・EX1食料調達 - ずーっとカラスのターン! -
バロンの参入でレジスタンスは変わった。それは前リーダーのルディウス元宰相が王家第一主義の頑固者で、カリスマ性にやや欠けているという側面もあった。
だが最大の要因はバロンの若さとバイタリティがもたらす牽引力だった。今日この日のために雌伏を続けてきたバロンは、白痴の通り名とは真逆の行動力でレジスタンスを改革した。
イゾルテのようにデスクにかじり付き、イゾルテとは正反対に仲間と協力し合って、彼はキビキビとこれからの戦略を組み立て直していった。
「お見事でございます、バロン殿下。やはり貴方は軍略の天才、先王様が今の貴方のお姿を御覧になられたらさぞやお喜びになられるでしょう」
「今は過去を振り返っている場合じゃないよ、ルディ。僕たちは負けられないんだ」
ルディウスは文官、悪巧みは得意でも軍略は専門外だった。バロンはここ数日で戦いの体制を整え、勝利のためにいかに反乱を起こすか具体的な計画を組み上げようとしていた。
「どう考えても正攻法ではイゾルテに勝てない……。僕たちの命を掛け金にして、大バクチに挑むことになる……」
「心中お察しいたします、殿下」
過集中に陥ったバロンは頭を抱えた。反乱を成功させるにしても、このままでは多くの被害が出る。それではイゾルテを倒しても、ロムルス帝国相手の独立戦争を続けられなかった。
「このままじゃ無理だ……。何か他に、好材料はないの……?」
「今のところ他に情報は入っておりません」
「そう……これなら父上とのチェスの方がまだ簡単だな……」
「考え過ぎでございます、バロン様。待てば何か動きがあることでしょう」
バロンは手元の資料を掘り返し、それを最初から読み返し始めた。頭の回転が早すぎるというのも考え物だ。すぐに結論にたどり着き、思考の袋小路にぶつかってしまう。
レジスタンスのリーダーとして、バロンは頭を抱えて何度も何度もこの反乱を成功させる方法を模索していた。
そんな折り、作戦室にプリムが押し掛けてきた。その後を追うようにサリサがやってきて、2人は自分たちに気付かないバロンを囲んだ。
「バロンッ、狩りに行こうよっ、狩り!」
「無理しないで、バロン……。酷い顔だよ……?」
バロンは疲れた顔で2人を見上げた。人の言葉が頭に入らないようだった。
「え、何……? 今忙しいから……」
「遊びじゃないよっ、食料調達だよ! サリサッ、そっち引っ張ってっ!」
「は、はい、姫様……!」
バロンは女の子に左右を囲まれて、立たされて、作戦室から引っ張り出された。
階級に口うるさいルディウスもこれには何も言わなかった。
「ルディウスさんも手伝って!」
「私もですか?」
「ワイルドボアがいっぱいいるところを見つけたの! みんなでお肉を集めて元気になろーっ!」
「バロン様、答えが見つからないのならば、モンスター相手に訓練をされては? 私はまあまあ合理的な見解かと存じますが」
バロンは不服そうだったが、砦の外に運び出されると抗議を止めた。爽やかな森の息吹を嗅いで気を変えたのだろう。
さあ、これより【バトルステージEX1】の始まりだ。俺も変化魔法で白いカラスのジークに化け、シレッと稼ぎステージに参加した。
「私も手伝おう」
「え、ジークさんっ!?」
「あ、あの時の、魔法の白いカラス……!」
「また鳥が喋った! ファフネシアの鳥ってみんな喋るのっ!?」
「まさか、喋るのは私だけだ。この翼で狩りを援護してやろう」
未来でそうしていたようにバロンの肩に止まった。しっくりとくるが、バロンは白いカラスのすることに少し驚いていた。
「嫌ならそちらのお嬢さん方の肩に移るが、どうする?」
「嫌じゃないけど……お腹の毛が少しくすぐったいよ……」
「そうか、特別に君になら触らせてやろう、疲れが癒えるとこれでも評判だ」
プリムの案内で森を進み、その先でワイルドボアの群れを見つけると、ステージEX1を始めた。
・
バロン元王子が軍略の天才なら、プリメシア王女は武の天才だった。
「ちょ、ちょっとプリムッ、こんな大群だなんて聞いてないよっっ!!」
「いけるいけるっ、バロンもルディウスさんも身体動かした方がいいしっ、みんなでやっつけよーっ!!」
彼女は堂々と前に出て、迫り来るワイルドボアを迎え撃った。サリサもまたショートボウを持ち、非力ながら弓を放つ。
ルディウスも止むを得ず杖を構え、ファイアーボルトをワイルドボアに打ち込むと、巨大なワイルドボアが怯んだ。
ワイルドボアは強い魔力を受けて巨大化した危険なイノシシだ。体高だけでも女性の背丈ほどがあり、それが8匹も目の前にいる。
否、彼らが突撃してきた1体を連携して倒すと、さらにもう1匹が森の奥から現れた。
ここはレベル上げのための稼ぎステージだ。それを知らない当事者からすれば悪夢のような出来事だが、敵の増援に終わりはない。倒せば倒しただけ、森の奥からワイルドボアが現れて、波状突撃を仕掛けてくる。
「腕、鈍っちゃったんじゃない、バロン?」
「姫様、強いです!」
「へへーんっ、ありがと、サリサ! サリサも上手くなってるよーっ!」
前衛はバロンとプリム。後衛はルディウスとサリサで2匹目、3匹目の突撃を彼らは協力して防いだ。序盤ならばこんなものだろうといったペースだった。
「ちょっとそこの鳥っ、手伝うって言ったじゃん!」
「言ったとも。だが、手伝ってしまっても構わないのか?」
「良いに決まってるしっ!」
「ならば、ごっそりといただくことにしよう。【経験値】を」
未来のカラスは過去のカラスに示した。【竜脈】から魔力を吸い上げたのは、この1度限りの稼ぎステージで貴重な【経験値】を荒稼ぎするためである、と。
「まずは66本! 闇の槍よっ、鈍重なる豚どもを穿てっ!!」
ワイルドボア1体あたり22本ずつ、俺はシャドウボルトの弾幕を放った。放たれた槍は光線のように輝き、危険なイノシシに全弾命中した。
「え、えええええええーーっっ?! ファフネシアの鳥って、みんなソレできるのぉーっ!?」
「出来たりもするし、出来なかったりもする。……おっと3匹倒したら、3匹のおかわりが来たぞ」
カラスは続けてシャドウボルトを生み出した。次は80本だ。手前でバロンたちが連携してワイルドボアを倒すのを眼下に、奥の4匹に闇の槍を放った。
成功、撃破、だが増援は途絶えない。倒せば倒しただけ新手が現れ、ステージEX1の舞台にワイルドボアが補充された。
「うわっ、また出て来たぁーっ!?」
「レジスタンスの台所事情を考えればありがたいことですが……さ、さすがに……」
「いや、退かずに狩ろう! もっと、もっと食料が必要だ!」
もっと欲しいそうなのでシャドウボルトを再びぶっ放した。あれだけの巨体の怪物が椀子蕎麦のように現れるのはいくらなんでも夢を疑いたい光景であったが、目前に広がるイノシシ肉は消えたりはしない。
「信じられません、まだ撃てるだなんてどれだけの魔力を……」
「白いカラスさん、すごい……!」
「バロンにカッコイイところ見せようって作戦だったのにーっ、こらーっ、うちより目立つなぁーっ!」
「プリムがカッコイイことは小さい頃から知っているよ」
闇の槍を装填し、放ち、再び装填する。その繰り返しを3~4分続ければ、ついにステージの終わりが訪れた。
「バ、バカな……こんな、バカなことが……」
ワイルドボアの死骸が山となって積み重なり、辺りを埋め尽くしていた。正確にはわからないがその数、軽く100体を超えている。
チャート通りの戦果ではあるが、俺としても目を疑うような光景だった。
「さて、そろそろ俺は失礼しよう。また戦いの機会があれば、ひょっこりと顔を出すかもしれない」
「ちょ、ちょっとぉぉーっ?! こ、このワイルドボアの山っ、山ってか海っ!? これどうしろって言うのさぁーっ!?」
「さ、さすがに多いと思います……」
「……すまん、レジスタンスの力でどうにかしておいてくれ」
大量虐殺を働いたカラスは現場から離れ、茂みの中に潜むと黒いカラスに戻った。
コンソールコマンドを唱え、目当て通りに自分がレベルアップしたか確認するためだった。
「status_window(chaos)」
唱えるとそこに成長の成果が現れた。俺は序盤では到底あり得ないレベルに到達していた。
ただし俺はサブキャラにして小動物キャラだ。総合的な成長力は低く、この通りスピードばかりに偏って成長していた。
「フッ、いずれ音速の壁を超える日がくるかもしれないな」
翼を羽ばたかせて天に飛翔すると、俺は戦闘機のように通常あり得ない加速をしていた。
今なら新幹線ならず、リニアモーターカーと併走が出来そうだ。
「何はともあれよし。これでイゾルテを守る足がかりが出来た」
だが彼女は破滅をお望みだ。策略とはいえ罪を重ねた彼女には殉死こそが救いなのだろうか。
雲よりも高く舞い上がったカラスは天空を下り、再びバロンの監視に戻った。
今夜はイゾルテに沢山の土産話を聞かせてやれそうだった。
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status_window(chaos)
【LV】 1 → 20
【HP】 200 → 260
【MP】 100 → 180
【ATK】 33 → 51
【MAG】 49 → 85
【DEF】 47 → 62
【HIT】147 → 216
【SPD】266 → 408
【LUK】1010 → 1090
【獲得スキル】
錬金系
【錬金術:初歩】【合成術:初歩】
【錬金術:発展】
変化系
【変化魔法:初歩】【補助魔法:初歩】
【変化魔法:発展】
吸収系
【吸収魔法:初歩】
感知系
【感知魔法:初歩】【感知魔法:応用】
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