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第5話  魔導炊飯器と農村の希望

作品ナンバー2

ほっと一息ついていただければ幸いです。

そこは、王都から馬車で三日、深い森を抜けた先に広がる農村、アミル村。


四方をなだらかな山に囲まれたこの地は、かつては豊かな実りをもたらす“穀倉地帯”として王国に重宝されていた。


しかし、近年では気候変動と魔獣被害、若者の都市流出が重なり、衰退の一途をたどっていた。


そんな村に、ひとりの男が降り立った――


 


「……それで、俺をこの村に呼んだ理由ってのは?」


佐藤達夫(60歳)は、ほこりをかぶった麦わら帽子をかぶり、畑を見下ろしていた。


彼の隣には、元気の良い少女――リーネが立っていた。


年は15ほど、茶色の三つ編みに、快活な笑顔がよく似合う。


「おじさん、違う違う! ただ村に来てほしかったわけじゃなくて、“おじさんの作った炊飯器”がほしいの!」


「炊飯器……?」


「そうよ! 王都の宿屋で食べた“ふわっふわでピカピカのごはん”が忘れられないの! あれがあれば、村の米ももっとおいしくなると思って!」


思わず笑みをこぼす達夫。


「なるほど。そういうことか」


炊飯器。


日本では当たり前の家電だが、この世界では“ごはんを炊く”という行為そのものが難しい。


火力の調整が難しく、焦げたり芯が残ったりすることも日常茶飯事。


さらに、穀物文化が弱いため、パンやスープが主流の地域では“米”の価値が十分に評価されていない。


「だったら俺が、“この世界で最高のごはん”を炊いてやろうじゃないか」


 


拠点となる村の作業小屋にて、達夫は製作に取りかかっていた。


「まずは、炊飯に必要な要素を整理しよう。加熱制御、圧力調整、水分量の最適化……それから魔力供給の安定か」


彼が使ったのは、火属性魔石と水属性魔石の複合制御。


そして鍋の内部に精密な魔法陣を刻み、魔力の流れによって火力を段階的に切り替える機構を組み込んだ。


「この“魔導炊飯器・Type01”は、三段階炊き上げモードを搭載してる。最初は高火力で沸騰、その後中火で蒸らし、最後に余熱でふっくら」


さらにリーネの提案で、“村の米の特徴”に合わせた個別モードも追加された。


「この村の米は粘りが少なくてパサつきやすいの。だから水分をちょっと多めにして、じっくり火を通したほうが美味しいと思う!」


「いい着眼点だな。だったら、ふっくらモードとでも呼ぶか」


こうして完成した魔導炊飯器は、外装こそ素朴な陶器のようだったが、その内部は“魔法×家電”の結晶だった。


 


数日後、村の広場では炊飯実演会が開催された。


用意されたのは、アミル村で収穫されたばかりの新米。


大釜で炊くのが常識だったこの村で、小さな壺のような炊飯器が並ぶ光景は、奇異と期待を呼んだ。


「さあ、炊きあがるまで……約20分です」


達夫の合図とともに、魔導炊飯器が起動する。


しゅううう……という魔力蒸気の音。


ふんわりと立ち昇る、米の香り。


「この香り……なんだか、懐かしい気持ちになるね」


村の老人がそう呟いた。


そして――


パカッ、と蓋を開けた瞬間。


「……!」


「……こ、これは……!」


炊きあがったごはんは、まさに真珠のような輝き。


ひとくち食べたリーネが、目を見開いた。


「な、なにこれ!? ふわふわで、甘くて、もちもちしてる! いつものお米が、まるで別物!」


「へえ……炊飯だけで、ここまで変わるとはな……」


「俺たちの米、こんなにうまかったのか……!」


村人たちは衝撃を受けた。


まるで、自分たちの手で作った作物が、新たな命を吹き込まれたような、そんな感覚。


その日から、村では炊飯器を囲むようにして食卓が賑わい、若者の間でも“米作り”への関心が高まっていった。


 


その夜。村の宴にて。


リーネの祖父であり、村長でもある老人が、達夫に頭を下げた。


「佐藤殿……あなたの知恵が、この村に光をくれた。今まで米の価値を、私たちは見誤っておったのかもしれん……」


「いやいや、俺がやったのは“炊き方”をちょっと工夫しただけです。米を作ったのは、みんなだろ?」


「その“ちょっと”が、我らにはできなかったのです」


静かに、杯を交わす二人。


「ところで、佐藤さん。俺、決めたことがあるんだ」


リーネの祖父が前を向く。


「将来、アミル村を“米の里”として再興する! お米の美味しさを、この世界中に広めるんだ!」


「……いいねぇ。なら俺も、“炊飯器の普及率100%”目指して頑張るよ」


炊飯器を通じて見えた希望。


それは、ただの便利な道具ではなく、人の心と村の未来をつなぐ、魔法そのものだった。

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