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・カラス育成パートその2 - 海から来たトモダチ -

 夜が明け、太陽が黒い羽根を焼き、日が暮れて辺りに寂しさが漂っても、カラスはただたたずんだ。

 高まる魔力は限界を知らない。夜が更け、天に真夜中の星座が昇ると、事件が起きた。

 これまでの雑魚とは比較にならないモンスターと俺は遭遇してしまった。


「明日の昼には帰る。それまでここを貸してくれないか?」


「ココ、俺ノ、場所……」


 得体の知れない紫色の影だった。この古戦場と関係しているのか、していないのか、わからないが相当の力を持つ怪物だ。


「会話は出来るようだが、会話にはならなそうだ。もう一度言う、明日の昼には去る」


「オマエ、美味ソウ……。宝石ミタイ、キラキラ……」


「ありがとう、先日不味そうと言われて少し傷ついていた」


「ゴ馳走ダァ!!」


 カラスは天空に飛翔した。得体の知れない影はイソギンチャクのように触手を伸ばしてきたが、そんなもので俺を捕らえられるはずもない。


「チャートにはこんな者に襲われるとはなかったな。まあいい、試し撃ちさせてもらおうか。闇の弾幕よっ、ヤツを射抜けっ、【シャドウボルト】ッッ!!」


 先に言っておくが、俺は弱い。弱い分は手数で勝負だ。月を背にカラスは闇の槍を30本ほど用意すると、触手をこちらに伸ばしてくる怪物にそれを一斉射撃した。


「ウ、ウグ……痛、イ……」


「化け物め、まだ余裕があるか。ならば50本だ!」


 弱い俺がこれだけの術を使えるのは竜脈から吸った【MP】があるからだ。怪物の攻撃をかわし、再び俺はシャドウボルトの雨を降らせた。


「痛イ……」


「なんて頑丈な……いや、俺が弱いのか……? 痛いなら諦めて去れっ!!」


「マスマス、美味シソウ……!! オマエ、絶対、喰ウ!!」


「こ、こいつ……っ」


 このままでは先の計画に支障が出る。このままでは竜脈から吸ったMPで無双するというチャートが崩れてしまう。

 このままここに居着かれても困る。魔力を吸いに来るたびにコレに襲われてしまう。


「そこの人っ、そいつを足止めして!!」


 ところがそこに若い女の声が響いた。俺はその声を知らないのに、なぜか既に知っていた。無意識に身体が動き、要求されるがままにシャドウボルト50本を再装填させた。


「足止め、それならば得意だ! ゆくぞ、準備はいいかっ!?」


「うんっ、やっちゃってっ!!」


 不思議な一体感を覚えながら、カラスは再び天より闇の槍の雨を降らせた。ただし今度の狙いは怪物の影だ。影縫いの力が怪物を地に縛り付けた。


 すると花畑の中から一輪の可憐な女が現れた。銀色の髪を月光に輝かせて、女は長い太刀を両手に怪物へ突進した。


「ハギャァァーーッッ?! オ、オマエ、誰…………」


「うちはラーズ王国の王女プリメシア!! 通りすがりで悪いんだけどっ、いきなり切り捨て御免っっ!!」


 未来の俺は彼女を知っていた。王女プリメシア――通称プリムはバロンの恋人となる女性で、この物語のメインヒロインであるのだから。


「ア、レ……俺……死……。ァ、ァァ……死、死、死、死ネ……ル……。ア、アリガ、ト……オネエチャ……」


 紫色の影の方はわからない。こんな敵はいなかったはずだ。怪物はプリムの太刀に十文字斬りにされ、まるで炎が燃え尽きるようにかき消えた。


「助太刀感謝する」


「いえいえ。でもコイツ、なんだったんだろ……?」


「ここは神代の時代の古戦場。ならば得体の知れないナニカなのだろう」


 本編では訪れなかった土地を訪れると、こういった事態になる可能性がある。……そういうことなのだろうか。


「ふーん……。って、カラスが喋ってるぅぅーっっ?!!」


「それは最初に気付くべきところだろう」


「だって喋ってたら人間だと思うじゃんっ!?」


「ふむ、ならば自己紹介から始めよう。我が名はカオス、悪の総督イゾルテが使い魔だ」


 こちらが語るなり明るかった少女が太刀を構え、厳しい顔付きでカラスを睨んだ。


「フッ、バロンの反乱に加わる気か?」


「なっ、なんで……っ、ち、違うよーだっ!」


「嘘の下手な娘だ」


 彼女は必死でごまかそうとするが、こちらはストーリーを知っている。彼女はこの後レジスタンスに加わり、その一員として拠点にやって来たバロンを迎えることになる。


「まさか西の海を渡ってきたのか? もう少しまともなルートがあっただろうに……」


「し、知らないしーっ!!」


「仕方がないな、夜が明けたら道まで案内してやる。このまま真っ直ぐ東進すれば山岳だ、まず遭難するぞ」


「ほ、本当……っ!? 危なかったぁ……って、騙されないもん!!」


 未来では彼女も俺のトモダチだった。未来で彼女とバロンが結ばれるのを見届けた。そんな友人に警戒されるのは心外だ。


「助けていただいたのだ、裏切りなどしない。信じてくれ、力になりたいだけだ」


「ううーん……どうしようかなぁ……。んんー…………よしっ、わかった、信じる!」


 あっさり彼女は話を信じて太刀を鞘に納めた。未来も今も直感で動くお人だった。


「日が出るまでガイドは出来ん。夜が明けるまで待ってくれるか?」


「うんっ! ……でも、どうして良いカラスさんなのに、イゾルテの味方なんかしてるの?」


「彼女には彼女なりの正義がある。俺がそれを信じているからだ」


「でも、でもイゾルテお姉様――う、ううん、あの人は、バロンを裏切って、奴隷にして……絶対悪い人だよっ!!」


「そうだな、悪い人だ、それでいい」


 竜脈に再びたたずみ、そこで彼女と夜を待った。


「すごいっ、こんなところよく見つけたねっ!」


「カラスはなんでも知っているのだ」


「え~、ホントにぃー?」


「本当だとも」


 彼女は吸収魔法を持たないが、それでも竜脈にいればそれなりの恩恵が得られるようだ。俺たちは夜明けまで竜脈の地で語り合い、夜が明けるとそこを離れた。


「大丈夫だ、バロンは君の助太刀に必ず喜ぶ」


「そうかなぁ……? 迷惑じゃないかなぁ……」


「気持ちはわかる。まあバロンもあれで色男だ、ガールフレンドが多くても不思議はあるまいがな」


「そ、そんなにいるの……っ!?」


 RPGの主役とはそういうものだ。


「いたところで君は負けるような女ではあるまい? そうなったら押しまくれ、彼は押しの強い女に弱い」


「強引なうちとバロンは相性抜群! そーゆーことだねっ!」


「ああ、君たちはとてもお似合いだと思う」


「え、えへへ……なんだ、カオスっていいやつじゃん!」


 海岸線を抜けると、丘から彼方に漁村が見えた。その頃には昼前で、人里を見つけたプリムは大きな声を上げて踊るほどに喜んだ。


「色々ありがと、カオス! イゾルテのところが嫌になったらうちに来なよ! 新しいご主人様になってあげる!」


「その結末だけは避けたいところだ……」


「え、何? どういうこと?」


「敵同士ではあるが楽しかった。バロンを支えてやってくれ」


 返事を聞かずにカラスは飛び立った。今少し竜脈の魔力を吸い、次のステージで無双するために。

 大切なのは戦力外にならないことだ。序盤はいいが、後半になるにつれ戦いは激しくなる。この世界に再プレイ可能な稼ぎステージはない。


「またね、カオスッ!! バロンのことはうちに任せてっ!!」


 彼女は俺やイゾルテにはまぶしすぎた。信じる男のために国を脱走して単騎で駆け付けるなんて、心根が真っ直ぐでパワフルにもほどがある。


 苦難の果てに幸せが約束されている彼女と、苦難の果てに破滅しかないイゾルテ。この世界はあまりに不公平だった。



 ・



 総督府への帰投は日没過ぎになった。もっと早く帰ってイゾルテを安心させたかったが、あの怪物のせいで魔力を浪費させられ、予定が狂った。


 帰ってくると政務室にはまだ明かりが灯っており、冷えるだろうに窓もまだ開いていた。


「すまない、遅く――」


「カァくんっ!!」


 心配のあまりに総督の体裁すら失った歓迎が待っていた。悪の総督に捕まったカラスは彼女のしたいようにさせた。たとえお腹の毛をまさぐられても、ひっくり返されて顔を腹に埋められても、震えて堪えた。


「面白い土産話がある」


「そうか、では残りの仕事は我が家で片付けるとしよう」


 悪の総督は正気に戻り、背筋を伸ばし、書類一式を大きなバインダーに入れて政務室を出た。カラスは総督の肩の上を従者のように飛び、羽ばたきに気づいた使用人たちは足早に逃げ出し、警備兵たちが恐怖に身を硬くさせた。


「カァくんっ、寂しかった……っ!」


「俺もだ。修行など切り上げてさっさと帰りたい気持ちとの戦いだった」


 離れの住まいに着くと、イゾルテはカラスを抱き締め、それからテーブルにファイルの中身を広げてペンを取った。彼女は立派なワーカーホリックだった。


「それで、土産話というのは何……?」


「意外な出会いがあった。神代の古戦場で魔力を集めていると、見たこともない怪物に襲われてな、それで俺は――」


 ざっくりと話をまとめて、最後に助太刀に入ってくれた人物の名を出した。


「助太刀してくれたのはプリメシア姫だ。バロンの反乱に加わるために、国を脱走して来たらしい」


 イゾルテはペンを止めて驚いた。


「私のせいで、あの子たちの婚約は破談になったはずなのに……。そう……あの子、来てくれたのね、バロンのために……」


「素晴らしい女性だった。明るく、心も体も健康的で、勝手ながらバロンを任せられると思った」


「良かった……」


 イゾルテはそうつぶやき、安堵のため息を吐いて仕事を再開した。何も出来ないカラスは机に立ち、仕事を見守った。


「二人を逐一見守り、関係に進展があったら報告して。小さい頃から仲の良い、お似合いの二人だったの……」


「言われるまでもない。サリサとの三角関係がどう発展するか、我らは高みの見物といこう」


「ふふ……意地悪ね、カァくんは」


「バロンは信頼に値する男だが、一方で女泣かせだ。言い寄る女はこの先も雨後のタケノコのように生えてくるだろう」


「それもぜひ報告して」


「ああ、お言葉のままに」


 その後、カラスなりにペンをくわえて仕事を手伝おうとしたが、やはり無理だった。人化への道は遙か遠い。


――――――――――――――――――――

status_window(chaos)


【LV】   1 →    1

【HP】 134 →  200

【MP】  75 →  100

 【現MP】 3775/100

【ATK】 25 →   33

【MAG】 32 →   49

【DEF】 37 →   47

【HIT】 90 →  147

【SPD】196 →  266

【LUK】999 → 1010


【獲得スキル】

 錬金系

 【錬金術:初歩】【合成術:初歩】

 【錬金術:発展】new!

 変化系

 【変化魔法:初歩】【補助魔法:初歩】

 【変化魔法:発展】new!

 吸収系

 【吸収魔法:初歩】new!

 感知系

 【感知魔法:初歩】

 【感知魔法:応用】new!


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LUK値(幸運値)がいまのところ「らっきースケベ」に作用しているような希ガス
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