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第6話  魔導ドライヤーと、髪に宿る誇り

作品ナンバー2

ほっと一息ついていただければ幸いです。

その村の名は――セリフィア。


大森林〈エルゼの抱擁〉の中にひっそりと佇む、美しいエルフの隠れ里だ。


人の姿を持ちながら、長命で高い魔力を宿すエルフたちは、自然と共に暮らす誇り高き種族。


中でも彼らにとって“髪”は、精霊との絆を示す神聖な象徴だった。


だが近年、その誇りが脅かされていた。


 


「……髪が、抜けている? 精霊の加護が、消えている?」


佐藤達夫(60歳)は、初めて見る“エルフの嘆き”に困惑していた。


セリフィアに招かれたのは、王都から帰還したリーネの紹介だった。


彼女がかつて、里の長老に助けられた縁で「達夫なら何かできるはず」と頼み込んだのだ。


「ええ……村の若いエルフたちの間で、“髪の枯れ”が増えているの。精霊とのつながりが弱まり、髪が傷み、抜け落ちていく……」


説明するのは、村の若き巫女――エアリエル。


銀色の長髪を編み込んだ姿はまさに絵画のようだが、その瞳には深い不安が浮かんでいた。


「原因は?」


「この地の魔力が、年々ゆらいでいるのです。精霊もかつてほど人に力を貸さなくなり、髪に宿る“加護”が薄れてしまった……」


「なるほど……」


達夫は静かに、巫女の髪に触れた。


乾いて、パサついている。


枝毛も多く、根元は少し薄くなり始めている。


これは――現代日本で言う“ヘアダメージ”そのものだ。


「……俺に、任せてくれ」


「え?」


「髪はな、命だ。心の栄養、身体のバロメーター。そして、何より――その人の“生き方”が出るんだ」


達夫の脳裏に、家電量販店で応対していた数々の客の顔が浮かぶ。


出産を終えたばかりの母親、受験に奮闘する女子高生、髪を大切にしていた年配の女性――


「俺がこの世界でやるのは、ただの“文明の押し売り”じゃない。お前たちの“誇り”を取り戻すための手伝いだ」


 


こうして始まった、魔導ドライヤー計画。


「髪を乾かす」という行為は簡単に見えて、実は非常に奥が深い。


「大事なのは、熱の質、風の流れ、そして水分バランスだ」


達夫は、火属性魔石の中でも“穏やかな熱波”を出せる個体を選び、風属性魔石と組み合わせて、熱を偏らせずに風として送る構造を組んだ。


「さらに――これだ」


彼が取り出したのは、王都で入手した**“水精の涙”**と呼ばれるレアアイテム。


微細な水分を空気中に放つ、潤いの結晶だ。


「これを風の中に混ぜることで、髪を乾かしながら潤いを守ることができる」


仕上げにエアリエルが施したのは、精霊と共鳴する美の魔法陣。


それをドライヤーの外殻に刻むことで、使う者の魔力と共鳴し、髪の内側から癒す効果が付与された。


こうして完成したのは――


「魔導ヘア・リフレッシャー Type-S」


風はやさしく、音は静か。


香るように吹くその風には、どこか癒しの精霊の気配すら宿っていた。


 


数日後、セリフィアの広場では“美容の日”が開催された。


髪に悩む若きエルフたちが集まり、エアリエルが先陣を切って魔導ドライヤーを使って見せた。


「風が……あたたかくて、でも、熱くない……」


エアリエルの髪が、ゆるやかに風に揺れる。


艶やかな銀が光を帯び、枝毛が目に見えて少なくなっている。


「……さらさらだ!」


「おい見ろ、あの艶……まるで、精霊が宿っているみたいだ!」


「エアリエル様の髪が戻った……!」


驚きと感動が村に広がっていく。


さらに数名の若者がドライヤーを使い、髪の変化を体感していく。


彼らの表情には、徐々に“自信”と“誇り”が戻っていた。


 


その夜、達夫は村の祝宴に招かれた。


若者たちは再び髪に花飾りをつけ、誇らしげに笑っていた。


そして村長が、神殿の奥から古びた巻物を持ってきた。


「佐藤殿。これは我が一族に伝わる精霊の言葉だ。『髪は、命の川であり、心の鏡なり』とある」


「……いい言葉だな」


「あなたの作った道具は、文明の産物でありながら、我らの精神を傷つけなかった。むしろ、思い出させてくれた。髪に宿る意味を」


「……それが、俺の仕事なんでな」


達夫は静かに、杯を掲げた。


“ただ乾かすだけ”の道具ではない。そこにあるのは、髪を通じて“生き方”を取り戻す物語。


それこそが、魔導ドライヤーの真価だった。

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