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第45話  魔導冷却装置と、熱砂を越える者たち

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。


作品ナンバー2。

ほっと一息ついていただければ幸いです。

ルメリア王国の南部、灼熱の砂漠を越えた先にある交易都市カーマ。


そこは、他国との交易の要衝でありながら、近年の気候変動により日中の気温が異常なまでに上昇し、都市機能そのものが危機に瀕していた。


真昼には気温が50度を超え、井戸の水は蒸発し、金属が素手で触れられぬほどに熱せられる。


人々は日中の外出を避け、夜の間に活動を行うようになっていたが、それでも病人や高齢者の熱中症は絶えず、街の医療施設は悲鳴を上げていた。


「このままでは、カーマの民が全滅してしまう」


そう悲痛な声で訴えてきたのは、カーマの長老会から派遣された使者だった。


王都アステリアの王宮と魔導技研ラボにて緊急会議が開かれ、佐藤達夫の名が再び挙がる。


「達夫様、またご無理を承知で頼まねばなりません。どうか、この熱砂の問題を解決する手立てを……」


達夫は真剣な表情で資料に目を通し、やがて顔を上げた。


「……まだ試作段階だが、気温を下げる装置がある。魔導冷却装置だ」


それは、彼が異世界の夏を想定して開発していた“冷房”に相当する装置だった。


魔力を利用し、空間内の熱を吸収し、魔結晶を通して排熱する構造を持つ。


だが、問題はその規模だった。王都の小部屋で動かす程度の出力しかなく、街全体に効果を及ぼすには改良が必要だった。


「大規模出力用に変換結晶を再設計すれば、都市一帯を冷却することも不可能ではありません」


と、ラゼルが補足した。


「やるしかない。放っておけば、カーマの人々は確実に死ぬ」


こうして、急ピッチで魔導冷却装置の大型改良型が開発された。


装置の中心部には巨大な冷却結晶を据え、周囲に熱気を吸い込む羽根状の魔導吸引口を設けた。


排熱は地中深くに送り、砂漠の熱風に干渉しないよう設計されている。


達夫とラゼルは、王国軍の協力のもと、大型輸送用魔導車に装置を積み込み、炎天下の砂漠を越えてカーマへと向かった。


砂の嵐が舞い上がる中、巨大な輸送車が都市カーマの城門を潜ると、住民たちが驚きと期待のまなざしで彼らを迎えた。


街の中心、広場に設置された魔導冷却装置が稼働を始めると、周囲の空気が明らかに変化した。


「……涼しい! 空気が軽い!」


「神の祝福か!?」


子どもたちが装置の周りではしゃぎ、長老たちは感激の涙を流した。


だが、それはあくまで装置の一台に過ぎず、都市全体に冷気を行き渡らせるには時間がかかる。


達夫たちは、複数の設置ポイントを定め、日夜問わず設置作業を続けた。


しかし、問題は装置の魔力供給だった。都市の魔力炉は老朽化しており、十分な出力が得られなかった。


「どうする? これじゃ一晩持たないぞ」


と、作業員の一人が顔をしかめる。


達夫は迷わず自らの魔力を直接供給する形に切り替えた。


補助として、ラゼルも力を貸す。


だが、数日が経つと二人の体力は限界に近づいていた。


そんなとき、街の若者たちが名乗り出た。


「俺たちにも、できることがあるはずだ! 魔力なら少しだが使える!」


達夫は頷き、魔導冷却装置に魔力供給を分散する方式へと変更した。


市民たちが交代で魔力を注ぎ、装置は持続的に稼働を続けることができるようになった。


やがて、都市全体に冷気が広がり始めた。


昼でも人々が街を歩けるようになり、商業活動が復活。交易も再開され、カーマは再び活気を取り戻していった。


「おかげで街が生き返ったよ。これは……もう、ただの家電じゃないな。人の命を救ったんだ」


老いた長が達夫に語りかけると、彼は静かに答えた。


「家電は、ただの道具だ。でも、それをどう使うかは人間次第だ。俺は、人を殺すより、人を生かす道に使いたい」


その言葉は、砂の熱気を越え、カーマの人々の胸に深く刻まれた。


数日後、王都へ戻る途中。夜の砂漠で見上げた星空の下、達夫はつぶやいた。


「……人が生きていくために、家電はある。それだけは、どんな戦乱の中でも変わらない」


ラゼルは微笑み、頷いた。


「次は、どこへ行きましょうか?」


「……風の吹くほうへだな」

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