第4話 『1歩』
「とにかく行ってみよう。行ってみれば何かわかるかもしれないし。」そう愛実が言ったので、僕は「そうだね。」と答えた。
――不思議と『もうすぐ願いが叶う』、そんな予感がした。
それからまたしばらく歩き、最寄り駅についた。
ICカードをカバンから取り出し、改札を通ろうとしたところ、友が
「ちょっと待ちなさい!切符を買ってくるわ。」と言ったので「わかった」と答える。
友は券売機の方を向き、歩き出した・・・と思ったら、「切符の買い方がわからないわ!教えなさい!」と言った。
すると愛実が「友ちゃん、ICカードを持ってないのは良いとして、切符の買い方もわからないのに一緒に行くって言ったの?」と友を少し睨みながら言った。
「何よ!電車なんてそんなに乗らないのよ!!悪い?」と、怒ったように言ったので、僕は「まぁまぁ。代わりに僕が買ってくるからちょっと待ってて。」と言い、券売機に向かった。
まだ後ろで友と愛実が言っているが気にしないことにした。
その後、買ってきた切符を友に渡すと「ありがと」と小さな声で言ったので「どういたしまして」と答えた。
これで3人とも改札を通ってホームに行けるようになったのでホームへ向かった。
ホームに着き、電光掲示板を見ると電車はあと10分くらいで来るようだ。
「あと10分くらいで電車が来るね」と言うと2人とも電光掲示板を見て、それぞれ
「そうだね」「そうね」と返事をした。
だれが言い出したわけでもないが、特に椅子には座らず、ホームで立って待った。
しばらくスマホを見て立っていると、「富貴、あんた本当に大丈夫なの?」と友が突然声をかけてきた。
「昨日の事ならもう大丈夫だよ。」そう答えた。
実を言えば、完全に元気なわけではないのだが、昨日と比べると気持ち的にも楽になっているので、嘘は言っていないつもりだった。
「なんか、顔がやつれてる気がするんだけど。」
そう言われてふと、昨日帰って来てから1度も自分の顔を見ていないことに気づき、「そう?」と言ってからスマホのカメラをインカメラにして顔を見てみた。
するとそこには確かに少しやつれた僕の顔があった。「本当だ。」とつぶやくと、「ね、言ったでしょ。」と友が言った。
「元気は元気なんだけど・・・。もしかしたら、昨日帰って来てから今まで、今日の朝ごはんのおにぎりしか食べてないからかな。」
想像というより、当然の事だった。
昨日、胃の中に入っていたものが全部と言っていいほど出てしまったのに、おにぎりしか食べていないのだから少々やつれていたとしても不思議ではない。
「え!? おにぎりしか食べてなかったの?」と愛実が言ったので、「うん。あんまり食欲無くて。」と答えると「今も食欲無い?」とさらに聞かれた。
今もそんなに無いかな、そう伝えると、もしお腹が空いたらいつでも言ってね、と笑顔で言ってくれた。きっと気を使ってくれているんだと思う。
優しいな、何て思っていると友が、ため息をつきながら「愛ちゃんは富貴の事心配じゃないの?」と愛実の顔を見ながら言った。すると愛実は鋭い声で
「そんなわけない。
私だって、朝、富貴君の顔を見てすぐに気づいた。明らかに昨日の朝と違うから、余計に心配になった。でもなるべく顔に出ないようにしてた。
私が心配そうな顔をすると、きっと、富貴君は優しいから気を使ってくれる。
昨日あんなことがあったばっかりなのに、一緒に来てくれるって言ってくれた。
きっと無理してると思う。だから余計なところで気を使わないでいいように、富貴君が少しでも苦労をかけないようにしてる。
それなのに友ちゃんは切符の買い方が分からないって言って・・・」
「愛実、言いすぎだよ。」
「でも!」
「友だって悪気があるわけじゃないだろうし、何より2人とも僕の心配してくれてる。
本当にありがとう。でも喧嘩はしないでほしい。お願い。」そう言うと、
「富貴君・・・。」と愛実は複雑そうな表情で僕のことを見てくる。少しして愛実は友の方を向き、
「友ちゃん、ごめんね。」と謝った。
「ふんっ! ・・・仕方ないわ、許してあげる。
わ、わ、私も、愛ちゃんの事考えずに言い過ぎた、かも・・・。
だから、ごめん。」
(お~、珍しく友も謝ってる。)と、よく考えれば失礼なことを考えていると、
「良いよ。」と答えた。表情は穏やかで、にっこり微笑んでいる。
ひとまず解決したので、よかった。
――そうこうしていると、自動放送が鳴った。
「間もなく、列車が参ります。 危険ですから、黄色い線の内側まで、お下がりください。」
「間もなく、列車が参ります。 危険ですから、黄色い線の内側まで、お下がりください。」
自動放送が鳴り終わるとすぐに電車が入線してきた。
ブレーキの音を聞きながら止まるのを待つ。
電車は、止まるとすぐにドアが開いたので、乗り込んだ。
僕たちはボックスシートに座った。
友と愛実が先頭に背を向けて座る席に座ったので、僕は空いている先頭を向いて座る席に座った。
扉が閉まるとすぐに電車は走り出した。
この電車の終点が目的地の海の最寄り駅になる。大体1時間弱で着くだろうか。
電車は、町中を抜け、駅に止まるごとに海の匂いが強くなっていく。
海はもうすぐだ。
何があるんだろう。その思いは一層強くなっていく。
徐々に海が見えるようになり、「次は、終点です」という放送が鳴った。
やがて、電車が止まり、ドアが開く。
海は、駅から道を挟んで目の前だ。
海のにおいが混じった風を全身に受けると、改めて、海に来たんだな、と実感する。
僕たちは、愛実が『シャリー』から言われたという、家から一番近く(電車で1時間弱)の海に来た。
――何があるのかはまだ分からない。
まだ見ぬ〈何か〉のため、今、1歩踏み出した。
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