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・カラス育成パートその2 - 残SP:4 -

 未来のカラスいわく、本編シナリオから脱線したステージEX1がしばらく後に発生する。


 これはバロンが農奴を止めてレジスタンスに加わり、始まりの拠点に移ってから発生するイベントであるので、まだしばらくの猶予がある。


 ただしこのステージEX1は、本来カオスもイゾルテも参戦しない寄り道シナリオだ。よって機を逃せばスキルポイントの獲得に失敗し、この先のチャートが崩壊することになる。


「休暇――いや、修行に行きたいのだが、監視のスケジュールを調整してもらえないだろうか?」


 先日、イゾルテに休暇を求めた。


「ああ、構わんぞ」


「……何? 嫌にあっさりとしているな?」


「フッ、いつまでもこの我から逃げられると思わぬことだ」


「逃げる気などさらさらないが……」


「研鑽に研鑽を重ねて、貴様がいつどこにいようとも通信が出来るよう、術の訓練を重ねている。必要ならば行ってこい」


 あっさり許可が下りて、日をまたいだ今日から修行の旅に出れることになった。


「信じてくれてありがとう、君に損はさせない」


「でも、無理はしないでね……。怪我なんてされたら……私、政務を投げ捨てて探しに行くから……」


「そんなヘマはしない。君を守れる力をちょっとそこに取りに行くだけだ」


 そういったわけでたった今、イゾルテにつかの間の別れを告げて住まいから天空に舞い上がった。

 それから特にその必要はないのだが、バロンが働く農場を訪れて、彼の様子を確かめた。


「サリサ、僕と一緒に来てくれないか?」


「え……!? そ、それって……まさか……駆け落ち……!?」


 ちょうど美味しい場面に出くわした。


「違うよ、僕は農場を出てレジスタンスに加わることにした。一緒にここから脱走してほしいんだ」


 もう少し誘い方があるだろうにバロンは不器用だ。良くも悪くも彼は理性的な青年だった。


「……行く! バロンが出て行くなら、あたしも行く!」


「良かった! じゃあ一緒にここを出よう!」


「うんっ! うんっ、一緒に行く!」


 一方でサリサは色恋を中心して生きる普通の女の子だ。苦しい農場生活を捨てて好きな男の子と暮らせるなら、行き先や事情なんてなんでもよかった。


「ごめんね、こんなことになって……。僕が反乱を起こせば、君はたぶん人質にされてしまう……」


「バロンと一緒なら、あたしどこでもいい。バロンの居ない生活の方が嫌だよ!」


 歴史を変えてしまった手前気になっていたが、どうやら大丈夫そうだ。カラスはそこまで見下ろすと、後は若い者に任せて魔法の呪文を唱えた。


「skill_tree(chaos)」


 またの名をコンソールコマンドを実行すると、目前に星々の輝くウィンドウ画面【スキルツリーシステム】が現れた。


 前回のステージで【スキルポイント:4】を手に入れた。これからチャート通りに必要なスキルを発展、修得する。


 まずは【アイテム錬金:初歩】から続くスキル【錬金術:発展】スキルを取得する。効果は錬金術系スキルを使った時の判定ボーナスと、最大MP増強だ。いわゆる脳死で選べるパッシブスキルといったところか。


 次に【補助魔法:初歩】から続く【変化魔法:発展】も取る。こちらも効果はほぼ同じだ。アタックの魔法の効果が上がり、スリープの魔法の成功率も上がる。


 残るスキルポイントは2。これを使って次は【感知魔法:応用】と【吸収魔法:初歩】を取る。どちらも別カテゴリーのツリーだ。


 感知魔法は索敵やアイテム探しに利用される。初期段階でカオスは【初歩】を持っていたので今回【応用】を採用した。

 【応用】に発展させることで感知範囲が広がり、魔力を持つアイテムを探すのがより容易になる。


 一方で吸収魔法はその名の通りの術だ。対象からMP、HP、一時的に能力値などを吸い取る術となる。採用すると、MP吸収魔法【アブソーブ】を修得する。


「close_window()」


 チャート通りに全てのスキルを採用すると、目のチカチカする画面を閉じた。


「バロンもイゾルテも戦っている。俺も気合いを入れるとしよう。……まだ、レベル1だが」


 感激するサリサに手を握られて恥じらうバロンをもっと見ていたかったが、残りはイゾルテの口から聞くことにして農場を飛び去った。


 これから俺はゲームの仕様から逸脱した方法で力を高める。この世界には【竜脈】と呼ばれる大地の力が集まる場所があり、まずはそれを【感知魔法:発展】で探し出すことが修行の第一歩となる。


「また会ったな。ついでに少しいただいていこう」


 無論、つまみ食いもする。感度の上がった探知能力でご馳走を追ってみれば、お休み中のオオフクロウを見つけた。


 オオフクロウは驚き、つがいと共に逃げ出したが、ツバメよりも速く飛べるようになったカラスから逃げられるはずもなかった。


「美味かった。またいつか会おう」


 オオフクロウたちに『二度と来るな』と言われたような気もするが、また会えるような気がする。


 そんなふうにつまみ食いをしながら空を翔け、未来の俺が語る【古戦場】を目指した。神代の時代にかつてナンタラカンタラ。とにかくそこに行けば魔力を踊り喰い出来る。


 場所はこの半島の西端部。今なら新幹線とも併走出来そうな翼で、寄り道を重ねて進めば、【古戦場】に到着したのは日暮れ前だった。


「かつての戦場が花畑とは皮肉なものよ」


 そこは色とりどりの花が咲き誇る、どうにも不自然な土地だった。感知魔法は全域から魔力を検知し、モザイクのように強弱が入り乱れている。


 天空から見下ろす限り、この半島西端部で暮らす者はなく、まさにここはノーマンズランドだった。


「美しいが不気味だ。こんなところに2日も滞在しろだなんて、気乗りのしない話だ」


 日が暮れる前に急ぎ【竜脈】を探した。入り乱れる魔力に混乱させられたが、西の空がまだ青いうちに目的の【竜脈】を見つけ出した。


 そこに錆びることのない真鍮色の剣が刺さっていた。カラスはその柄に飛び移り、翼をたたんだ。


「なるほど、半信半疑だったが……素晴らしい。ここは確かに【竜脈】と呼ぶ他にない地だ」


 そこにたたずむだけで、大地からの魔力がカラスの肉体に流れ込んで来た。剣の柄に止まっているだけで、己の魔力が高まってゆくのを感じた。


「確かに、この力があれば救えるかもしれない……。イゾルテ、君を死なせはしない。いざとなれば、バロンを倒してでも……」


 吸収魔法【アブソーブ】の力を使い魔力を吸い続けた。カラスは黒曜石の彫像のようにそこに固まり、外敵に脅かされない限りそこから動くことはなかった。


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