提案とプラン変更
無事に別館校舎に帰還した俺達は、アラームの起動まで、少し雑談をしていた。
「新って、野球やってたのか。なら、あのスライディングにも納得だわ」
俺は小学生から中学生まで、野球をやっており、運動神経は悪くはないのだ。さっきのスライディングは、足払いのつもりで、やったとっさの行動なんだけどな。
「誠の作戦も、なかなか良かったよ」
安全に奴らを倒す方法を、確立できたわけだし。それに奴らは、鼻が効ことも分かったわけだ。誠が体を張って、証明してくれた、おかげでな。
「あんなやばい奴らが、蔓延っている外の世界に。この後、妹を助けに行くんだよな?」
「父さんは会社で、立てこもって、動けないみたいだし。母さんには家で、待っててもらってるからな」
俺はふとした疑問を、誠に尋ねてみた。
「お前の家族は、どうなんだ?」
「俺か、、、親父はだいぶ昔に、くたばってるし。母親は俺を置いて、どっか行っちまった。今は、親せきの家に、厄介になってんだ。まぁ、そこでもだいぶ、煙たがられてるけどな」
なんだか、悪いことを聞いてしまったな。俺は、家族のことばかり考えて、周りの人のことなんて、全然考えていなのに。
「俺に、心配する家族なんていない。こんな世界だ、好き勝手自由に、生き抜いてやるつもりだよ」
ふと、俺は特に何も考えず、思ったことを、口に出してしまった。
「なら、俺と一緒に行かないか?」
「デートの誘いか?」
おちゃらけた感じで、誠は返してくる。
俺自身なんでこんなこを、言ったんだと思うが。誠という人間に、信頼みたいな感情が、芽生えてしまったのかもしれないな。
「デートに誘う相手なら、もっとかわいい子がいいに、決まってんだろ」
俺も冗談交じりに、そう返す。
俺は今の今まで、他人のことなんて、気にもせず、興味すらなかった。誠の行動を見ていると、自分が恥ずかしくなってくるな。
俺は1つ決断することにした。
「誠、先生、みんなを集めてもらえますか?」
俺がそう言うと、誠はどうした?みたいな顔をしている。
先生はずっと顔青いな。
「何考えてるか知らねぇけど、分かったよ」
誠は立ち上がり、廊下を歩いて行った。先生もよろよろと立ち上がり、廊下を歩いていく。
暫くして、全員が集まってくる。12人か結構いるな。
「先に皆さんに、謝っておくことがあります。勝手に行動して、すいませんでした。俺はこの学校から、脱出しようと、独断で動いていました」
俺は全員の前で、頭を下げた。そして、今までにやってきたことを、説明していった。
「あと10分もしない内に、校庭に設置した、スマホのアラームが起動します。これは提案です。逃げたい人は、このタイミングで一緒に、逃げませんか?」
俺がそう告げると、全員に困惑が広がった。
この安全な空間を捨て、奴らが蔓延る外の世界に、出ようなんて突然言われても、困るよな。
俺は続けて説明する。
「知っている人も、いるかもしれませんが。学校の外も同じく、奴らが蔓延っています。俺は妹を助け、家に帰るのが目標です。家が今も無事かは、わかりませんが、、、。ここに残り、助けを待つのも、選択肢の1つです。ただ、ここには食料もなく、生きるための、物資がありません、ここに残るのは、死を待つのと一緒です。それなら、わずかな希望に望みを託し、外の世界に、家族や会いたい人のもとへ、向かいませんか?俺からは以上です。それぞれ、残りの時間で、検討してください」
俺がそう言いい終えると、スマホで電話をする者。蹲って、しゃがみ込んでしまう者。周りと相談する者。それぞれ行動を始めた。
俺はその場にしゃがみ込み、スマホで時間を確認する。
残り7分か、、、
特にすることもないので、時間まで座り込んでいると、隣に誠が座ってきた。
「なあ新、なんで俺が、お前を手伝ったのかわかるか?」
「俺がお前を助けたとか、なんとか言ってなかったか?」
俺は思い出しつつ、そう問い返す。
「あれは建前だ。最初は周りが急に、こんなことになって。あんな奴らが襲ってきてさ、正直ビビってた」
俺は黙って、誠の話を聞き続ける。
「扉がこじ開けられそうになった時、俺や、みんながブルってるなか、お前は誰よりも先に、行動してみんなを助けた。そん時、俺は思ったんだ。お前に付いていけば、こんな世界でも、戦っていけるんじゃないかって」
「あの時は、自分が生き残るため、俺も必死だっただけだよ」
「生き残るって意思が、強い奴が、この世界では重要なんだろ。俺はその意思に、心を動かされちまったて訳だ。だから、お前と一緒に行くぞ俺も」
なんだか照れ臭いな。
俺は頭を搔きつつ、笑っていた。
「そろそろ時間です。俺達と一緒に、学校を脱出する人は、挙手をお願いします」
俺がそう言うと、誠を含め、6人の手が上がった。その中には佐城と、教師も含まれており。他は知らない人達だ。田中は、残る道を選んだようだな。
「では脱出組には、この後の流れを説明するので、こちらに集まってください」
俺の周りに脱出組が集まってくる。残留組も集まって、話し合っているようだ。
俺はフェーズ3の内容を、メンバーに伝えた。少し違うのは、自転車で脱出する予定だったが。全員で校門まで向かい、門を閉じ、追っ手を封じ込めるという内容だ。
「それぞれ助け合いつつ、協力して脱出しましょう」
俺がそう言い終えると、外でスマホのアラームが起動した。
ファーン!ファーン!
アラームが、静寂に包まれていた、学校に鳴り響く。
少し窓から様子を伺うと、本校舎の方からぞろぞろと、奴らが出てきている。
「まだです。奴らの後続が、いなくなってから動きましょう」
そこから数分間。本校舎から奴らは、出てき続けた。
「結構な数の奴らが、校庭に集まってきたな」
そう呟いていると、本校舎から出て来る奴らの、列が途絶えた。
「行きます」
小声で、全員に伝える。
入り口のカギを開け、扉をそっと開く。先行し誠が外に出て、周囲の安全を確認し、合図を送ってくる。先に他のメンバーを行かせ、俺は最後に外に出ると、ゆっくりと扉を閉めた。
残留組がカギを閉め。俺達は誠を先頭に、ゆっくりと迅速に、音を立てず、本校舎と、校庭の間にある通路を、進んでいく。
今のところ脱出ルートに、奴らがいないのは、確認できる。
このまま何もなければ、問題なく、脱出できるはずだ。
脱出ルートの真ん中あたり、L字になっている、本校舎の曲がり角で、アラームの音が止まる。校庭から奴らが発する、うめき声だけが聞こえ、緊張感が増してくる。さらに進んで行き、最後の直進にはいる。
あと200メートルぐらいか?
そんなことを考えていると、1人の男子生徒が、躓いたのが見えた。男子生徒が片手をつくと、その手に持っていた、ハンマーが地面にぶつかる。
カーン!
甲高い音が、周辺に鳴り響く。
俺は一瞬、校庭に目をやると、奴ら全員こちらに向いて、動き出したのが見えた。
「走れー!!」
俺の叫びと同時に、全員が走り出す、奴らもこちらに向け、走ってきている。
大丈夫だ、間に合う、奴らより先に、校門まで辿り付ける。
俺が最後尾で走っていると、教師が明らかに、失速しているのが分かる。
「先生、ここまで来たら、全員で生き残りましょう」
俺は教師に近寄り、肩を貸す。そして、そのまま走り続ける。
「す、すまない。ありがとう」
「お礼は、生きて脱出できるまで、とっておいて下さい」
肩を貸している俺は、明らかに他のメンバーと、距離が離れていく。
このままでは、間に合いそうにないかもな。最悪の場合、本校舎に教師を連れて、隠れるか。
そんなことを考えていると、先を走っていた1人が、こちらに近寄ってくる。
「そこのお兄さん、お困りですか?」
怪しいセリフを言いながら、見知った顔がやって来た。
「ばか!おまえ先頭に居ただろ!」
近寄って来たのは、誠だった。そのまま教師の反対回り、肩ぐと俺達に合わせ、走り出す。
「こんな状況なら、前も後ろも変わんねーよ。もしかして、お邪魔でした?」
こいつ、よくこんな状況でも、冗談を言えるな。
「邪魔じゃねーよ。助かるマジで」
「二人とも、私など置いて先に、、、」
「「先生は、黙って足動かして!」」
俺達は同時に、教師へ向かって叫ぶ。教師は、しょんぼりとした感じに、なりつつも走り続ける。
「なー誠。間に合うと思うか?」
「正直に、言っていいのか?」
誠は質問を質問で、返してきた。
「ああ」
「無理」
だよなー。
俺達と門までの距離残り、残り50メートル。後ろの奴らとの距離残り、残り30メートルぐらいだ。
本校舎へ避難をすることを考えて走っていると、少し前を走っていた、女生徒たぶん佐城が転んだ。
「いっっ!」
足首を抑えその場に、座り込んでしまっている。多分、足をくじいたのだろう。
俺と誠は視線で合図する。
「あーーーー!ここまで来たら!全員で死ぬか、生きるかだ!」
俺がそう叫び、佐城の両足に腕を入れ、腰あたりに腕を回し、そのまま抱き上げ、走り出す。
「キャッ!」
佐城が悲鳴を上げる。
ごめん。今そんな反応、求めていません。
現状はこうだ、爆弾2個(教師と、佐城)。すぐ後ろには、やばい奴ら。以上。
どうしてこうなった?
あれだ!あの男子生徒のせいだ、名前は知らんから、B君(仮)だ。B君(仮)が、転びやがったからだ。
死んだら、呪ってやるB君(仮)。
「マジでやばいぜ。新さん」
先生に肩を貸し走っている、誠が話しかけてくる。
「最悪の場合は、本校舎に逃げ込むぞ」
俺はそう伝える。
「了解。まて、、、」
誠が何か言おうとしたが、途中で止まる。理由は、俺にも見えていた。俺たち以外の3人が、俺達の到着を待たず、校門を閉めようとしているのだ。
「クソ野郎どもが!」
誠は本気で、キレているようで。眉間に青筋が、浮かんでいる。
俺もあいつら殺したい。
「ちょっと、どうするのよ?」
俺に抱えられているお姫様が、そう問いかけてくる。
「仕方ない、本校舎に窓割って入るぞ!」
俺が3人に伝えると、教師が話に割って入ってくる。
「だ、ダメです。校舎を超えたら左へ、その先に駐車場があります。そこに行けば、私の車がありますから、車に避難しましょう」
教師は絶え絶えの息で、必死に俺達に、そう伝えてくれた。
ここまで来たら、教師のプランで、いくしかないか。
誠に視線を送り、頷き合う。
校舎を超えた所を左へ曲がり、走り続ける。10メートルほど走ると、駐車場が見え、何台かの車が止まっていた。
「先生!どれですか!」
俺の質問に、教師はすぐ答える。
「て、手前の、黒いファミリーカーです!」
教師が遠隔でカギを開け、車のライトが点滅したことで、目標の車が分かった。俺は先に行き、後部座席の扉を開き、佐城を放り込む。俺も中に入り、後ろを振り返ると、5メートル後方に、奴らの群れが迫っていた。誠達も乗り込み、急いでドアを閉める。
ドン!ドン!
奴らがドアや、窓を、叩く音だけが車内に響く。俺はポケットからスマホ取り出し、時間を確認する。
「窓が割れるわよ、、、」
そう呟く佐城の口を手で抑え、俺は口元の前に人差し指を立てる。
5、4、3、2、1。心の中でカウントダウンをする。
ファーン!ファーン!
校庭の方から、再びアラームが鳴り響く。その音につられ、少しづつ奴らの数が減っていく。
数分後には最前列の3体を残し。奴らは校庭へ移動していった。
残りの3体は近いからか、匂で気づいているのかな。
そんなことを考えていると、こめかみに衝撃が走った。
こめかみを抑え、正面を向くと。そこには、プルプルと震えている、佐城の姿があった。
あっ、口を抑えたままだったな。そりゃあ、殴られますよね。