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第15話  魔導ホットプレートと、宴の火を灯す者

作品ナンバー2

ほっと一息ついていただければ幸いです。

ラストール王国の東部、広大な草原に囲まれた交易都市“ギルザン”。


ここは物資と文化の交差点。


南の海産物、北の山の幸、西の香辛料、東の異国の織物……ありとあらゆる品々が集まる市場が広がっている。


そんなギルザンに今、大きな問題が起きていた。


「お祭り……中止?」


佐藤達夫は、市場の露店通りでその言葉を耳にし、思わず足を止めた。


「そうなんです、旅のお方。毎年この季節に開かれる“収穫感謝の宴”が、今年は中止になりましてなぁ……」


年配の果物売りが肩を落としながら言った。


「どうしてですか? こんなに人も賑わってるのに」


「……宴の“火”が灯せないんですよ。今年は魔導炉を動かす魔石が不足してましてな」


この町の宴は、広場の中央に設置される巨大な鉄板で各地の食材を焼いて振る舞う「鉄板祭り」が目玉らしい。


しかし、その鉄板は巨大な魔導炉と直結しており、特級の魔石がなければ動かせないという。


「料理がなけりゃ、祭りじゃない」


「まったくですよ……子どもたちも楽しみにしてたんですがねぇ」


達夫はリュックの中に手を伸ばした。


そこには、彼が最近完成させたばかりの新たな家電、“魔導ホットプレート” が収納されていた。


「だったら……僕のホットプレートで、火を灯しましょうか」


「ほ、ホット……なんですって?」


「“魔導ホットプレート”です。電気の代わりに魔力を通して発熱する調理器具。特級魔石がなくても、小さな魔力結晶ひとつで動きますよ」


達夫が鞄から取り出したのは、黒く光沢のある薄型の長方形機械。


持ち運びできるサイズで、金属の縁に淡い魔法陣が刻まれていた。


「ほんとに、これで料理ができるんですか?」


「やってみせます」


露店の脇にあった木の台を借りて、達夫はホットプレートを設置した。


そして、小さな魔力結晶をはめ込むと、ふわりと温かな光が広がり、プレートの表面がじわじわと加熱されていく。


その様子を見ていた周囲の人々がざわつき始めた。


「なんだあれ……鉄板が熱くなってるぞ……魔石も使ってないのに?」


「おお、いい匂いがする!」


達夫は手早く、近くの屋台から仕入れた肉や野菜を切り、ホットプレートの上に並べていく。


ジューッと心地よい音とともに、湯気と香ばしい匂いが広がった。


「これは……美味そうだ!」


「ほ、本物の鉄板焼きだ!」


「どれ、少し味見していいかい?」


最初は警戒していた露店の主たちも、達夫が焼き上げた料理を一口食べると、目を見開いた。


「う、うまいっ!肉が柔らかくて、脂もくどくない……」


「これは魔法じゃない……技術だ。家電の力か!」


子どもたちが拍手し、大人たちも次々と手伝いに加わった。


いつの間にか、達夫のホットプレートのまわりに人が集まり始め、小さな“宴”が自然と始まっていた。


達夫の手元にあったのは、特製の魔導ホットプレート“モデルT-H001”。


従来の魔導炉よりも少ない魔力で長時間使用できる設計が特徴だった。


さらに熱の伝導効率も高く、焼きムラが少ない。


彼は肉を焼くだけでなく、野菜やキノコ、さらには現地の平たいパン“ガルサ”までホットプレートで温め始めた。


「うわぁ、ガルサがカリカリになってる!こっちにチーズのせて!」


「魔導ホットプレート、最高じゃねぇか!」


人々は思い思いの食材を持ち寄り、達夫のプレートで焼き上げる。


香りが市場全体に漂い、それに誘われるように人々が次々にやってきた。


「――町長!こりゃもう祭りの始まりですよ!」


「こんな形の“宴”も悪くない……いや、むしろ素晴らしい!」


広場の中心に、テーブルを囲んで輪になって座る人々。


その中央で黙々と焼き続ける達夫。


すべての人の皿に笑顔が宿る光景を見て、達夫はふと笑みをこぼした。


――両親の店でも、こうして人が喜ぶ姿を見て育ってきた。


――家電は、人の生活を支える“相棒”だ。


「ねぇおじさん、この丸いの何?」


「それはタコ焼き器だよ。このプレートの付属品。丸い鉄板の穴に生地を流し込んで、タコを入れて……くるっと回すと、ほら」


くるっ、と達夫が串を使って回転させると、子どもたちが歓声を上げる。


「たこ焼きって……こんなに面白いんだ!」


「なぁ達夫さん、このプレート、もし量産できるなら町で導入したい!俺たちも宴の“火”を自分たちで灯せるように!」


「……そのためにここへ来たのかもしれませんね」


その夜、ギルザンの町には月明かりと笑い声、そしてホットプレートの心地よい焼き音が鳴り響いた。


魔力の代わりに、心のあたたかさで動いているかのように。


そして、女神が密かに微笑む――


「やはり、あなたで正解でしたね。達夫様」

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