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・【バトルステージ3】大いなる遺産 - 古代遺跡 -

 翌朝、カラスは早起きをした。バロンたちが早くに出発するためだ。

 しかしイゾルテを起こさずに家を出るつもりで起き出すも、すぐに気付かれてしまった。


「おはよう、カァくん……」


「おはよう、寝ていていいぞ。毎日言っているが、君は働きすぎだ、無理はいけない」


「そうね。だけど今日は大切な日だもの……」


 我が主はベッドから身を起こし、冒険に行こうとするカラスを腕に誘った。カラスにはそれを拒む理由などなかった。


「ああ、そうだな。だが君がそのまま寝ていても結果は何も変わらないさ」


「そうだけど……黙って行かれるのは嫌」


 今回の作戦、イゾルテと俺の間で意見の齟齬があった。イゾルテは密かな監視とささやかな介入を望んでいたが、俺は説得して方針を変えてもらった。


 戦いに加わらないことにはスキルポイントがもらえないのだから、わがままを言ってでも参戦しなければならなかった。


 これから始まるのは【バトルステージ3】にあたる戦いだ。正史ではこれにイゾルテもカオスも出撃しない。

 正史におけるカオスの役割は、バロンの監視と、魔導機械兵と呼ばれる兵器の鹵獲運用の可能性を示すことだった。


「カァくん、お願いがあるのだけど……」


「ああ、なんでも言ってくれ、我が主よ」


「また子犬になった貴方が見たいの……。貴方をいい子いい子したら、今日一日がんばれそう……」


「わかった。気が抜けそうな頼みだが、君にはどんなわがままでも言う権利がある」


 変化魔法で先日のゴールデンレトリーバーの子犬に化けた。カラスとしてはやや不服であるのだが、イゾルテはそれに目を輝かせて抱き込んだ。


「やわらかい……っ、いい匂いがするっ、はぁぁぁ……っっ、ちっちゃい……っっ!」


「それはよかった。他に注文は?」


「かわいく鳴いて!」


「キュ、キュゥゥーン……?」


 ベッドでもだえ、身を揺すり、あまりかわいさにはしゃぎ回るイゾルテの姿は、総督府の他の連中にはとても見せられない赤裸々なものだった。



 ・



 イゾルテへのエネルギーの充填が完了すると、別れを告げてバロンのところに飛び立った。

 バロンは街道を避け、森を抜けるルートから目的地を目指した。昨日の時点でルートは開拓済みで、俺やイゾルテにも筒抜けた。


 隊は人数にしてたった7名のごく精鋭。遺跡の存在を帝国やイゾルテに気付かれては元も子もない状況なのだから、賢明な判断だった。


 3時間強をかけて彼らが道なき道を進むと、目的の遺跡がようやく見えてきた。

 そこまで彼らがやってくると黒いカオスは白いジークに化け、遺跡の入り口にたたずんで待ち伏せをした。


「ジ、ジークッ!?」


「出たっ、イノシシ乱獲鳥っ!!」


 白いカラスは翼を羽ばたかせてプリムの腕に飛び移った。


「おかしな名前を付けないでくれ、プリメシア姫」


「アンタのせいであの後すっっごくっ、大変だったんだからーっ!!」


「お肉、お肉、お肉……揉んでも揉んでも、お肉がなくならないの……お肉、お肉、お、お肉、もう、嫌……」


「それは悪いことをしたな」


 このままでは話が進まないので姫からバロンの肩に飛び移った。


「バロン、先王の遺産ならばこの先だ。欲しいならば付いてこい」


「ど、どうして君がそのことを……!?」


 それは俺が意味深キャラを演じることにしたからだ。俺はバロンを王の遺産へと導く白い鳥を演じ、遺跡の奥へと彼らを導いた。


「こっちだ」


「ロジェ様はなぜ、このような場所に……?」


「さてな、故人のことは俺にもわからん。答えは君たちが見つけ出せばいい」


 石造りの遺跡は古く、明かりがなければとても進めないくらいに暗かった。地下へ地下へと彼らを導くと、隠し扉を開いてやった。


 像を特定の方角に振り向かせると、隠し扉が開く仕組みだ。それをシャドウボルトで無理矢理に実行した。


 すると隠し扉が音を立てて開き、その奥に隠された巨大備蓄倉庫があらわになった。


「こ、これが、国王陛下の遺産……! なんという物量でしょう……!」


「見て見てバロンッ、これお酒だよっ! こっちは薬っ! それこっちは剣と鎧がズラァァーッッ!! すっごーーっっ!!」


 膨大な数の武器防具、消毒や麻酔のための蒸留酒、医薬品、その他諸々の軍需品が広い倉庫にひしめいていた。


「父上……貴方は本気で、勝つために自分のお命を……」


「バロン、だ、だいじょうぶ……?」


「ありがとう……少し感慨に浸ってしまっただけだよ……」


 サリサが震えるバロンの手を握った。サリサにとってはそれだけでも精一杯の行動で、バロンは共に苦難を堪えてきたガールフレンドの心遣いに微笑んだ。


「見て見て見て見てっ、この鎧っ、うち宛てだって!! 隣のやつはバロンのために用意した鎧だってーっ!!」


 ようやく気付いたようだ。その大部屋には目立つ軽鎧が2つあり、それぞれにバロンとプリムの名前が刻まれたプレートが吊されていた。


「なんと……っ、陛下はプリメシア姫の参戦まで見抜いていたのですか……!? おお、陛下、貴方はどれだけの慧眼をお持ちなのです……!」


 ロディウスは先王の信奉者だ。先王は全てを見抜いていたのだと大いなる遺産に感激した。

 プリムは疑うことなくその軽鎧を身に着け、バロンも疑問を抱えながらも同様に身に着けた。


 真実はカラスだけが知っている。

 先王が遺したのは軍のための武器防具だけだ。酒、医薬品、その他、バロンとプリムの防具はイゾルテが手配した。


 せっかく備蓄した物資も立場が災いして竜の翼に援助できない。彼女はこの機会を使って彼らに莫大な軍事物資を流し込んだ。


『せっかく討たれるのだから、華やかな方がいいでしょう……?』


 イゾルテはこの鎧を身に着けた二人に討たれることをお望みだ。とても同意できないが、装いを新たにしたバロンとプリムの姿は様になっていた。


「これで大きく戦いが楽になりますね……! 装備の購入費用と手段に頭を悩ませてきましたが、これでどうにかなります! では、持てるだけ持って帰りましょう!」


「待って、ルディ」


 バロンはもう気付いたようだ。遺産の全てを受け取った気になっているルディウスをバロンは止めた。


「父上は精鋭を用意しろと手紙に遺しました。だけど、まだ精鋭の出番は来ていない」


「言われてみれば、少し変ですね……?」


「ジーク、君は何か知っている?」


 毛繕いをしていると注目が集まった。


「ああ、確かにこの先は危険だ。この先に進むならば、君たちのような少数精鋭であるべきだろう」


 危険があると言うと、別段精鋭でもないサリサがすくみ上がった。正反対にプリムはウキウキを身体を弾ませる。

 今日は何かを斬り倒したい気分だったようだ。


「武器防具に物資。確かに素晴らしい過去からの贈り物だけど、父上がこの程度の策で満足するとは思えない。奥にもっと大きな何かが隠されているはずです。案内してくれますか、ジーク?」


「任せてくれ。奥の危険なエリアに案内しよう」


 深部へと彼らを導いた。これより【バトルステージ3】の始まりだ。下へ、下へ、奥へ、奥へと彼らを誘うと、その先で我々は奇妙な像を発見した。


 それはポーンだ。チェスのポーンにどこか似た像たちが遺跡の広い通路に直立不動で立っていた。


「この像は――」


 先頭のバロンがそうつぶやき、慎重に像へ近付いた。


「はっ!? 総員戦闘準備っっ!!」


「う、嘘ぉー!? 像が動いたぁー!?」


「わ、わわわわ……っっ!?」


 それこそが本ステージの敵にして大いなる遺産、魔導機械兵ポーンタイプだった。


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