引導
『お婆さん席をどうぞ。』
そう僕は声を掛けます。
初めて席を譲られたであろう人に。
つまり引導を渡してるんですね。
あなたはお婆さんですよ、席譲られる年齢ですよと。
ただ納得してありがとうと座ってくれる人ならまだ良いのですが、抵抗してくる人も
います。
最近では電車内にカメラがついてる事も
増えてきました。
女性もカメラがあることを確認して
VARのハンドサインをしてる。
私はまだ若いのかいや、年寄りなのかと。
他の乗客も注目しはじめる。どっちだと。
僕も緊張する。自分の判断は正しかったのか
どうか。カメラの向こうにいる、現場での活動は引退された先輩席譲り屋たちがどう判定
するなのか。
VARルームから席譲り妥当の判定が下ると
僕は安堵する。社内は拍手する。
お婆さんと健闘を称え握手する。
そうして僕は立っている。