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第22話  魔導炊飯器・改と、王都アステリアの台所革命

作品ナンバー2

ほっと一息ついていただければ幸いです。

王都アステリアの中央市場。その一角には、連日長蛇の列ができる屋台がある。


名は、《アステリア亭》。


手ごろな価格で、ふっくら炊き立ての白米と、季節の副菜が楽しめると評判の食堂だ。


だが、この店がわずか一ヶ月で“王都グルメランキング”の頂点に躍り出たのは、ただの偶然ではなかった。


全ての始まりは、あの家電だった――


「魔導炊飯器・改」


この新型魔導家電を開発したのは、他でもない。異世界転生者、佐藤達夫である。


「……なるほど、蒸気の逃げが弱いから焦げやすいんだな」


アステリア亭の厨房で、達夫は炊飯器のフタを外し、細部に目を通していた。


最初の魔導炊飯器は、既に地方の農村で高評価を得ていたが、王都では一味違う“戦い”があった。


それは――


スピードと大量供給。


「こっちは昼の三時間で五百食炊かなきゃならないんですよ、旦那」


厨房長が頭を抱えながら、壊れかけた旧式の蒸し釜を指差した。


「水加減も炊きムラも……全部職人の勘頼りで。けど、俺ももう歳でねぇ」


そんな苦悩に応えるように、達夫は新たな設計図を広げた。


「――だったら、自動制御と魔力最適化を同時にやれるモデルを作ろう」


彼が開発した「魔導炊飯器・改」は、旧モデルよりも格段に高性能だった。


・五十合の炊飯を一度に可能にする大容量釜

・外気の温度や湿度を感知し、水加減を自動調整する魔導式センサー

・“蒸気再利用機構”により、米の甘みを最大限に引き出す保温機能

・そして、複数人が同時に操作可能な“複数魔力登録機能”


「これが……厨房に革命を起こすってやつか……!」


試作機で炊いた一膳の白米を口にした瞬間、厨房長の頬に涙が伝った。


「こんな美味い米、初めてだ……!」


市場の騒音も、鍋の音も、すべて消えたかのように感じた。


舌の上でほろほろとほどける米粒。噛むほどに広がる、自然な甘み。


それは“飯”という存在が、ただのエネルギーではなく、“心を満たすもの”だと教えてくれる味だった。


「こいつを使えば、アステリアの食事が変わる――そう確信しました」


厨房長の宣言とともに、アステリア亭の台所はフルリニューアルされた。


以来、王都の人々は《ご飯を食べに行く》というより、《心を満たしに行く》ように、アステリア亭を訪れるようになった。


数日後。


王宮。王の私室にて。


「……面白い」


国王、ラダン・エルトマール四世は、目の前の“白く光る粒”をじっと見つめていた。


「この小さな粒が……ここまで人の心を揺さぶるとはな」


横に控える女官たちは、恐る恐るうなずいていた。


ラダン王は決して「食にうるさい」わけではないが、気に入らないものには一切口をつけないことで有名だった。


だが、今日は――


「この飯に合う副菜は何か?」

「出汁とは何だ? 甘みの増加とは?」

「“炊き込み”とはどのような応用か?」


と、矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。


その様子を見て、達夫は静かに微笑んだ。


「食事は、文化です。たとえ魔法が発達していても、“食卓”を囲む喜びは、どの世界でも共通なんです」


ラダン王は腕を組み、しばし沈黙した後、言った。


「よかろう。魔導炊飯器・改を、王国軍の食堂にも導入せよ。兵士たちの士気は、“胃袋”から始まる」


「はっ!」


即座に動く侍従たち。


王都全体に、“白米革命”が波のように広がっていく――


一方、その頃。


図書館の隅にある小さなテーブルで、一人の少女が白米を頬張っていた。


「うん、今日も美味しい!」


その声を聞いた司書の老婆が、にっこりと笑った。


「よかったねぇ。でも、なぜ炊きたてのご飯って、こんなに人を幸せにするのかねぇ……」


少女は、お茶をすすりながら答えた。


「きっと……“ちゃんと作ってくれた”ってわかるから、だと思う」


――そんな優しい日常が、アステリアのあちこちで、芽吹いていく。


その夜。


アステリアの空に、満月が浮かんでいた。


達夫は炊飯器のメンテナンスを終え、ひとり街を歩いていた。


ふと、彼は立ち止まり、空を見上げて呟いた。


「……まだまだ、進化できるな。家電も、食も、人の心も」


そして、彼の背後には――静かに立ち上る湯気と、炊きたての香りが漂っていた。


―それは、ひと粒の米が起こした、王都の革命だった。

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