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・【バトルステージ2】反逆の翼 - 後日譚 小熊座傭兵団 -

 しかしこのエピソードには続きがある。救い出した民を連れて駐屯地を抜け出すと、新たな敵軍に遭遇することになる。


 イゾルテ総督麾下(・・)の憲兵隊だ。外から来た外国人――つまりは傭兵を中心にした部隊で、レジスタンスからすれば敵対勢力のうち1つとなる。


「クッ、こんなところで……!」


「お逃げ下さい、バロン様。我々が時間を稼ぎますので、貴方は潜伏を。……付き合っていただけますか、クイーン殿?」


「フッ、付き合えるところまでは付き合おう」


 守るべき主君を背にイゾルテとルディウスは剣を憲兵隊に向けた。ところが敵憲兵隊の様子がおかしい。

 憲兵隊は剣を抜かず、こちらの様子を見ていた。


『ね、ねぇカァくんっ、私どうしたらいいの……!? 憲兵隊の人たちも悪い人ばかりじゃないの……っ』


『我が主よ、心配はいらない。こたびのステージは既に閉演している』


『ど、どういうこと……っ!?』


 さっきまであれだけカッコイイ姿を見せてくれた女性の心の声とは思えない。この二面性がイゾルテは素敵だった。


「どうしましょう、隊長……? あの武装勢力の背後にいるのは民です。状況から察するに、駐屯地に民が監禁されていたようですが……」


「へぇ、そりゃおかしいねぇ? イゾルテ総督は教会と自分以外が農奴を所有することを禁じたはずだろ?」


「帝国では駐屯地のことを教会と呼ぶのでしょうか?」


「手柄のチャンスと思い駆け付けてみれば、間の悪ぃ時に来ちまったみてぇだなぁ……」


 憲兵隊のリーダーは40近いおじさんで、名前をガディウスという。なぜ知っているのかと言えば、いずれバロンの仲間になる頼れるキャラクターだからだ。


「どうします? あの3人……かなりのやり手のようですが?」


「うしっ、ここは俺ちゃんに任せろ!」


 ガディウスが剣を副官に投げてやって来た。するとリーダーであるバロンもまた前に出た。


「よう、小僧、俺はガディウスだ。お前さんら何をやらかした?」


「亡国の王子バロンです。レジスタンスをしています。奴隷商ブッサーが拠点としていた帝国軍駐屯地に潜入し、奪われていた民を救出しました」


「そうかそうか、そりゃ花丸をやらねぇとな。うしっ、通ってよしっ! お互い余計な仕事は作りたくねぇだろ!」


「……いいのですか?」


「良い悪いも俺らはイゾルテ総督側だ。外道のロムルス帝国と組んだ覚えはねぇよ。ま、せいぜいがんばれや」


 話がまとまり、敵であるはずの憲兵隊が撤退していった。


『ガディウスといったか、後で褒美をやるとしよう……。はぁ……っ、良かったぁ……っ』


『気持ちはわかるがさっさと姿をくらまそう。貴女は急ぎ戻り、民を保護するために兵を動かす義務がある』


『そうね……。それにしてもバロンとルディウス……元気そうで、良かった……』


 世話の焼ける主を導いて俺は離脱した。といっても人気のない場所で変化魔法を解いて、悪の総督と黒いカラスに戻っただけなのだが。


「そこの憲兵隊、ちょうどいいところに現れた!」


 兵のあてならばすぐそこにあった。


「うげっ、そ、総督閣下ぁっ!?」


 ガティウス率いる憲兵隊――またの名を小熊座傭兵団だ。


「非常事態だ、我の指揮下に入れ。悪辣な帝国商人に我が民がさらわれた。これより取り返しに行くぞ!」


「へ、へい……! 喜んでお供しやす……!」


「しかし、妙だな? 我が指定した巡回ルートからだいぶ外れているようだが……」


「ギクゥッ?! そ、それは――ちょいとションベンに郊外に出てみた次第でさっ!!」


 ガディウスは変なおっさんだった。無理のある言い訳に副官に後ろから蹴られていた。


「フンッ、後ほど我の政務室に出頭せよ。では行くぞ、憲兵隊よ!!」


 ガディウスら小熊座傭兵団は顔を青ざめさせたが、まさかそれが褒賞の授与であるとは夢にも思っていなかった。

 俺たちはもう一仕事して、奪われた民を取り返した。



 ・



 ここからは余談であるがその晩、楽な下着姿のイゾルテと窓辺で言葉を交わした。

 ペットに裸を見せて恥じらう飼い主はいない。悲しいかな、今のところ俺はただのペット枠だった。


「小熊座傭兵団……面白い人たちだったね、カァくん」


「ああ、ガディウスは信頼できると思う。俺たち側、バロン側、彼がどちらに付こうともな」


「どうして小熊なのかしら……? ふふ、傭兵団なのにかわいらしい……」


「覚えやすい名前ではあると思うぞ」


 イゾルテがグラスを傾けて喉を潤した。

 イゾルテは茶を飲まない。自宅の井戸から自分で水を汲み上げてそれを飲む。希にワインを飲むこともあるが、その時は必ず1本を飲み切る。


「でも、どうして小熊さんたちが引き下がると、カァくんはわかったの?」


「そのことか。カラスは遙かな天空から全てを見渡しているのだ。俺にわからないことはない」


 答えになっていない解答だったが、イゾルテはテーブルの下で足を揺すってグラスの中を一気飲み干した。


「あの戦いにね、昔の仲間がたくさんいたの……。貴方が魔法で守ってくれなかったら、昔の仲間たちが大怪我をしていたかもしれない……」


「辛い立場だ。嫌なら暴君なんて止めてしまってもいいのではないか?」


 イゾルテは首を横に振って、献上されたという鉛ガラスのボトルから水を注いだ。


「私が立ち止まったらもっと大勢の犠牲が出る。もう止まれないの」


「ならば最後まで付き合おう」


「ありがとう! あ……貴方にも何かお礼をしないといけないね……」


「謝礼か。謝礼はいつか俺が人間になれた時に、ガールフレンドになってくれるだけで十分だ」


 いつか言おう決めていた言葉を伝えた。

 早く人間になりたい。人間になってイゾルテの心の傷を癒してやりたい。

 だがもし拒まれたらどうしたものか。カラスとの恋愛なんて気持ち悪いだなんて言われたら、さすがに傷つく。


「素敵ね。きっとカァくんは、先王陛下とそっくりのイケオジになるわ」


「い、いや……いきなりおじさんはちょっと困るぞ……」


「ふふふ……。そろそろ寝ましょ。さ、こっちに……」


「結局ペット扱いか。まあいい、いつか俺のガールフレンドにして、恥じらわせてやるからな……」


 そう宣言するとイゾルテはますます機嫌をよくした。だがベッドに横たわると、昨日から続く激務に疲れ果ててすぐに寝入ってしまった。


「は、離せ、離してくれ……くぅっ……?!」


 悪の女総督はオモチャにしがみついて眠る幼児のように、お気に入りのカラスを胸に抱いて離さなかった。


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