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第2話  魔導冷蔵庫、爆誕!? ~異世界の常識をひっくり返せ!~

作品ナンバー2


ほっと一息ついていただければ幸いです。


異世界「ルメリア」。


そこには剣と魔法の文化が根付き、人々は魔力を生活の基盤にして暮らしている。


魔法で火を起こし、水を汲み、風で洗濯物を乾かし、光で夜道を照らす。


一見すると便利なように見えるが――その運用には高度な魔法知識と魔力量が必要で、日常生活においては不便も多かった。


そんな世界に、家電の知識だけを武器に転生してきた元家電量販店員・佐藤達夫。


彼の“第二の人生”が、今まさに始まろうとしていた。


 


「まず、こちらが“試作型・魔導冷蔵保管箱”になります」


研究塔の一室――「魔導技研ラボ」。


白衣姿の青年・ライゼンが、得意げに蓋つきの木箱を机の上に置いた。


素材は木製、蓋の内側には青く光る魔導石が埋め込まれている。


中には魔法陣が描かれており、一定の冷気が発生する仕組みらしい。


佐藤は、眉をひそめながらその“冷蔵庫もどき”を観察した。


「これ、どれくらい冷えるの?」


「おおよそ、常温からマイナス三度前後まで。ですが魔力の持続が短く、数時間で切れてしまいます」


「冷凍はできないのか?」


「残念ながら……この世界では氷属性の魔法は高位魔導士でなければ扱えませんので……」


「ふむ……なるほどねぇ……」


佐藤は、唸りながら木箱の中に手を入れてみた。


確かにひんやりはしているが、現代の冷蔵庫に比べれば頼りない冷気だ。


何より、温度の維持に“個人の魔力”が必要という時点で、普及性に乏しい。


つまり、「誰でも簡単に使える冷蔵庫」ではない。


「……このままじゃダメだな」


「えっ……!」


ライゼンが驚いたように目を見開く。


だが佐藤は穏やかな笑みを浮かべ、椅子に腰掛けた。


「まず、冷蔵庫に必要なのは【密閉性】と【安定した冷却】だ。今のままだと蓋の合わせが甘いし、冷気が外に漏れてる」


「……なるほど」


「それと、魔力を“人の魔法”に頼っちゃダメだ。誰でも使えるようにするには、“自動で冷える仕組み”が必要なんだよ」


佐藤の言葉に、ラボの技術者たちがざわめく。


“誰でも使える”――それは魔法を扱うことが前提だったこの世界では、革命的な発想だった。


「ライゼンくん、魔導石ってのは、魔力を蓄えられるんだよね?」


「ええ。蓄えられますし、一定の条件で放出することもできます」


「じゃあ、それを“魔力バッテリー”として使おう。一定量の魔力を魔導石に充電しておけば、冷却魔法を安定して発動させられる」


「そ、そんな発想は今までなかった……!」


「あと、冷却方法も一点集中じゃなくて、“冷気の循環”が必要だ。魔法陣を底面だけに描くんじゃなくて、箱の内部全体に巡らせて、内部温度を均一に保たないと。上はぬるくて下は冷たい、なんてのは冷蔵庫じゃない」


「う、うおおおお! 天才だこの人ぉおおお!!」


技術者たちが、一斉に歓声を上げた。


彼らにとっては“常識の外”の発想だったのだ。


だが佐藤にとっては、すべて“当たり前”のことだった。


冷蔵庫の構造や性能を何百台と説明し、売ってきた経験は、異世界でも確かな武器になっていた。


 


開発は、数日後に本格化した。


佐藤は毎日ラボに通い、図面を描き、実物の冷蔵庫の構造を紙に再現していった。


――コンプレッサーの代わりに魔導石を使う。


――内部冷却は魔法陣で調整し、温度センサーとして“温度精霊石”を組み込む。


――ドアのパッキンには“吸着魔法”を利用して密閉性を確保。


そんな奇想天外な案を、ラボの技術者たちは次々と魔法の技術で具現化していった。


「達夫さん、この“精霊石”ですが、気温の変化に反応して色が変わります!」


「よし、それを内部の魔導陣と連動させよう。冷却の強さを自動で調整できるように!」


まさに、魔法と科学(の知識)の融合だった。


そして――


約二週間後、ついに試作機が完成する。


「完成品、“魔導冷蔵庫・Type-1”です!!」


どこか現代のミニ冷蔵庫を思わせる角ばったデザイン。


木製の外装に、銀の装飾が光る。


ドアを開けると、内部に広がるのは淡い青の冷気。


庫内には、温度調整機構と、魔力残量を示す“魔導メーター”まで搭載されている。


これが、ルメリア史上初となる、“本物の冷蔵庫”だった。


 


そしてその日、城の貴族たちが視察にやってくるということで、ラボにて初の“お披露目会”が開かれることになった。


「これは……なんと涼しい空間だ……!」


「腐りやすい食材を、長期間保存できるとな……!?」


「なにぃ!? 魔法が使えぬ者でも動かせるだと!?」


貴族たちは驚愕し、ざわついた。


彼らにとって“食材の保存”とは、魔法で冷却した地下室か、氷属性の魔導士を雇う高コストな手段だった。


それが、手のひらサイズの魔導石を交換するだけで数日も冷却可能になるとは……。


「これは……革命だぞ……!」


「わが領地にも導入したい! いくらで売るのだ!?」


「その前に量産体制を整えさせてください! 素材の安定供給もまだ……!」


佐藤の周りは、まるでお祭り騒ぎだった。


貴族も、技術者も、誰もが彼に感謝し、称賛の言葉を送ってきた。


だが、佐藤は冷静だった。


(……この程度は、家電の入り口にすぎない。次は……洗濯機か? それとも電子レンジ?)


新しい世界には、無限の可能性が広がっている。


かつては“定年”という節目で人生が終わったと思っていたが――


ここでは違う。


ここでは、彼の知識と経験が、人々の未来を変える“力”になる。


「……ふふ、なんだか楽しくなってきたな」


そう呟いた時、佐藤の隣に女神がふわりと舞い降りてきた。


「達夫さん。あなたの活躍、ちゃんと見ていましたよ」


「見てたんですか、女神さま」


「ええ。あなたが来てくれて、本当に良かった。ルメリアは、あなたの力で少しずつ変わっていきます」


「変わる、か……。だったら次は“あれ”を作りましょうか」


「“あれ”……とは?」


「“洗濯機”です」


女神が目を丸くした。


佐藤は自信満々の笑みを浮かべる。


「水と風を使うなら、この世界の魔法でもいけそうでしょ? でも、自動で回すとなると……面白い発明ができそうだ」


そう。


家電の進化は、始まったばかりなのだ。


“魔導冷蔵庫”という一歩から、やがて――この世界に“家電革命”が巻き起こる。

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