家族会議 前編
稽古を終えると、時間は昼頃になっていた。母さんは昼食の準備で、台所へ向かう。俺達は風呂に入り、居間でくつろいでいる。
「全身が、悲鳴を上げているぞ」
居間の隅で横になっている、誠がそんなことを、言っていた。初日で、あのメニューをこなしたら、そうなっても仕方ないと思う。
「無理せず、休んでいろよ」
「そうさせてもうわ」
居間では、青山先生がテレビを見ており。せんべい片手に、言いご身分だと思う。
「青山先生は午前中、何してたんですか?」
「わ、私は愛車の手入れを、、、」
ずっと座って、テレビを見ていたわけでは、ないようだ。
ずっとテレビなんて見ていたら、ぶん殴ってやりたかったが。
ふと、誠が話し出す。
「でもさ。こんな世界になって、稽古とかやる意味あんのかな?」
「俺はあると思うぞ。平和な世界はもう、帰ってこないわけだし。この世界で生き抜くには、自分を鍛え強くなるしかないと思う。でも、すぐには強くはなれないから、日々の積み重ねが大事なんだよ」
「それもそうか」と言って誠は、納得した顔をしていた。
「この塀の中にいる間は、安心して稽古に励めるぞ」
俺がそう付け足すと、誠の顔は少し引きつっていた。
まぁ、気持ちはわかる。あのハードな稽古を、毎日こなすのはキツイよな。
「でも、ここが安全でも。食料とか、いろんな問題が、あるんじゃないか?」
誠の指摘は当然だな。
「そこは問題ないぞ。うちの倉庫には多分、かなりの食料が、保管されてると思うから。今のままなら、1年ぐらいは平気で、生活できるぞ」
誠は家の規格外に慣れて来たのか、なるほどなって顔で聞いていた。
「インフラの方は自衛隊がどこまで、頑張ってくれるか次第だけどな」
「自衛隊も、永遠に戦えるわけではないからな。その辺は全員で話し合って、考えていくしかないか」
誠の言う通りで、今後のことについては、全員で話し合う必要があるな。
俺は昼食前、全員に今後のことについて、相談があることを伝える。昼食も終わり、全員でまたテーブルを囲っていた。
「相談というか。今後のことについて、全員で一度話し合った方がいいと思ってさ。この場を使って、話し合っていこうと思う」
俺がそう伝えると、全員が頷く。
「この家で一番偉い立場の母さんは、今後のことについてどう考えているの?」
俺の質問に、母さんは顎に手を当て考えてから話し出す。
「そうね、家族が何よりも、最優先ね。私達だけなら、当面の食料などの心配もないし、私が居れば守り切ることができるわ」
母さんは手の届く範囲の人間を、守れればそれでいいって考えか。
母さんはそのあとも話し続ける。
「でもね。この場にパパが居たら、こう言うと思うの。この家周辺の人々が困っているなら、手を貸し人助けをしろ!ってね」
うん。そうだな、父さんがこの場に居たら、絶対にそう言うだろう。
「パパならそういうだろうね。でも、こんな世界で人助けなんて、命懸けでしょ?」
黙って聞いていた葉月がそう質問する。
「葉月の言う通りね。この世界で人助けをすることは、かなり危険よ。どうしようかしら、、、」
母さんは再度、顎に手を当て考えだした。
人助けをし、自分たちの身に何かあっては、そっちの方が問題だろうな。
「仮になんだけど、人を助けた後は、どうするつもりなんだ?」
「この敷地で、安全に過ごしてもらいたいけど、住む場所がないわね」
俺の質問を聞いた母さんは、さらに難しい顔をしながら、考え込んでいく。
「私たちが住んでるこの家に、住んでもらうのはどうでしょうか」
黙っていた青山先生が、そう提案する。
「あと数人なら大丈夫でしょうけど、この家周辺の人を助けるなら。無理ね」
母さんの言う通りだ。この家周辺の人々を助けるとなると、敷地何の空いている場所に、家を新しく建てるか。テントなどの簡易的な、居住スペースが必要になるだろう。
「仮にこの家を避難所とするなら、食料もさらに必要になるよな」
誠がそう呟く。
全員が色々考えている間に、問題点をまとめてみた。
この家を避難所として機能させるには、暮らす場所を作るか、テントなどを入手する。他にも、食料の確保も必要になってくるだろう。
他には問題は沢山あるだろうが、先ず決めなければいけないことがある。
「みんな色々考えているところ、悪いんだけど。先ず、俺達が他の人達を助ける為に、動くってことでいいのか?そこを決めてからじゃないと、いくら考えても意味ないと思う」
俺がそう話すと、各々考え込んでいく。他人の為に命を懸け、今ある安全で安定した生活を捨てるのか。このまま自分たちだけで、平穏に暮らすのか。考え込んでしまうのは、当たり前だろうな。
「私は人助けに賛成。学校では友達1人も、助けることができなかった。だから、私は困っている人達を、助けたい」
誰よりも早く、葉月がそう答えを出す。葉月は、学校で友達を助けられなかったことを、後悔している。だから、誰かを助けることで、少しでも誰かの助けになりたいのだろう。
「俺も賛成です。俺はこの家に、厄介になっている身ですけど。俺みたいな行く当てのない人の為に、やれることがあるなら、やりたいです」
誠も、葉月に続いて賛同する。
誠も自分が置かれている状況を考え、同じ境遇の人の為に、行動をしたいようだ。
「わ、私は反対です。か、感情論で決めるべきことでは、ないと思うのです。今置かれている状況を、客観的に見てください。今の安全な暮らしを捨て、リスクを取る理由がありません」
どうやら、青山先生は反対のようだ。
青山先生の言うことは、正しいと思う。こんな世界だ、他人より自分の身が安全であれば、それで十分だろう。
「俺は、、、反対かな」
俺がそう言うと、誠が驚いた顔をしていた。誠としては互いに助け合い、ここまでやって来た俺が、反対するとは、考えていなかったんだと思う。
「青山先生の言う通りで、感情論で決めるべき内容ではないし。俺としては、人を助けたその先のことを考えて、反対だ。物資の問題もあるが、人が集まれば、それ以外の問題も沢山出てくると思う。そんなリスクを抱え込むぐらいなら、家族や親しい人だけで、安全に暮らしたいかな」
自分の考えを全員に伝える。
2対2か、、、。あとは母さん次第か。
そう考えていると、母さんは決心がついた顔で、話し始める。
「私個人としては、反対なの。子供たちさえ守れれば、私はそれ以外望まない。でも、神田家の、神田静香としては賛成よ。子供達には申し訳ないけど、我が家の方針は、この家周辺の人達を助けるってことで、いいかしら」
母さんは全員の顔を見ながら、そう話す。全員が母さんの決定に、頷いて返事を返した。
母さんの母親としての意見と、神田家の人間としての意見、2つの立場で葛藤があったと思う。それでも、神田家の父の考え方を含めた意見を、優先したんだと思う。
俺は反対はしているが、人を助けたくないわけではない。むしろ、可能であれば助けたい。今後色々な問題について、話し合っていかなければいけないな。
「細かいことは、夜に話し合うでいいかしら。今日は稽古で疲れているから、午後はみんなゆっくりしていてね」
母さんがそう告げると、話し合いは終了した。各々自由にくつろぎ始め、俺は自分のギフトについて、考えることにした。




