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第3話  回れ、魔導洗濯機!~おばあちゃんを笑顔にする、洗濯革命~

作品ナンバー2

ほっと一息ついていただければ幸いです。

異世界ルメリアに、“冷蔵保存”という概念が誕生してから数週間。


佐藤達夫の手によって開発された魔導冷蔵庫は、「食材が腐らない!」「薬草の鮮度が長持ちする!」と一部の貴族たちや商人の間で爆発的に話題となった。


ルメリア王国では今、彼の作る“文明の片鱗”が静かに、だが確かに人々の暮らしを変えつつある。


 


「おじいちゃん、今日も魔導技研?」


「ん? ああ、ライリーくんか。おはよう」


ラボへ向かう途中、町の少年に声を掛けられる。


佐藤は今や、町の人々にとって“ちょっと変わったけど頼れるおじいさん”というポジションになっていた。


あの冷蔵庫の一件以降、魔導技研には多くの依頼や提案が舞い込むようになっていた。


「次は“服を綺麗にする箱”ができるって聞いたけど、本当なの?」


「おうよ。“魔導洗濯機”ってやつだ」


「すっげぇええ! 俺んち、母ちゃんが手で洗ってて大変なんだ。早くできるといいな!」


佐藤は笑って手を振り、再び歩き出す。


――そう。


次なるテーマは、「洗濯機」。


剣も魔法も使えない佐藤にとって、家電こそがこの世界で戦う“武器”。


冷蔵庫が成功した今、彼の目はすでに次の「生活革命」に向いていた。


 


再び訪れた魔導技研ラボでは、若き魔導技師ライゼンとその仲間たちが慌ただしく動き回っていた。


「達夫さん、昨日の回転機構の図面、確認いただけますか?」


「おう、見せてくれ」


机の上に広げられたのは、洗濯槽を回すための魔法陣設計図だ。


現在のこの世界では、洗濯はすべて手洗いが主流。


大量の水を汲み、服を擦り、絞り、干すという重労働が、主婦や年配者たちの負担になっていた。


「……ライゼンくん、この“回転陣”はよくできてるな。水の流れを利用して、自然にドラムを回す構造か」


「ええ、水属性の魔法を制御して、連続的な流れを発生させるよう調整しています。あとは服が絡まらないよう、内部に仕切りを設ける予定です」


「じゃあ次は“洗剤”だな。この世界に、界面活性剤みたいなものは……?」


「洗浄草っていう植物があります。煮出すと泡が出て、汚れを落とす効果があると聞いたことが」


「それだ! 乾燥して粉末状にして、一定量を水に溶かして使えるようにすれば、こっちの“洗剤ポケット”にセットできる」


佐藤は勢いよく設計図に線を引き、構造を描き変えていく。


「次に排水処理だな。水をそのまま捨てたら衛生的に良くないし……“浄化魔法陣”を排出口に組み込めないか?」


「浄化魔法なら、初級魔導士でも常備してるくらい簡単です! すぐに試作してみます!」


「おお、頼もしいなぁ!」


 


その日の午後。


佐藤とライゼンは、王都郊外の一軒の家を訪れていた。


そこは、貧しいながらも慎ましく暮らしている老婦人――マーナ婆さんの家。


この世界の住人の多くは、洗濯に魔法など使えない。


特に高齢者や病人には、洗濯という作業自体が命がけの重労働だった。


「達夫さん、こんなところにまで……わざわざすまないねぇ」


「いえいえ、むしろこういう方にこそ使ってもらいたくてね」


庭の隅に運び込まれたのは、木と金属と魔導石でできた、試作型“魔導洗濯機・Type-0”。


外見は昔の二槽式洗濯機を彷彿とさせるクラシカルなデザインだが、内部には魔力で水を循環させる機構と、回転する洗濯槽、さらには自動で泡立てる洗剤混合ユニットが備わっている。


「さて……電源、じゃなかった、魔導石をセット……水注入……スイッチ、オン!」


ガコン、と音を立てて回転が始まる。


洗濯槽の中で、衣類が水と泡に揉まれながらぐるぐると回り出した。


「……! な、なんだいこりゃあ……服が勝手に……回っとる……!」


マーナ婆さんが、目を丸くして言った。


「すすぎ工程も自動ですよ。最後に脱水までやります」


「だ、脱水!? 水まで切ってくれるのかい!?」


佐藤は得意げに頷く。


「ええ。力を込めて絞らなくても、この“回転力”で水分が遠心的に飛んでいく仕組みです。脱水中は少し音が出ますけど……」


「そんなの構いやしないよ……わたしゃ……わたしゃあ……!」


ぽろぽろと、老婦人の目に涙が浮かぶ。


「長年、腰が痛いの我慢して洗ってたんだよ……でも、今は、手も動かんし、若いもんに頼むのも気が引けて……」


「これがあれば、もう無理しなくて済みますよ。しかも“全自動”です」


「ぜんじどう……?」


「そう。服を入れて、洗剤入れて、魔導石差し込んだら、あとはほったらかしで全部やってくれます」


マーナ婆さんは、洗濯機にすがりつくようにして何度も頭を下げた。


「ありがとうよぉ……達夫さん……こんな……こんな便利なもんを、わしみたいな年寄りのために……!」


「俺が売ってたのは“便利な道具”だった。でも、本当に届けたかったのは、“笑顔”なんだよ」


 


試作機の成功を経て、王国中に“魔導洗濯機”の噂が広まり始めた。


水の確保、魔導石の補充、洗剤の安定供給など、課題はまだ多い。


だがそれでも、洗濯という家事から解放されるという革命的な体験は、多くの人々に希望を与えた。


 


そして、王城での技術報告会。


佐藤は、開発責任者として王族の前に立つ。


「我々は、洗濯という日常の苦労を、魔導と技術で解決しました。“誰でも、簡単に、清潔な暮らし”ができる時代が来ます」


その発表に、王族たちは称賛の拍手を送った。


だがその中で、佐藤の隣に立つ女神・エリシアだけは静かに見つめていた。


「達夫さん。あなたは、あの老婦人のために洗濯機を作ったんですね」


「ああ。誰かの生活を、ちょっとでも楽にしたいって思っただけですよ」


「それが、この世界の“本当の救い”なのかもしれません」


女神は微笑んだ。


ルメリアを“家電の魔法”で変えていく男――佐藤達夫。


彼の挑戦は、まだ始まったばかり。


次なる革命は、さらに人々の暮らしを一変させる“調理の魔法”――


そう、“電子レンジ”の開発だった。

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