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到着

かつての村と決別し、街を目指して旅をする私は、今にも吐きそうになっていた。村から私を追ってきた男たちを振り切るため、男たちが見えなくなるまで走ったが、運動し慣れてない私の身体には負担が重すぎたようだ。私は息も絶え絶えになり、重くなった足を引き摺る様にして歩いた。

「おぶってやろうか?」

私の状態を見かねた光太郎は救いの手を差し伸べてくる。こういった旅に慣れているのか、やはり彼は余裕そうな表情だ。

「大丈夫です。それより、飲み物はありませんか?」

落ち着かない呼吸で、私は光太郎に告げた。これは私の人の命を救う旅である。こんなことで人に助けを求めていては、いつまで経っても命なんて救うことができない。それどころか、私が助けられてどうする。ただの付き添いの光太郎に迷惑をかけるわけにはいかないだろう。

「ほらよ。」

光太郎は、私に水筒を渡してきた。竹でできた、簡素な水筒である。3日間飲み続ける量としては少なすぎる気もするが、何か考えがあるのだろうか?

「持ってきた水はこれだけなんですか?いくらなんでも少なすぎるんじゃ...。」

「水なら夜降ってくるだろ?」

...やはりこの男は少々適当すぎる節がある。まさか雨を飲み水にするなんて、普通は考えつかないだろう。しかし、普段忌々しく思っている雨が、こんな形で役に立つとは、なんと言うか、複雑な気持ちである。

ようやく息も整ってきた頃、光太郎は懐を漁り始め、握り飯を私に差し出してきた。

「俺特製のおむすびだ、美味いぞ。」

形は歪だが、まだ暖かい米の美味そうな匂いが立ち込める。私は辛抱ならず、おむすびを手に取り口にした。何口か食べ進めると、何やら赤いものが、顔を出した。私が怪訝そうな顔をしていると、光太郎は驚いた顔をして言った。

「お前、鮭も知らねえのか!?」

さけ?聞いたこともない言葉に、首を傾げた。

「鮭っつうのは、魚の一種だな、流石に魚は知ってるだろ?」

いくら私といえども、魚くらいは知っている。しかし魚に種類があったとは、驚きである。

「魚は知ってます。でも、魚に種類ってあるんですね。」

「お前って奴は本当に...」

何か言いたげに頭を抱える光太郎をよそに、私はさけとやらを口にしてみた。

「美味しい...!」

思わず顔が綻んでしまう。少し塩辛いが、米と共に口に含むことで、米の甘さが引き立つようである。私はあっという間に光太郎特製さけおむすびを平らげた。

「気に入ったならよかった。」

光太郎は笑って言った。どうやらこの世には、私の知らない美味しい食べ物がたくさんあるらしい。街に着いたら、美味しいものをたくさん食べることにしよう。そうして昼の腹ごしらえを済ませた私たちは、またしても街を目指して歩き始めた。日が落ちかけ、ポツポツと雨が降り始めた頃、ふと疑問が浮かんだ。寝床はどうするのだろう。まさか雨の中野宿するわけにもいかないだろう。そう思って光太郎に聞いてみた。

「今日は一体、どこで寝るつもりなんですか?」

光太郎はさも当然のように答えた。

「その辺の草むらでいいだろ。」

馬鹿なのかこの男は、雨に打たれながらどうやって眠れと言うのだ。びしょ濡れになって風邪をひき、結局宿に戻るのがオチである。

「馬鹿なんですか?風邪ひいちゃいますよ!」

「それもそうか、じゃあ、あの家をちょいと拝借するとしようぜ。」

光太郎が指差す先には、恐らく誰も使っていないであろう、寂れた家屋があった。人様の家に勝手に上がるのには抵抗があるが、やむおえない、見たところ雨風は凌ぐことができそうなので、一晩だけ邪魔することにした。

「意外としっかりしてますね。」

近頃人がいた気配はないが、造りはしっかりしており、安心して寝ることができそうだ。晩飯も2人でおむすびを食べると、私たちは眠りについた。こうして道を進み続け、3日が過ぎた。人通りや家屋も増え、私が見慣れない景色にあたふたしていると、目の前に大きな門が現れた。

「さあ、到着だ、ここが風雅の街、鏡楽だ!」

どうやら、目的地に到着したらしい。風雅の街と呼ばれているらしいが、それは名ばかりではなく、そこかしこが色とりどりに彩られ、賑やかである。

「今日から、この街で過ごすんだ...。」

自分の旅の目的が、人助けであることは理解しつつも、私は始まるであろう新生活に心躍らずにはいられなかった。

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