第48話 失われた誓いと古文書の謎
いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー2。
ほっと一息ついていただければ幸いです。
風が乾いた大地を撫でていた。
ここは、ルメリア王国の北東に広がる高原地帯。
かつては交易の要所として栄えたが、十年前の戦乱で廃れ、今では風の音だけが響く、静寂の地となっていた。
「……間違いない。この石板、王都の魔導技術研究所に保管されていた記録と一致する」
佐藤達夫は膝をつき、風に舞う砂を払いながら、目の前の古びた石板を凝視した。
その石板には、既知のルメリア文字ではない、古代語に近い複雑な文様が刻まれていた。
達夫の隣には、研究所の若手魔導師・ラゼルと、考古学者として名高いアステリア大学の教授・フェン=リグルトの姿があった。
「それは“リグレア式記録装置”と同じ構造だ。だが、これは……情報を“封印”しているな。普通に読めるものじゃない」
「情報を封印……まさか、これが“預言石”なのか?」
ラゼルが目を見開いて問いかけると、フェン教授は首を縦に振った。
「伝承によれば、太古の時代に“大破壊”を防ぐため、叡智のすべてを記録した石板が存在したという。だが、それは寓話のようなものだった……今まではな」
達夫は静かに立ち上がり、周囲を見渡した。
石板が発見されたこの場所――かつて“イシュ=カーレ遺跡”と呼ばれたこの地は、数年前までは盗掘者によって荒らされていたという。
「その寓話が本当だとしたら……この石板に何が封じられているか次第で、世界の均衡が崩れる可能性すらあるな」
「だからこそ急ぐ必要がある。敵国の動きも活発化しているし……」
フェン教授の言葉に、達夫は小さく頷いた。
彼らはこの“古文書”を王都に持ち帰り、魔導技研ラボで解析を進めることにした。
王都アステリア。
魔導技研ラボ、深部の封印研究区画。
達夫は、魔導電子辞書に保存された古代語のデータと、フェン教授の解析をもとに、慎重に石板の封印を解除していった。
「解除には三つの魔素系統と、一定の言語パターンの一致が必要だ。……ここが正念場だな」
ラゼルが魔素の安定化を担当し、達夫が解読にあたり、フェン教授が石板に直接触れて文様の構造を追った。
三人の呼吸は、まるで精密機械のようにかみ合っていた。
そして、解読が始まってから六時間が経過したとき――
「開いた……!」
石板が淡い光を放ち、中心部が空洞のように開いた。
その内部には、もう一枚の薄い板が収められていた。そこには、こう記されていた。
“この記録を読む者よ。我らは過ちを繰り返してはならぬ。魔導技術は人を救いもするが、滅ぼしもする”
“これは、我らが誓い――『ルメリア四賢者の契り』”
「四賢者……?」
達夫は記憶を遡った。
ルメリア王国が建国された初期、王の側近には“四人の賢者”がいたという。
だが、その正体や行動は、記録が乏しく、今や歴史の霧の中だった。
だが今、石板がそれを否定している。
彼らは確かに存在し、しかも“魔導の暴走”を防ぐため、ある技術を封印したのだ。
さらに、その記録の中には“再封印の条件”と、“万一封印が解かれたときの備え”までが書かれていた。
その内容は、まさに――
「……これは、“魔導災害”を防ぐための緊急マニュアルだな」
達夫は呟いた。
彼は思った。
これは単なる発見ではない。
これは“過去からの警告”なのだ。
数日後。
王都アステリアの王宮、ラダン・エルトマール四世の謁見の間。
達夫は、王と王国宰相、軍部の長官らの前で、発見された古文書の内容を報告していた。
「つまり、その石板には、過去に魔導技術が暴走し、多くの命が失われた記録が……?」
「はい。そして、それを防ぐために、“ある技術”が封印された可能性があります」
「それは……どのような?」
「まだ解析の途中ですが、“魔導炉”と呼ばれる、極めて強力なエネルギー炉の設計図のようです。正しく使えば王国を何百年も支えられるほどの技術……しかし、使い方を誤れば、都市一つを焼き尽くす危険性を持つ」
謁見の間に緊張が走った。
「……達夫殿。その技術を復元するつもりか?」
国王の問いに、達夫は静かに首を振った。
「いいえ。今はまだ、復元の時ではありません。まずは、その技術がなぜ封印されたのか、四賢者がどのような決断を下したのか――それを知ることが先決です」
「賢明な判断だ」
王は深く頷いた。
「そなたには、今後も“過去と未来の橋渡し役”を担ってもらう。魔導が人の手に余る力とならぬよう、見守ってほしい」
達夫は膝をつき、静かに答えた。
「御意」
その夜。
達夫は、研究所の自室でひとり、開かれた石板の写しを見つめていた。
その文字のひとつひとつが、過去の人々の“叫び”のように感じられた。
魔導技術は、便利で、力強く、人々を助けるものだ。
しかし、間違えば、その手で人を傷つけることもできる。
「……これが、“叡智を継ぐ”ということなのか」
静かに呟く達夫の胸に、ひとつの決意が芽生えていた。
『もう一度、この技術を見つめ直す時が来ている。世界が再び、同じ過ちを繰り返さないように』
そして彼は、遠くを見つめるように、そっと目を閉じた。
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