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第61話  揺れる忠誠、秘めた誓い

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。


作品ナンバー2。

ほっと一息ついていただければ幸いです。

ゾルタニア帝国との小規模な衝突が続く中、ルメリア王国の前線基地では、ある報告が佐藤達夫のもとに届いていた。


「帝国軍の動きに、妙な間がある。奴ら、わざと我々に時間を与えている節があるのです」


報告してきたのは、かつて王都の情報局に勤めていた男、ライナー中佐だった。


彼は軍務に戻って以降、前線の諜報活動を一手に担っていた。


鋭い眼差しで地図を見下ろすライナーの指先が、戦線の隙間をなぞる。


「ここの開きが不自然すぎる。まるで、我々に“何かを仕掛けさせたい”かのように思えるのです」


「……まるで罠を仕掛けるために、餌を撒いているようなものか」


達夫は呟いた。


彼の目の前には、量産が進められていた“魔導センサー”の設計図が広がっていた。


これは、微弱な魔力の流れを検知して、不審な動きを知らせる装置で、ルメリア王国の最新魔導技術の一つである。


「これを前線に配備すれば、帝国軍の意図が明らかになるかもしれません」


「だが、配備には時間がかかる。……間に合うかどうか」


そのとき、部屋の扉が叩かれた。


「入れ」


現れたのは、軍服を身にまとった若き女性士官だった。


彼女の名はアリシア・フレイ。


王国軍の精鋭部隊“紅蓮の矢”の副隊長であり、かつて達夫が戦地で出会った人物の一人だった。


「中佐、マスター・サトウ。帝国の前線にて、異常な魔力の反応が確認されました。……新型兵器の可能性があります」


一瞬、空気が凍る。


「新型兵器? まさか、我々の“家電技術”を模倣したようなものか?」


「それは、確認できておりません。ただ、魔力の濃度と性質が、以前の帝国兵器とは明らかに異なっているのです」


達夫は考え込んだ。


帝国がルメリアの家電技術を盗み見ようとしているという疑惑は、以前からあった。


スパイ事件の記憶が、脳裏をよぎる。


「……まずは観測と検証だ。アリシア、君の部隊に“試作型センサー”を持たせ、前線に送り込んでくれ」


「了解しました」


アリシアは即座に敬礼し、部屋を去った。


数日後、前線から緊急通信が入った。


『こちら“紅蓮の矢”第一小隊! 帝国軍、新型魔導兵器を展開! 我々のセンサーが強力な魔力波を検出! 数分後に発射の兆候あり!』


その通信の直後――空が裂けた。


轟音とともに、帝国側の陣地から放たれた紫色の閃光がルメリア軍の防壁を貫いた。


魔導電磁波――まさに、達夫が考案した家電応用理論の副産物ともいえる技術だ。


魔力の波を増幅し、対象を一瞬で焼き尽くす。


「やはり……技術が漏洩していたのか」


達夫は苦悩した。


家電技術は本来、人々の生活を豊かにするためのものだ。


それが戦争の道具として転用されることに、心が痛む。


「……中佐」


その夜、アリシアが達夫の部屋を訪ねてきた。


彼女の瞳には疲労と、そして一抹の疑念があった。


「なぜ、帝国は我々の技術を知っていたのでしょうか? 情報が漏れたにしても、ここまで精緻に模倣できるのはおかしい……」


「……」


達夫は答えなかった。


だが、その沈黙がアリシアには一つの仮説を浮かび上がらせた。


「……まさか、我々の中に“協力者”がいる?」


達夫は小さく頷いた。


「そう考えるべきだ。内部に、家電技術に精通した者がいてもおかしくない。そして、それが誰かまでは……まだ分からない」


アリシアは唇を噛んだ。


「……私は、あなたの技術が戦争に使われるのを望まない。たとえ軍の一員であっても。だから、どうか……この状況を変えてほしい」


その言葉に、達夫は深く頷いた。


「……約束しよう。たとえ今は武器として使われていても、必ず道を正す。技術は人を殺すためのものではない。それを証明してみせるよ」


その数日後、ルメリア王国は“魔導通信機”による通信網を前線全体に構築した。


これにより、部隊間の連携は格段に向上し、帝国の魔導攻撃に対しても素早く対応ができるようになった。


そして、その裏で、達夫は一つの小さな装置を密かに開発していた。


「これが……“魔導識別チップ”か」


魔力の波長を個々に記録し、発信源を特定する技術。


これにより、誰が、いつ、どこで魔導装置を操作したかが記録される。


「この技術があれば、情報漏洩の“発信者”も特定できる……」


達夫の静かな決意は、新たな局面への序章に過ぎなかった。


――戦火の中で揺れる忠誠と、技術の進化。


その狭間に、彼の誓いは静かに燃えていた。

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