表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/101

第82話 魔導コピー機と、知識の洪水

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。


作品ナンバー2。

ほっと一息ついていただければ幸いです。

達夫が旅立ってから数か月。


弟子たちが異世界各地で家電文明を拡げ、ルメリア大陸は目まぐるしい速度で変わりつつあった。


アステリア王都では新たに設立された「魔導技術研究院」が、家電技術の普及と応用研究を進めていた。


その中心にいたのは、達夫の最初の弟子、ロイだった。


「……先生がいなくなっても、止まっていられない。俺たちがやるしかないんだ」


ロイは、そう心に誓っていた。


そして、彼が今取り組んでいたのが——魔導コピー機の開発だった。



魔導コピー機。


それは、紙に書かれた情報を一瞬で複製する、驚異の家電だった。


元々は達夫が旅の途中、"この世界には印刷技術すらない"と気づき、必要性を感じたのが始まりだ。


「一人の学者が書いた知識を、一冊一冊写本してたら、そりゃあ、進歩は遅いだろうなぁ……」


彼のそんな呟きを覚えていたロイは、魔力と技術を応用し、「情報を魔法で読み取り、転写する機械」を作ろうと試みたのだった。


しかし、開発は困難を極めた。


一番の問題は、紙質のバラバラさと魔力量の差だった。


この世界の紙は、羊皮紙や麻布に似たものが主流で、サイズも密度もバラバラだった。


さらに、使用者の魔力量によって、出力されるコピー品質にもばらつきが出る。


「うーん……これじゃ、大事な文書ほど失敗する……!」


ロイは何度も壁に突き当たった。


失敗作の山。破れた紙の山。消えかけたインクの山。


それでも彼は諦めなかった。


「先生なら、絶対ここで投げ出さない」


一心に、ただ一心に、彼は試作機を改良し続けた。


そして——ついに、それは完成した。



「……できた、これが、魔導コピー機《Magical Copier》だ!」


ロイは誇らしげに機械を撫でた。


外見は、達夫が持っていた"オフィス用複合機"をモデルにしていた。


石と金属と魔導回路で作られた本体には、原本を載せるためのガラス板があり、コピーを出すための魔導紙排出口が付いていた。


さっそく、王立図書館にあった古文書をコピーしてみる。


魔力を流すと、紫色の魔導光線が原本をなぞり、瞬く間に別の紙に複製される。


「おおおっ!!」


見守っていた研究員たちが歓声を上げた。


元の文字はそのままに、わずか数秒でそっくり複製されたのだ。


しかも、魔導紙は一般的な紙よりも安価で量産しやすい素材だった。


「これで、古文書も、学問書も、大量にコピーできる……!」


アステリアの学者たちは、こぞってロイの魔導コピー機に群がった。


今まで、貴族や聖職者だけが独占していた"知識"が、広く一般市民に開かれる時代が来る。


それは、ルメリア大陸の文明を根本から変えてしまう、静かな革命だった。



だが、ロイは浮かれてはいなかった。


「知識が広がれば、悪用する奴も現れる」


それもまた、達夫から教わったことだった。


事実、早速"偽造文書"を作ろうとする連中も現れた。


魔導コピー機の力を使い、偽の契約書、偽の領収書、果ては偽の勅令まで……。


「先生……俺、どうすればいいんだろう……」


ロイは夜の工房で、ひとり肩を落とした。


だが、思い出す。達夫のあの言葉。


『家電ってのはな、万能じゃねぇ。でもな、正しく使う人間がいれば、それだけで世の中は少しずつ良くなる』


「……そうだよな」


ロイは顔を上げた。


魔導コピー機には、使用者の魔力署名を記録する機能を追加した。


これにより、誰がいつ、どんなコピーを取ったかを管理できるようにしたのだ。


また、重要文書には「魔導認証印」を押す新制度も始まった。


本物と偽物の区別が、誰にでもすぐ分かるように。


ロイの努力は、確実に実を結び始めていた。



そのころ、旅の途中の達夫も、弟子たちの活躍の噂を耳にしていた。


「ロイが……コピー機か。やるじゃねぇか」


小さな酒場で、達夫はひとり酒をあおった。


弟子たちがそれぞれの場所で、家電を通じて世界を変えている。


それが、何よりの喜びだった。


「まだまだ、これからだな……」


皺だらけの手に、小さな震えを覚えながらも、達夫は笑った。


ルメリア大陸の未来は、間違いなく動き始めていた。


そしてその未来をつくるのは——弟子たちだ。


「頑張れよ、お前ら」


誰にも聞こえない声で、達夫は静かに呟いた。


星空が、どこまでも澄んでいた。

ブックマーク・評価・いいね、出来れば感想とレビューをお願いします!

モチベーション向上のため、よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ