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第4話  魔導電子レンジと、戦場の料理人

作品ナンバー2

ほっと一息ついていただければ幸いです。

剣と魔法の世界――ルメリア王国。


そこに、今日も一人の老人がいた。


魔導技研の奥深くで、真剣な眼差しを浮かべながら、魔石を手に何かを組み上げている。


「……これで、発熱魔法陣と時間制御術式の接続は完了……!」


溶接機も、ドライバーもないこの世界で、佐藤達夫(さとうたつお・60歳)は自分の知識と魔導技師たちの協力のもと、“電子レンジ”の開発に挑んでいた。


「これで“チン”できるぞ……!」


彼の手元にあるのは、まだ試作段階の魔法電子レンジ。


だが、彼が目指すのは単なる調理機器ではない。――それは、“戦場の希望”だった。


 


ことの発端は、王都にある「騎士団」からの依頼だった。


最近、国境付近で魔物の活動が活発化しており、各地の前線基地に兵士が長期駐留しているという。


そこで問題となっているのが、兵士たちの食事だった。


前線では調理の手間も時間も取れず、保存食や干し肉、冷めたスープでなんとか命をつないでいる状況。


栄養不足から体調を崩す者、戦意を失う者も出始めているという。


「だから頼む、佐藤殿。前線で“温かい食事”を素早く提供できる魔導具を、開発してもらえないだろうか」


そう言って頭を下げたのは、王国軍・第二騎士団長のガルド・アインバーグ。


豪胆な見た目に似合わず、部下思いの熱い男だった。


 


「……電子レンジか……。いや、“魔導電子レンジ”ならいける」


佐藤は即答した。


もともと電子レンジの仕組みは、マイクロ波を使って水分子を振動させ、物体を加熱するもの。


しかしこの世界に“電波”という概念はない。


だが代わりに、発熱魔法という存在があった。


「魔力で対象の内部から熱を発生させる。まさに魔法で“レンジ加熱”ができるじゃないか……!」


佐藤の頭の中に、一気に設計図が描かれていく。


・内部を均等に温めるための、多重熱波魔法陣

・焦げや過加熱を防ぐための時間制御術式

・金属を使えないため、容器は耐熱魔導ガラスで制作

・“音”は鳴らせないが、ランプで完了を示す仕組みに


「……よし、これで試作に入ろう!」


 


それから数日後。


試作機「MagiMicrowave 01」は、魔導技研の厨房にてその姿を現した。


見た目は木枠に覆われた小さな箱。


だが中には、複数の魔法陣が緻密に配置されている。


「さて……まずは、あらかじめ煮ておいた“野菜スープ”を冷ましたものを試してみるか……」


佐藤はスープの入った魔導ガラスの器を中にセットし、扉を閉める。


「発熱魔法、レベル3、時間は……30秒!」


パチン、とスイッチを入れると、内部で魔法陣が淡く光を放ち始めた。


中のスープは静かに震え、やがてふつふつと湯気が立ちのぼる。


「……止まったな。さて、お味は――」


一口すすると、程よく温かく、風味もそのまま。


まるで作りたてのような味わいだった。


「やった……! 成功だ……!」


 


そこへ、厨房の扉が開く。


「達夫さ~ん! あっ、やっぱり何か作ってる~!」


現れたのは、食堂の料理係を務める若き料理人、ミーナ。


彼女は元々王都の食堂で働いていたが、佐藤の魔導具に感銘を受け、魔導技研に“食の開発アドバイザー”として参加することになった娘だ。


「それって、もしかして新しい調理器具? 魔導オーブンの改良?」


「いや、これは“魔導電子レンジ”。冷めた料理を、すぐに温め直せる機械だ」


「え!? それ……めっちゃ便利じゃないですか!」


佐藤は、スープを一杯差し出す。


「飲んでみな。冷めてたスープが30秒でこの温度になる」


ミーナはスプーンを口に運び、目を見開いた。


「すごっ……! え、味も全然落ちてない! どうなってるの、これ……!?」


「内部の水分を揺らして、熱を生む魔法を使ってる。あと焦げ防止の時間制御も組み合わせてるんだ」


「つまり、煮込みすぎも焦げもない、時短調理……!」


ミーナはしばし沈黙した後、ぽつりと呟いた。


「――これ、戦場に持っていけたら、救われる人、いっぱいいますね」


 


そして――


数日後、王国北方に位置する前線拠点・ファルス砦にて、魔導電子レンジの実地運用が始まった。


兵士たちの食堂は、もはや“戦場のオアシス”である。


「な、なんだこの温かい飯は!?」


「干し肉が……やわらかい!? 中まで火が通ってる!」


「このスープ、冷えてたのが温かいぞ!?」


兵士たちの顔が、一人、また一人とほころんでいく。


そして厨房では、ミーナが奮闘していた。


「次、団長用のシチュー温めて! はい、温野菜のリクエストも入ったわよ!」


「了解です、ミーナさん!」


数人の助手と共に、魔導電子レンジがフル稼働していた。


「達夫さん……すごいですよ、これ……。温かい食事が出せるだけで、兵士たちの表情が全然違う!」


 


そこへ、ガルド団長がやってきた。


「おお、ミーナ殿。これは見事な……!」


「はい! 達夫さんの設計を元にした、魔導電子レンジです。これで前線でも、心があたたかくなります!」


その言葉に、ガルドは深く頷いた。


「戦場とは、命を懸ける場所だ。だが、戦う者に必要なのは、剣だけではない。温かい食事と、人のぬくもりだ」


「そのための……家電ですからね」


ミーナの目に、少し涙が滲んでいた。


「そしてこれが……私たちの“料理”です」


 


王都に戻った佐藤は、魔導技研の報告書を読みながら一人呟く。


「前線に、温かい飯が届いたか……。なら、次は――」


ふと窓の外に目をやると、町の広場で子どもたちが遊び、商人たちが元気に声を上げていた。


彼の家電は、着実にこの世界を“便利”にしていた。


だが、それはただの便利さではない。


――人々の心を、少しでも楽にし、笑顔にするための力だ。


 


「よし、次は“冷暖房”だな……!」


老人の挑戦は、まだまだ続く――。

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