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第41話  魔導サーキュレーターと、風を読む将軍

ルメリア王国と隣国ヴェルダス公国との間に、微妙な緊張が続いていた。


両国の国境地帯では、交易商たちの往来は減り、代わりに偵察騎士や哨戒隊が目立つようになっていた。


そんな中、アステリア王都の魔導技術研究所、通称「魔導技研ラボ」に、ひとりの軍人が訪れた。


「初めまして。私はルメリア王国軍第七師団、戦術顧問のガイル・セイバー将軍です」


鋭い眼光と引き締まった体躯を持つその男は、佐藤達夫の前に立ち、深く一礼した。


「戦場での風向きを自在に操れる装置があると聞きました。ぜひ、それを戦術に活かしたい」


ガイル将軍の言う装置とは、達夫が最近開発した『魔導サーキュレーター』だった。


これは、魔力を動力とし、周囲の空気を効率よく循環させることで、特定方向への強風や微風を自在に生み出せる装置である。


もともとは、暑さ対策として城内や病院などに設置することを想定していたが、ガイルはこれを戦術的に転用しようとしていた。


「なるほど、視界を悪くする砂塵を巻き上げたり、矢や魔法の軌道を操る……。面白い発想ですね」


達夫は少し驚きながらも、ガイルの目に真剣さと責任感を見て取り、協力を決意する。




それから数週間、達夫とガイル将軍は実戦形式のテストを行った。


開けた高原地帯で、魔導サーキュレーターを複数台配置し、風の流れを調整することで、敵軍の視界を奪い、自軍の奇襲を成功させるという戦術実験だった。


結果は驚くべきものだった。


「矢の軌道が……本当に風で逸れていく……!」


「視界が……煙幕よりも自然に……!」


兵士たちの驚きの声が飛び交う中、ガイル将軍は確信を得ていた。


「これは……戦術の革命だ。風を読む時代から、風を“操る”時代へと変わる……!」




やがて、ヴェルダス公国との間に小規模な衝突が発生した。


通常ならば膠着状態に陥るような地形だったが、ガイル将軍は魔導サーキュレーターを使い、風向きを操ることで優位を築き、見事に敵軍を撤退させた。


だが、その夜。


達夫の心には一抹の不安がよぎっていた。


「これは……家電じゃない。武器になってしまっている……」


サーキュレーターの前に立ち尽くし、静かに稼働音を聞きながら、達夫は呟いた。


「本当に……これでよかったのか……」


だが、ラゼルがそっと声をかける。


「でも、達夫様が作ったからこそ、無差別な破壊ではなく、局地的な戦術に使えたんです。誰かが使うなら、信じられる人が使うべきだと思います」


達夫は目を閉じ、深く息を吐いた。


「……そうだな。戦争を止められなくても、少しでも傷を浅くすることができるなら……」


風はまだ吹き続けていた。人の手によって、そして家電の力によって。


次にその風が運ぶのは、希望か、破滅か。


それは、まだ誰にも分からなかった――。

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