンら前衛が走り出すと、馬上槍を持ったナイトたちが突撃してきた。同時に、氷の弾幕がこちらに撃ち込まれる。

 しかしカラスがそうはさせない。氷の槍と闇の槍は空中で激突し、紫色の粒子と、粉々のダイヤモンドダストに姿に変えた。


「くっ、敵の動きが早すぎて当てられそうもありません……っ。ジーク殿、ナイトの足止めを願えますかっ!?」


「ああ、足止めも得意だ、任せてくれ」


 ビショップが魔法の連発のためにチャージをしている間に、MP無尽蔵のこちらは30本のシャドウボルトを用意した。

 機動力に秀でるナイトタイプも、影縫いで動きを封じてしまえばデク人形だ。


「闇の槍よ、いささか卑怯な気もしないでもないが……黄金の騎士たちを大地に縛り付けよ!! シャドウボルトッッ!!」


 1体に付き5本。合計30本のシャドウボルトをカラスは一斉射撃し、重量級の魔導機械兵ナイトタイプの動きを封じた。


「さらにおまけだっ、【プロテクション】! 【レジスト】! さあ行けっ、バロンッッ!!」


「はいっ!!」


 プロテクションは物理を防ぐ魔法盾。レジストは魔法を防ぐ魔法盾だ。それを全ての者に付与すれば、勝利が確定した。


 ナイトが振るった馬上槍をプロテクションが防ぎ、ビショップが苦し紛れに撃ったアイスボルトをレジストが防いだ。


 その間にバロンたちは敵の背後に回り込み、外部装置を破壊してゆく。その数はたった7つだ。バロンとプリムの飛び抜けた戦闘力があれば、あっという間の電撃戦で全ての装置が叩き斬られていた。


「やったぁぁーっっ、すごいすごいっ、ちょー強い子たちも仲間にしちゃったぁーっ!!」


「な、なんという成長ぶりでしょう……。殿下は日に日にお強くなる……」


「我々がいかに凡才か、突き付けられた気分になるな」


「わ、わかります……。今のバロンは、まるで別人のよう……」


「ああ、俺も白痴を演じていた頃のバロンも好きだった。素朴で、やさしくてな」


 片付くと最強の魔導機械兵たちがバロンの前に集い、管理コードを求めてきた。バロンはパスワードを宣言し、キングとしてナイトとビショップを麾下へと入れた。


「ジークさん、奥に続く通路があるようですが、何かご存じで?」


 魔導機械兵をバロンたちに任せていると、隣にいたルディウスにこの先のことを聞かれた。


「いや、ここから先は俺も知らない。だが現在位置の予測は付くぞ、ここは海の底だ」


「海の底……。ではここはいったい、なんなのですか……? そして貴方はいったい……」


「まあ永遠に道が続くなんてことはない。さすがにもうじき終点なのではないか?」


 強力な魔導機械兵団108体に、膨大な軍事物資に武器防具。探索の成果は十分だったが、先王の真意を求めてさらに先へ進むことになった。


 道はさらに下へ、下へ、海の底へ、底へと続いていた。白いカラスはぼんやりと輝く道しるべとなり、彼らを先王の最後の遺産の元に導いた。


 この遺跡の終点はコントロールルームだ。古代の器機が集まる特別な部屋にたどり着くと、彼らはそこに剣を見つけた。


「間違いありません、これはロジェ王陛下の白銀の剣です」


 装置のすぐそばの床に先王の剣が突き刺さっていた。白銀に輝くその優美な刃の先には、先日バロンが受け取った物と同じ羊皮紙の手紙が串刺しにされていた。


 バロンは父の剣を継承し、恐る恐るといった様子で手紙に目を通した。


――――――――――――――――――――――――

 バロンよ、帝国が畏れし力がここにある。

 かつて神代の時代、人と神々が争った時代に、この遺跡は海底要塞レムリスと呼ばれた。

 この地はお前の策を実現するための最高の矛と盾となるだろう。


 さあ受け取るがよい。我が魔導機械兵団と要塞レムリスをもって、ロムルス帝国を倒せ。我を討ちし裏切り者、イゾルテを倒せ。


 そなたがイゾルテを倒したその時、独立の炎が大陸中に広がるだろう。お前がイゾルテを倒し、国を取り戻すことで我が策は成る。

 そこから先はそなたの才覚に任せよう。よいか、何があろうとも、必ずイゾルテを討つのだ。


 ファフネシアの王者バロンよ、決してためらうな。民のために鬼となり、己が役目を果たせ。お前の手でファフネシアの独立を勝ち取るのだ。

――――――――――――――――――――――――


 レジスタンス一行は先王からのメッセージに震えた。彼らは長くイゾルテに抑圧され、貧しい生活と労役を強いられ、誇りすらも奪われて生きてきた。


「父上……。必ず……必ず貴方の策を成就させて見せます!! 僕は必ずイゾルテを倒し、帝国を退ける!!」


 そこにこの手紙だ。暗い闇の中にあった彼らに希望の炎が灯り、より強く反乱を決意させた。


「がんばろっ、バロン!」


「何があってもあたし、バロンを支えるから……っ」


 ルディウスが感慨に涙を浮かべ、随伴していた剣士たちも希望の笑顔を浮かべていた。


 そんな中、カラスだけが暗い目で彼らを見下ろした。静かな怒りすら混じらせながら、まだ裏があることに気付かない愚か者共を冷たい目で見守った。


 イゾルテに暴君を演じろと命じておいて、己が息子にイゾルテを討てと命じる先王の傲慢さに、反吐が出る……。


「わっ、な、なに……!?」


「な、なんか光ってるんですけどぉーっ!?」


 コントロールルームに光が宿り、遺跡全体が揺れ始めた。先王が遺した最後の遺産は、この遺跡そのものだった。

 半島北部に突き刺さっていた海底要塞レムリスが、再び動き出し、海上へと出ようとしている。


「ヨウコソ、海底要塞レムリスヘ。認証コードヲ、入力シテ下サイ」


「ま、また……? えと、パ、パスワード……」


 先王は策略の天才だ。だが全てのシステムを同じパスワードで管理する、最低の管理者でもあった。


 この日、海底要塞レムリスは半島北部に浮上し、竜の翼に奇跡の移動拠点を与えた。

 一方で俺はバロンたちの希望に輝く笑顔に堪えられなくなり、カモメのように羽ばたいて海上から姿をくらました。


 誰も本当のイゾルテを知らなかった。一人くらい、彼女の真意に気付く人がいてもいいというのに、彼らは目先の希望に目をくらませ、イゾルテを憎んだ。


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