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空白の世界とモノクローム  作者: 藤 光一
一、序曲
2/27

-矛盾の輪廻-

 そこは、先ほどの空間とは異なっていた。暗闇だった空間とは違い、鮮明に奥まで良く見える。空は、紫、青、赤、緑とパレットに無理くり捩じ込ませたような色合いだった。その色たちは、互いに混ざる事はなく常に自分たちの存在を誇張していた。さっきの部屋とは違い、床も見える。半透明な紫色の床。下を覗けば、半透明の床の奥に見えるのはどこまでも広がる空と同じ色の空。ここに私の世界の常識は存在しないのだろう。上も下も空。落ちたらどうなるのだろうか。

 

 私の生命線でもあるこの床は、枝分かれた草木のように入り組んでいた。奥まで目を凝らせば、行き止まりもある。階段もある。迷宮とは言い難いが導くようにというわけではないようだ。その証拠に、異様なモノはもう一つ。いや複数と言うべきか。


「何か・・・、いる?」


 私は、声を殺すように呟く。本能がそう言い聞かせたのか、声を殺した。この空間のあちこちに点在するように黒い生き物が静かにじっと構えていた。

 何かを待つように、今か今かとその時を待つように。手足はなく、黄土色の眼が虚に何かを見ている。


「気をつけて進もう。」


 状況に合わせて、歩いたり走ったりすれば何とかなるかな。直感的にそう思った。今の私に対抗する手段は何もない。あるとすれば恐怖を捨て、奴らから逃げる事。


 どうやら奴らは、案外鈍いと云うのがわかった。奴らの正面でなければ、ある程度近づいても気付かれない。やはり数歩の距離となると私に気付き、その身体を勢いよく伸ばし飛び掛かってくる。口を身体以上に大きく広げ、私目掛けて噛みつこうとし追いかけてくる。

 ただ、勢いはあるがそんなにスピードがあるわけではない。私の足と体力でも離す事が出来る。それに枝分かれた床の経路のおかげで上手く奴らを誘引する事が出来れば、見つかっても床と障害物を利用し、上手く回避する事が出来た。


 半透明の床を歩み、奥に奥へと進む。枝分かれた道を進む中、一種の余裕が生じた時だった。障害物から奇襲かのように横目から飛び出してきたのは、奴らだった。咄嗟の出来事に、一歩退いてしまう。人の本能とは面白いもので、自分への危害が突然降り掛かって来ても頭と心臓は守ろうとする 。

 それは、私にも例外では無かった。奴らの襲撃を回避するには最早手遅れだった。ならば、本能的に防ごうとする急所を守り、受け身を取るしかない。


 ——ガリッ。


 私の右腕に噛み付いたこの黒い生物は、虚いだ眼でこちらを見ていた。不思議となぜか痛みは無かった。代わりに心臓、いや心にナイフが刺さった感触があった。物理的な痛いとは少し違い、何か鋭利なもので感情を刺され吸い取られる感覚。いずれにせよ好感が持てるものではない。

 私は悲痛と似た叫びに合わせ、噛み付いたこの黒い生物を振り回し払い除ける。振り回す刹那、奴もただで放そうとはしなかった。抵抗を見せるように再び、牙を剥き出して私の腕をもう一度喰らい付く。先程よりも深く刃が心の奥に侵食した感覚が走った。反射的に痛いよりも気持ち悪さが露呈していた。

 右腕を抑え、この黒い生物から距離を置く為に走り出す。近くに構えていた別の奴もこちらに気付き、追いかけてくる。こいつらは、ある程度の距離を離せれば追うのを諦めてくれる。


 それならば、今は走り抜くだけ。もうすぐこの空間の奥で捉えていた光の原点に辿り着く。呼吸が乱れても構わない。足が動くうちに一歩でも多く、速く。この空間の光に触れれば、また別の空間に移動するのだろうか。

 でも今は奥に進む以外、方法は見つかっていない。ここで奴らに食い殺されるよりはマシだ。そう思い、私は光り輝く床に一歩足を踏み入れる。


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