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第84話 魔導乾燥機と、雨雲を越える勇者たち

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。


作品ナンバー2。

ほっと一息ついていただければ幸いです。

アステリアの空は、ここ数日、灰色だった。


冷たい雨がしとしとと降り続き、王都全体が沈んだ空気に包まれていた。


市場は閑散とし、街路の石畳は泥で滑りやすくなっている。


旅人も商人も足止めを食らい、街の活気は目に見えて失われていた。


そんな中、達夫はふと思った。


(雨の日でも、人々の暮らしを快適にできる家電が必要だな)


ルメリアには、乾燥という概念があまり根付いていない。


衣服は自然乾燥が基本であり、雨が続けば続くほど、家々の中はじめじめと湿り、不快指数が跳ね上がる。


さらに、濡れた衣服は冷えを呼び、病をもたらすこともあった。


特に子供たちや老人たちには深刻な問題だった。


達夫は決意した。


「魔導乾燥機」を作る、と。


この世界に、"雨を恐れない生活"を広げるために——。




達夫は、古びた作業小屋にこもった。


材料は限られている。


が、彼には"家電知識"という強力な武器があった。


まず必要なのは、乾燥機の核心、熱風循環システムだ。


達夫は、魔導ストーブで応用していた「火属性魔石」の力を、温風発生に利用することを考えた。


さらに、魔導モーターで空気を撹拌し、温風を庫内に均一に循環させる仕組みを作る。


しかし問題は、過熱だった。


単純に熱を送り続ければ、衣服が焦げる。


また、湿気がこもりすぎれば逆効果だ。


そこで達夫は新たな工夫を加えた。


「除湿魔石」を組み込み、庫内の湿気を吸収する装置を設置。


さらに温度センサーを作動させ、一定温度を超えたら魔力供給を自動カットする回路も組み込んだ。


つまり——


・熱風を発生させ

・空気を循環させ

・湿気を除去し

・温度を自動制御する


これらすべてを、魔導技術で実現する装置。


それが、達夫版「魔導乾燥機」だった。


試作品が完成したのは、夜も更けた頃だった。


達夫は自ら濡らした衣服を詰め込み、スイッチを入れた。


ゴォォォォォ……


小型モーターが回り始め、ほのかに暖かい空気が庫内を満たす。


数十分後。


乾燥機から取り出した衣服は、見事にカラリと乾いていた。


「……上出来だ!」


達夫は拳を握り締めた。


しかし、彼にはまだやらねばならないことがあった。


この発明を、街に、国に広めること。


そして——


今回、もうひとつ、思わぬ依頼が舞い込んでいたのだ。




翌朝。


王宮から使者が達夫のもとを訪れた。


「佐藤達夫殿。陛下が、お呼びです」


謁見の間に通された達夫に、国王ラダン・エルトマール四世は直々に告げた。


「達夫よ。南の湿原地帯から緊急の報せが届いた。長雨で村が孤立し、病が蔓延していると」


地図を指し示しながら、国王は続ける。


「救援物資を送りたいのだが、馬車はぬかるみに沈み、進めぬ。何か方法はないか?」


達夫は即座に答えた。


「私に、救援の手段を考えさせてください」




達夫は、南の湿原を攻略するため、魔導乾燥機搭載型救援車両を開発することにした。


車両には大型の魔導乾燥機を積み込み、泥水に濡れた救援物資を現地で乾燥させる。


さらに、荷台には簡易テントと医療器具も備え付ける。


そして重要なのは——


車輪に「魔導浮上プレート」を設置することだった。


浮上プレートとは、達夫がかつて魔導洗浄機用に試作していた、微弱反発魔力を発生させる装置だ。


これを車輪に応用すれば、地面に沈まず、ぬかるみを"浮かびながら"走ることができる。


「名付けて……"スワンプ・バギー号"ってとこだな!」


達夫は笑った。


一方、国王ラダンは少しだけ首を傾げた。


「……スワンプ? バギー?」


「……湿原用のすげぇ車って意味です!」


適当に誤魔化す達夫に、王も苦笑した。




数日後。


完成したスワンプ・バギー号に、救援物資を満載し、達夫自ら操縦桿を握った。


同乗するのは、冒険者ギルドから募った若者たち。


その中には、リクも、かつて達夫に教えを受けた元孤児たちもいた。


「行くぞ! この雨雲を、俺たちの力でぶっ飛ばすんだ!」


達夫の号令に、皆が「おおっ!」と応えた。


救援隊は、嵐の中を出発した。




南の湿原は、想像以上の地獄だった。


地面は完全に水没し、ところどころ足元が吸い込まれるほどのぬかるみになっていた。


馬車なら即座に沈んで動けなくなる。


だが——


スワンプ・バギー号は違った。


魔導浮上プレートが、車体をほんの数センチ浮かせ、軽やかに進んでいく。


泥の海を滑るように走り、次々と倒木や小川を乗り越えていく。


「すっげぇ! 本当に浮かんでる!」


リクたちは歓声を上げた。


途中、浸水してダメになった物資も、積み込み直し、魔導乾燥機で一気に乾かしていった。


熱風と除湿の力で、泥だらけの毛布も、ずぶ濡れの食糧袋も、元通りに近い状態に復元される。


「乾燥機、フル稼働だ! 次、毛布二十枚!」


「了解っ!」


救援隊は連携しながら、ひたすら物資を運び続けた。


やがて——


湿原の果てに、か細い火の灯りが見えた。


村だった。


浸水した土地の上に、かろうじて築かれた仮設小屋。


そこに、やせ細った村人たちが、目を潤ませて迎えてくれた。


「助かった……助かったよぉ……!」


泣きながら感謝する老女の手を、達夫はそっと握った。


「大丈夫だ。俺たちが来たからな」


救援は成功した。


食糧も衣服も、乾燥して清潔な状態で届けられた。


簡易テントも設営され、村人たちは冷たい泥から解放された。


そして何より——


魔導乾燥機の力で、病気の原因だった湿気と寒さを、根本から取り除くことができたのだ。




帰路。


雨はようやく上がり、空には一筋の光が差し込んでいた。


「やったな……」


リクが、達夫の隣で呟いた。


「ああ……でも、まだまだだ」


達夫は空を見上げた。


まだ見ぬ未来。


まだ手の届かない、数えきれないほどの困難。


だけど——


「俺たちなら、どこへだって行ける」


スワンプ・バギー号は、静かに泥の海を渡っていく。


未来という名の、大海原を目指して。

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