・カラス育成パートその3 - 使い魔のカラス、主人の前で子犬に化ける -
その晩、イゾルテに今日の話をしてやった。我が主は自宅ではやや裸族趣味で、今日も身体にシルクのシーツを巻き付けてベッドに愛しのカァくんを手招いた。
「ふふ……それ、本当に本当……?」
「ああ、本当だ。疑いたくもなるだろうが、今年はハムが安くなること間違いない」
「だったら塩が必要ね。暴君の倉庫から塩を横流しする悪い人が出なければいいけれど……」
「君は全てをバロンの手柄にしてしまうつもりか」
「違う、これはカァくんのお手柄」
「む、むぅ……。少しはしゃぎ過ぎたようだ……」
竜脈を使った魔力の吸収。それを使ったシャドウボルトの弾幕。彼女に包み隠さずにカラクリを伝えていた。
「そんなカァくんにご褒美があります」
「俺に? なんだろうか……?」
「とある遺跡で見つけた品なのだけど、カァくんはこういうのが好物でしょう?」
イゾルテは枕の裏から光る何かを取り出して、腹の上のカラスに差し出した。それは水色の輝きを持つ宝石――いや、魔力の塊だった。
「ずいぶんと高価そうだ。売れば将来の軍資金になるのではないか?」
「カァくんの力にして」
「ありがたい話だが、さすがにこれは……」
「私が死んだ後、貴方があの子を守ってくれるのだもの。これで力を付けて、あの子を守って……」
また始まった。イゾルテは決して変わらずに己の死を願っていた。
「君を死なせなどしない。必ず幸せになってもらう」
「ありがとう、その言葉だけで十分」
「十分なわけがあるか! 約束は覚えているな!?」
「約束……?」
「いつか人間になれたら、ガールフレンドになってもらうぞ」
小さな生き物は翼を精一杯広げて主張した。
「ふふ……貴方のガールフレンドになれるなら喜んでなる」
「その言葉、後悔しても知らんぞ」
主人が腕を差し出すので、カラスは腹からそこに飛び移った。
「貴方を創ってよかった……」
「フッ、君はその言葉を今夜もう一度口にすることになる」
あの戦いでスキルポイントを2つ手に入れていた。そのスキルポイントを使って、俺は変化魔法と強化魔法のスキルツリーを発展させていた。
修得したのは【強化魔法:守】と【変化魔法:小動物】だ。
【強化魔法:守】は俺に新たなる魔法【プロテクション】と【レジスト】を与えてくれた。いずれはイゾルテを守る盾となるだろう。
そして【変化魔法:小動物】はその名の通りだ。これを採用したことにより、一定サイズ以下の猫、犬、鳥などに変化することが可能になった。
「犬と猫、どちらが好きだ? まあ、カラス以外の鳥でもかまわないが」
「カァくんが一番好きよ」
「そういう話ではない」
「カラスの次は……犬かしら? ゴールデンレトリバーが好きよ」
「それは少し難しい注文だな……。まあ、やるだけやってみよう」
カラスは新たな術を使い、小動物の枠には収まらない大型犬への変化を試みた。すると――
「カ、カァくんっっ!!」
「ウブッ?!」
犬に化けた俺は抱きすくめられた。
「かわいいっ!! そんな力があるならっ、もっと早く見せてくれたらよかったのにっ!」
手足を見る限り大型犬とは言い難い。姿形はゴールデンレトリーバーだったが、体格は子犬だった。
「他の生き物にも化けられるぞ。……おい、どこを見ている?」
子犬は吊し上げられた。敬愛する主人の目は子犬の股間にあった。
「かわいい……っっ」
「男に対してそれは失礼だっ!!」
「ふふっ、ふふふふっ、貴方を創ってよかった!」
「そうだろうとも!」
暴れて拘束を抜け出した子犬は次に猫に化けた。別にアメショになりたいわけではなかったが、アメショになっていた。
「どうだ、より臨機応変に――」
「ぐわっ、な、なぜ吊し上げるっ?!」
万歳をさせられたポーズで下を見れば、立派なωがそこにあった。無論、もふもふだ。
「か、かわいい……っっ!!」
「失礼だと言っているだろうっ!! そもそもなぜ人のそこを見る!?」
「かわいい子がいたら、確かめずにはいられないものよ。女の子にも化けられるのかしら……?」
「仮に出来たところでする気はないな」
猫の次は文鳥に化けた。文鳥にデレデレになるイゾルテを見ると、なぜだか少しイラッとしたのでカラスに戻った。
「これでわかっただろう。俺はいつか人間になる。人間になったら、彼女になってもらうからな」
「ふふ……はい、喜んで」
「そ……そうか……。これからも努力しよう……」
チャートさえ破綻しなければたどり着ける。必ず俺は人間になる。
その後、イゾルテのオーダーでリスになったり蝶になったり期待に応えていると、お疲れの彼女はいつの間にか寝入っていた。
・
一方、バロンはバロンでその頃大変だったようだ。激務を終えた彼が湖畔で休んでいると、うとうとしているうちに左右を囲まれていたそうだ。
「おはよーっ♪」
「お、おはよう、バロン!」
驚く間もなく左右の手を取られ、胸に抱き込まれたとか。
「昼間のバロン、かっこよかった! 鍛えればうちの右腕くらいにはなるかもー?」
「うんっうんっ、かっこよかった! あ、あたし、ぼんやりしてるバロン、好きだったけど……今のバロンも、す……好き……」
「あ、ずるいっ、うちもバロンが好きっ! 父上蹴り飛ばして来たかいあったっ!」
「こ、こっち向いて、バロン……ッ」
俺が歴史を変えてしまったせいで少しややっこしいことになっているようだ。スポーツ感覚で恋愛をするプリムに影響されて、控えめなサリサまでぐいぐいと迫って来た。
イゾルテが鼻を高くして、私の弟はこんなにモテモテだと自慢してきたほどだ。
戸惑うばかりでハッキリした態度を取れないバロンに、ライバル同士は顔を合わせて笑い合った。
どうもこの2人、気質はまるで異なるのに不思議と気が合うようだった。
「じゃ、帰ろっか、サリサ!」
「はい、姫様……!」
「…………え?」
2人は嵐のようにアタックを仕掛けてきて、嵐のように去っていった。取り残されたバロンはしばらく湖畔でほうけていたと、イゾルテの口から伝え聞いている。
まったく罪深い色男もいたものだった。
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【LV】 20 → 20
【HP】 260 → 260
【MP】 180 → 180
【現MP】 1635/180
【ATK】 51 → 51
【MAG】 85 → 110
【DEF】 62 → 62
【HIT】216 → 216
【SPD】408 → 408
【LUK】1090 → 1090
【獲得スキル】
錬金系
【錬金術:初歩】【合成術:初歩】
【錬金術:発展】
変化系
【変化魔法:初歩】【変化魔法:発展】
【補助魔法:初歩】
【強化魔法:守】new!
【変化魔法:小動物】new!
吸収系
【吸収魔法:初歩】
感知系
【感知魔法:初歩】【感知魔法:応用】
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