第56話 魔導家電の進化と新たな脅威
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作品ナンバー2。
ほっと一息ついていただければ幸いです。
バルハ砂漠での戦いから数日が経過した。
ゾルタニア帝国の新兵器「漆黒の球体」を撃退したルメリア王国は、ひとときの平穏を取り戻していた。しかし、
達夫の心には新たな懸念が芽生えていた。
王都アステリアの技術局。
達夫はラゼルとともに、新たな魔導家電の開発に取り組んでいた。
「マスター、これが新型の『魔導エネルギー変換装置』です。従来のものよりも効率的に魔力を電力に変換できます」
「素晴らしい。これなら、前線基地の電力供給も安定するだろう」
達夫は満足げにうなずいた。
しかし、彼の表情にはどこか陰りがあった。
「ラゼル、最近、魔導家電の技術が急速に進化しているのを感じないか?」
「はい。特に、帝国側の技術進歩は目覚ましいものがあります」
「それが気になるんだ。我々の技術が、戦争を加速させているのではないかと」
達夫の懸念は的中していた。
ゾルタニア帝国は、ルメリア王国の魔導家電技術を模倣し、独自の兵器開発を進めていたのだ。
その頃、帝国の首都ゾルタニアでは、新たな兵器の開発が進められていた。
「これが、我が帝国の新兵器『魔導装甲兵』だ」
帝国の技術責任者が誇らしげに語る。
魔導装甲兵は、魔導家電技術を応用した自律型の戦闘兵器であり、従来の兵士を凌駕する戦闘能力を持っていた。
「これで、ルメリア王国を一気に制圧できる」
帝国の野望は、着実に現実のものとなりつつあった。
一方、ルメリア王国では、達夫が新たな家電の開発に取り組んでいた。
「これは……『魔導通信機』の改良型か?」
「はい。従来のものよりも通信範囲が広がり、暗号化機能も強化されています」
「素晴らしい。これなら、前線との連絡もより確実になる」
達夫は、魔導家電技術の進化に喜びを感じながらも、その技術が戦争に利用されることへの葛藤を抱えていた。
「技術は、人々の生活を豊かにするためにある。戦争の道具にしてはならない」
その信念を胸に、達夫は開発を続けていた。
しかし、平穏な日々は長くは続かなかった。
前線基地から、緊急の通信が届いたのだ。
「ゾルタニア帝国の新兵器が出現しました! 魔導装甲兵と思われる自律型の兵器です!」
その報告に、達夫は驚愕した。
「まさか、帝国がここまで技術を進化させていたとは……」
「マスター、どうしますか?」
「我々も、対抗手段を講じなければならない。新型の魔導家電を前線に投入しよう」
達夫は、開発中の新型家電を前線に送ることを決意した。
数日後、前線基地に新型の魔導家電が到着した。
「これが、新型の『魔導防衛システム』か」
「はい。自律型の防衛装置で、敵の動きを感知して自動で迎撃します」
「素晴らしい。これで、帝国の魔導装甲兵にも対抗できるはずだ」
前線の兵士たちは、新たな装備に希望を見出していた。
そして、ついに帝国の魔導装甲兵が前線に現れた。
「来たぞ! 全員、配置につけ!」
兵士たちは、新型の魔導防衛システムを起動させ、迎撃態勢を整えた。
「敵の動きを感知! 迎撃開始!」
魔導防衛システムが自動で攻撃を開始し、魔導装甲兵との激しい戦闘が繰り広げられた。
「システムが敵の攻撃を防いでいる! これなら勝てる!」
兵士たちは、新型家電の性能に驚きながらも、戦いに集中していた。
戦闘は激しさを増していたが、次第に魔導防衛システムが劣勢に立たされていった。
「敵の攻撃が強力すぎる! システムが耐えきれない!」
「くそっ! このままでは……」
その時、達夫からの通信が入った。
「新たな支援装置を送る。『魔導エネルギー供給装置』だ。これで、防衛システムの出力を強化できるはずだ」
「了解! 装置を接続する!」
兵士たちは、急いで新たな装置を接続し、防衛システムの出力を強化した。
「出力が上がった! これなら、敵の攻撃にも耐えられる!」
強化された防衛システムは、再び魔導装甲兵に対抗し、戦況は次第に王国側に有利に傾いていった。
戦闘が終わり、前線基地には静けさが戻った。
「なんとか、撃退できたな」
「はい。マスターの支援がなければ、危なかったです」
達夫の姿はホログラム通信越しだったが、その顔には安堵と同時に、深い憂いがにじんでいた。
「……このままでは、いずれ本当に取り返しのつかないことになるかもしれない」
「どういう意味ですか?」
兵士の問いに、達夫は少し間を置いてから言った。
「帝国の技術進化のスピードは、我々のそれとほとんど変わらない。もはや、技術の優位性では戦争の行方を決められないところまで来ている」
「では、どうすれば……?」
「今はまだ考えがまとまらない。ただ、どこかで誰かが“終わらせる選択”をしなければならない日が来るだろう。技術者として、私はそれを見据えておかなければならないと思っている」
静寂が通信回線を通じて伝わる。
やがて、兵士が小さくうなずいた。
「その時は、私もマスターと共に戦います」
「ありがとう。でも願わくば、次の戦いは家電で戦うのではなく、言葉と知恵で解決できるものであってほしい」
通信が切れた後、達夫は椅子にもたれかかり、天井を見上げた。
ふと、開発室の片隅に置かれた小さなラジオに目が留まる。
以前に完成した「魔導携帯ラジオ」だった。
「……音楽でも流してみるか」
そうつぶやいて、魔導ラジオのスイッチを入れる。
ノイズ混じりに、古いクラシック音楽のような調べが流れ出した。
その旋律は、兵士たちの眠る仮設ベッドにも届き、どこか遠くの故郷を思い出させるような、優しい音色だった。
達夫は静かに目を閉じる。
これからも戦いは続くだろう。
だが彼の中には、家電の力で戦いを終わらせるという、確かな希望が灯っていた。
そしてその夜、王都ではエリシア神殿の鐘が静かに鳴り響いていた。
それは、平和を祈る祈りの鐘だった。
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