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第30話  魔導ヘアアイロンと、王妃の秘密

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。


作品ナンバー2。

ほっと一息ついていただければ幸いです。

ルメリア王国王都・アステリアの朝は、美しい鐘の音とともに始まる。


陽光は王宮の尖塔を黄金に染め、澄みきった空気の中で白鳩が舞う。


だが、その荘厳な景色の裏で、王妃レイナにはある“悩み”があった。


「……どうしても、まとまらないのです。このくせっ毛さえなければ、公式の式典ももっと自信を持って出られるのに……」


彼女は鏡の前で、柔らかなウェーブがかかった栗色の髪を指先で撫でながら、深いため息をついた。



一方そのころ、佐藤達夫は王都の技術騎士団詰所にいた。


「なるほど。つまり王妃様の髪型の悩みを解決してほしい、と?」


依頼を持ち込んできたのは、王室付きの侍女頭ミランダだった。


彼女の表情には、ただならぬ真剣さが宿っている。


「王妃様は、自らを美しく保つことで国民に勇気を与えたいとお考えなのです。しかし、かねてよりくせ毛に悩まされており……魔法でも完全には解決できず……」


「なるほどねぇ。確かに“外見”というのは、侮れない影響力がある」


達夫は顎を撫でながら、すぐさま作業台に向かった。


「よし、“魔導ヘアアイロン”を開発してみましょうか。これは私の世界でも、美容師や女性の間で重宝されていた家電のひとつですよ」



試作品はすぐに完成した。


小さなプレートを持つ金属製の筒。


中に熱伝導性の魔導鉱石を仕込み、炎の魔石と風の魔石を同時に内蔵。


高温で髪をまっすぐにし、同時に魔風でダメージを最小限に抑える構造だ。


達夫はミランダに手渡し、操作方法を丁寧に説明した。


「温度調整はこの魔石で行います。熱がこもりすぎると自動で冷却魔法が作動する安全設計です」


「素晴らしい……これが異世界の知識……!」



翌朝。王妃の私室。


「では、始めましょうか……」


ミランダが緊張した面持ちで魔導ヘアアイロンを握ると、やがてその先端から心地よい魔力の熱が放たれ、王妃の髪に吸い込まれていった。


「……あら、これは……まるで絹のような手触り……」


わずか十五分で、レイナの髪はまるで別人のように、艶やかでまっすぐに整えられていた。


鏡に映る姿に、彼女は目を丸くした。


「これが、わたくし……?」


数年ぶりに見た“理想の自分”の姿に、王妃は静かに涙を流した。



その日の午後、達夫は王宮に呼び出され、王妃直々に謁見を賜った。


「あなたが……この素晴らしい魔導具を作ってくださったのですね」


「はい、王妃様のお役に立てて光栄です」


達夫が深く頭を下げると、王妃はしばしの沈黙の後、そっと口を開いた。


「わたくしは幼いころ、平民でした。とても貧しい家庭に育ち、食べるものにも困る日々……。それでも母は、どんなに苦しくても髪をとかしてくれたのです。“人は姿勢と髪で人生が変わる”と……」


王妃は遠くを見つめながら語った。


「このくせ毛は母譲り。だからこそ大切にしていたのですが……王妃という立場になってからは、思い通りに整わぬ髪が“恥”のように扱われてきました」


「……」


「ですが、あなたの発明で初めて……母の愛と自分の髪が、両方とも“誇り”になれた気がするのです」


その言葉に、達夫は胸が詰まり、言葉を返せなかった。



魔導ヘアアイロンは、王妃の推薦もあり、王都の美容師たちの間で爆発的に広まりを見せた。


さらに、王妃レイナはこの日をきっかけに、より積極的に公の場へと姿を見せるようになった。


「ルメリア王国に、美しき王妃あり」


その噂はやがて周辺諸国にも伝わり、外交にも小さからぬ好影響を与えることになる。


王妃は密かに、魔導ヘアアイロンを“運命を変えた贈り物”と呼び、今も大切に使い続けているという。

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