初会敵と脱出プラン
俺達が校庭側の入り口に辿りつくと、田中、佐城そして数名の生徒が、入り口から侵入しようとする奴ら必死に扉を抑えていた。
「誰かどうにかして!」
俺達に気づいた佐城が、こちらに向かってそう叫んできた。
しかし、駆けつけた全員が、どうすればいいかわからず、その場で立ちすくんでいた。その間も奴らは、腕を扉にねじ込み、扉をこじ開けようとしてくる。
俺はその場に駆け寄り、持っていたバールの尖っている部分で、奴の腕を突き刺す。しかし、痛みを知らないのか、そのまま腕をねじ込ませようとしてくる、俺は何度も腕に向かって。バールを突き刺す、すると骨が砕ける感触が、手に伝わってきた。
バタン!!
その音と共に扉が閉じられ、奴の腕がボトリと室内にちぎれ落ちる。
俺は返り血で制服のシャツが汚れてしまい最悪だ。
「あ、ありがとう神田君」
田中が俺にお礼を言ってきたが、ほかの面々は俺の行動に、かなり引いているようだ。
かなり顔に出てるぞこいつら、やばいやつを見る目だこれ。
「なんでこうなったんだ?」
俺は入り口に立つ田中達に向かい、そう問いかける。
「え、えっとですね。校庭の方から5人の生徒と、先生がこちらに走ってきたんです。その人達は奴らに追われていて、それでギリギリのところで閉めたんですが。奴に腕をねじ込まれてしまい、先ほどの状況に、、、」
「状況はわかった。一歩間違えれば奴らに侵入され、全員が危険にさられる可能性があったことは、理解してくれ」
俺がそう言うと、佐城が俺を睨むように見てきた。
「助けてくれたのは感謝してるわ。でも、貴方は他の人を助けたいって、気持ちはないわけ!」
現状俺は、自分の身と家族それさえ守れれば、それ以外はどうでもいいのだ。思っていることをこのまま言えば、ただ反感を買うだけだし、ここ穏便に済ませるとするか。
「助けたい気持ちは俺も同じだよ。だけど、全てを助けようとして、今助かっている命を危険にさらすのは反対だ。俺達には奴らと戦う準備も、できていないんだからな」
俺と佐城が話している間、他の面々は黙って下を向いている。現状において誰が正しいかなど、誰にも分からないのだから。佐城も、俺の言うことに納得は出来ていないが、理解はしているようだ。
不満そうに俺を睨んでくるがな。
「今回のような事が起きた時の為に、俺が集めて来た武器が必要だろ。これで追い払うぐらいは、できると思う」
「そうだな。各入り口で武器を持った者が待機し、協力して逃げてきた生徒を助けよう!」
黙って見守っていた長谷部が全員にそう言うと、下を向いていた面々は頷き合う。
長谷部みたいなリーダーシップがある奴がいると、こういう時に助かるな。まあ、先ほどの状況で動けなかった、面々に奴らと戦うことができればの話だが。
「待ってください」
入り口近くにいる一人の男が話し出す。
たしか、、、現国の教師だったか?
「そ、そんな物騒なものを使い、何をするつもりですか!た、確かに校内で生徒や、教員同士で暴動が起こっていますが。こ、これは何かしらの病気が、原因かもしれません。む、むやみに襲い掛かってくる生徒や、教員に暴力を振るうなど、教師として許可できません!」
少し興奮気味に現国の教師がそう言うが、この男は奴らが病気にかかっているだけに見えるのか?
「先生は本校舎からここに来られたんですよね?」
「そうです。この4人の生徒と、本校舎から逃げてきました」
「それなら奴らが、人を襲い殺している姿も、見ていますよね?」
「殺しているかまでは確認していません、、、逃げるのに必死だったもので、、、」
要するに自分の身大事に、他の生徒を助けようともせず、逃げてきたわけだ。
「では、あれを見てください」
俺はそう言うと、入り口の窓に向けて指を指す。
そこには先ほど侵入しようとしてきた、女生徒が入り口に、頭を何度もぶつけて居た。その姿は片腕がもげ、首には誰かに噛み切られただろう傷があり、至る所から血が流れ出ている。
「先生はあれを見て、生きている人間に見えるのですか?彼女が病気の人間に見えるのですか?」
俺がそう尋ねると、教師は顔を真っ青にし、押し黙ってしまった。なので、俺はそのまま話し続ける。
「これは映画やアニメなどで見た、ゾンビと全く一緒だ。噛まれれば感染し死に至る、そして、死ねばそいつもゾンビになる。同じ学校の生徒に、武器を振るうのには抵抗だってあります。だけど、俺は戦わずに、奴らの仲間入りなんかしたくない。みんなも、奴らの仲間になりたくないだろ?」
教師以外の全員が、俺の方を見て覚悟ができたように頷く。教師は黙って、外にいる人間だった者を見つめ続けていた。
その後は、長谷部が覚悟ができた全員に指示を出し、各々決められた場所に移動していった。
俺、長谷部、現国の教師が、校庭側の見張りだ。
俺は全員が移動したのを確認し、長谷部に声をかける。
「長谷部君、少し話があるんだけど」
「ん?どうした?」
「俺はこの後すぐにでも、ここから出て妹の居る、小学校に向かいたいんだ」
俺がそう話すと、長谷部は少し驚いた顔をしたが、すぐに真剣な顔に戻り答えた。
「しかし、この状況でむやみに動いても、奴らに食われるだけだぞ?」
「考えがある」
俺は自分の考えている作戦を、長谷部に話す。
「少し危険だが、そこにいる奴の制服のポケットに、スマホが入っているが見えた」
俺は、入り口に頭を何度もぶつけて居る、元女生徒を指さす。
「奴を倒し、そのスマホを使って。アラームを起動できれば、校庭に奴らを集められると考えている。
これは俺の想像というか、映画の知識道理なんだけど、奴らは音に反応するはずだ。俺はそのタイミングで、校門前の駐輪場に行き、自転車でそのまま外に脱出したいと、考えている」
俺が作戦を伝え終えると、長谷部は少し考えこんでしまった。俺一人が脱出する作戦に、協力などしてくれるわけがない、反対するのが当たり前だ。
「わかった。協力する」
長谷部は何か吹っ切れたような顔をして、俺の顔を見て来た。
「神田君には最初に助けられたし。先ほどの戦いで誰も動けないなか、率先してみんなの為に、戦ってくれた。それに、君の先ほどの言葉で、みんな戦う覚悟ができたしな、手伝う理由には十分だ」
正直断られると考えていたんだが、長谷部の中の俺は、想像以上に株が上がっているみたいだ。
俺達はその後、詳しく段取りを話し合い始める。
フェーズ1 入り口を開け、外にいる奴を中に入れる。そして、正面から奴の頭にバールを突き刺す。仮に失敗した場合、ドアを開けその後ろに隠れる予定の、長谷部がハンマーで倒す。
フェーズ2 俺が成功した場合は、奴のスマホを奪いアラームを設定し、俺が校庭の中央付近まで走り、スマホを設置する。そして、1度別館校舎に戻る。フェーズ1で俺が失敗し、噛まれた場合は、長谷部に俺を処理してもらい、作戦は終了だ。
フェーズ3 アラームが起動し、周辺の奴らを集めることに成功したら。タイミングを見て俺は、駐輪場まで走り、自転車で学校を脱出する。
「この作戦で問題はないか?」
俺がそう長谷部に尋ねる。
「問題はないが、校庭にも何人か奴らがいる、これどうする?」
「あの数ならこいつで、1体ずつ片づけるよ」
俺は持っているバールを構え、そう返事をする。
「わかった。しかし、1人より、2人の方が確実で安全だろ?」
長谷部はそう言うと、蹲ってしゃがみ込んでいる教師に、声をかける。
「先生、話は聞いていましたね?」
真っ青な顔の教師は、顔を上げ頷く。
「俺と、神田君で校庭まで、スマホを設置してきます。その間ここの戸締りを、先生にお願いします」
教師は正気か?という顔でこちらを見ている。
「し、しかし私は戦えませんよ」
「先生は安全な所で、待機して頂ければいいので、大丈夫です」
「わ、わかりました。それでよければ手伝います」
この教師ホント使えねぇ、生徒が命懸けの作戦を行おうとしているのに、自分の安全しか考えてないのか。
「長谷部君、無理に俺に付き合うことはないんだぞ?」
長谷部は、それ以上何も言うな、という雰囲気で首を横に振る。
「誠そう呼んでくれ、命を懸け合う仲だろ?」
「わかった、誠ありがとう。俺は新だ」
俺がそう言うと、誠は手を俺に伸ばしてくる、俺はそれを握り返し握手をする。
俺達の命を懸けた、脱出作戦の開始だ。