表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/101

第13話  魔導ミキサーと、癒しのレシピ

作品ナンバー2

ほっと一息ついていただければ幸いです。

昼下がりの陽光が、木漏れ日となって道を照らす。


ラストール王国の南東部に位置する小村——ルゼン村は、春の訪れとともに活気を取り戻していた。


石畳の道沿いには、焼きたてのパンや野菜の匂いが漂う小さな市場が立ち、笑い声が風に乗って流れる。


だが、その一角。


村の片隅にある小さな薬草屋には、静かな時間が流れていた。


「ふぅ……。今日も、仕入れた薬草の整理で終わりそうですね」


そう呟いたのは、薬草屋を切り盛りする若き女性、セシアだった。


栗色の髪を後ろで一つに束ね、エプロン姿で棚に並べた薬草を丁寧に拭いている。


彼女の家系は代々薬師で、体にやさしい治療法を重んじる一族だった。


しかし近年、周辺地域で疫病が流行し始めたことにより、セシアの店にも多くの患者が訪れるようになった。


その対応で、彼女は疲れ切っていた。


「もっと効果的で、みんなが飲みやすい薬が作れれば……」


セシアは棚の奥に並べた乾燥果実と薬草を見つめながら、無意識に呟いた。


そんなある日、村に一人の旅人が現れる。


「こんにちは。ここがルゼン村の薬草屋かな?」


そう声をかけてきたのは、佐藤達夫だった。


相変わらず地味な服装、しかし背中に不思議な装置を背負っている。


「ええ、そうですが……お薬がご入用ですか?」


達夫は優しく微笑みながら首を振った。


「いや、少し前からこの辺で薬の材料を集めてるって聞いてね。ちょっと興味があって寄らせてもらったんだ。実は、君の薬をもっと便利に、もっと効果的にできる道具があるんだよ」


「……道具?」


達夫は荷物の中から、見慣れぬ銀色の機械を取り出す。


筒状の容器と、刃のようなものが見える台座。


そして、魔力を流し込むための小さな魔晶石が取り付けられていた。


「これが、『魔導ミキサー』。薬草や果実を細かく砕いて、ジュースやペーストにできる優れモノさ」


「そんなもの……初めて見ました」


セシアは半信半疑だった。


だが、その夜。


二人は村の広場で即席の調理場を設け、薬草と果実を使った試作を始めた。


ゴウン、ゴウンと魔導ミキサーが唸る。


透明な容器の中で、色とりどりの材料が回転し、瞬く間に滑らかなペーストやジュースへと姿を変えていく。


試しに、セシアが薬効のあるミントと乾燥オレンジを混ぜてジュースにしてみると、その味わいは驚くほど爽やかで飲みやすかった。


「な、なんて飲みやすいの……! これなら子供でも抵抗なく飲めます!」


「だろう? 味の調整もできるし、何より早い。毎日大量の薬を作るなら、きっと役に立つよ」


セシアの瞳が、かすかに潤む。


「……ありがとう。なんだか、少しだけ未来が明るくなった気がします」




魔導ミキサーの登場で、薬草屋の業務は一変した。


風邪薬、胃薬、滋養強壮の薬……それらを果物と合わせ、飲みやすく加工することで、村人たちはこぞってセシアの薬草ジュースを求めるようになった。


やがて、近隣の村にも噂は広がり、行商人や治療師までもがセシアの元を訪れる。


村の子どもたちは、カラフルな薬草ジュースを「癒しのスムージー」と呼び、毎朝楽しみにするようになった。


「ねぇ、今日のはラズベリー味?」


「僕はミントと蜂蜜のが好き!」


達夫はその光景を、広場のベンチから静かに見つめていた。


魔導ミキサーは、単なる調理器具ではない。


それは、病に苦しむ人々に笑顔と希望を与える、小さな魔法だった。


その晩、薬草屋で一息ついていたセシアが、ぽつりと呟いた。


「……実は、母がこの村で薬草屋を始めた時、夢だったんです。子どもでも、大人でも、誰もが笑顔で飲める薬を作るって」


「それは……素敵な夢だ」


「でも、母は私が十五の時に病で……。一人で店を守るのは、大変でした」


達夫は、何も言わず、そっと魔導ミキサーのスイッチを入れた。


柔らかな音とともに、カップの中で、苺と薬草が混ざり合っていく。


「君の母さんの夢は、今ここに生きてるよ。君のおかげでね」


セシアはしばらく黙っていたが、やがてそっと微笑んだ。


「……ありがとう、佐藤さん」




翌朝、達夫は次の町へ向かう準備をしていた。


背中には、いつものように新たな魔導家電を詰め込んだリュック。


「行ってしまうんですね」


「まだまだ広めるべき魔導家電があるからね。次は……焼き物かな」


「ふふ、きっとまた誰かを助けるんですね」


セシアは最後に、特製のスムージーを達夫に手渡した。


薬草と林檎、蜂蜜を混ぜた、優しい味のジュース。


「道中、お体に気をつけて」


「ありがとう。君も、いい薬師であり続けてくれ」


そして達夫は、旅立っていった。


魔導家電と、人々の願いを背負って——

ブックマーク・評価・いいね、出来れば感想とレビューをお願いします!

モチベーション向上のため、よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ