第3話 『ユメ』
ふと時計を見ると午前6時を示していた。
もう「今日」になっていた。
枕元に置いてあるスマホを見る。
ロック画面の日時には【5月20日土曜日】と表示されている。
(そうか、今日は土曜日か。)
特に何か用事があるわけではないが、目に入ったのでそう思った。
スマホを見ていると電話がかかってきた。
画面には「愛実」と出ている。
正直電話に出る気分ではなかったが、昨日の事もあり、出ないのも悪いだろうと思ったので、出ることにした。
電話に出て、「もしもし。」と言うと、直ぐに返事が聞こえた。
「あ、もしもし。おはよう。いきなりごめんね。具合、どう? それと、昨日の事も、ごめんね。」
恐らく昨日の夕方家に来た時のことを謝っているのだろう。
「いや、愛実は何も悪くないよ。具合も良くなってきたから大丈夫。」そう答えた。
「良かった。でも・・・。」
「本当に気にしなくていいよ。」
「ありがとう。」
そんな会話があり、僕は改めて要件を聞いた。
「それで、電話の用事は何だった?」
「そうだった。実は、変な夢を見たんだ。」
――そう前置きをして愛実は、さっきまで見ていたという夢の内容を話し出した。
愛実が見た夢の内容を簡単に言うと、愛実の夢にも『シャリー』と名乗る女の子が出てきて、僕を連れて、一緒に海に行くように言われた、というのだった。
愛実の話を聞いて、僕も自分が見た夢を話すと、
「う~ん、偶然・・・っていう感じでもなさそうだね。富貴君が良ければ一緒に行こ?海。」と愛実が言ったので「うん。」と答えた。
愛実は「9時頃迎えに行くね。」と言い、電話を切った。
出かけることをお母さんに話すかどうするか迷ったが、突然家から出ていくのもおかしいだろし、何より心配をかけたくないので、簡単に話しておくことにした。
お母さんを探して1階に下りていくと、
「富貴!大丈夫!?」と言う声が聞こてきた。
どうやら心配してくれていたみたいだ。
昨日と比べると楽になっていたので、「うん。大丈夫」と伝えた。
「そうなの?ちょっとでも具合が悪かったらすぐに言ってね。」とお母さんが言ったので「うん。」と答えた。
それから、「今日ちょっと出かけたいんだけど。」と、夢の内容は話さずに短く伝えた。
それを聞いたお母さんは、少し悩んでいる表情を浮かべ、
「う~ん・・・わかったわ。」と言ってくれた。そのあとすぐに「どこに行くの?」と聞かれたので「海に行こうと思って。」と返した。すると、「1人で行くの?」と聞かれ、隠すつもりもなかったので「愛実と2人で行く。」と答えた。
お母さんは「そう、愛実ちゃんと行くのね。それなら安心だわ。」と言った。
「じゃあ、これ、持っていきなさい」と言ってお母さんは財布から1万円を出して、手渡してくれた。
「こんなに・・・良いの?」と困惑気味に答えると「せっかくなら、楽しんでおいで。」と言ってくれたので「ありがとう。」と素直にお礼を言い、ありがたく受け取った。
「朝ごはん、おにぎり作るからちょっと待ってね」とお母さんが言った。
おにぎりを食べてから、自分の部屋で支度をしているとインターフォンの音がした。
お母さんが「は~い」と言ったのが聞こえたので特に気にせずに準備を続けていたが、階段を上る音が聞こえてきたので、手を止めてドアを見た。
すると僕の部屋の前で足音は止まり、
「富貴、開けてくれる?」と言う声が聞こえた。友の声だった。
(昨日の事、謝らないとな。)
そう思いながら扉を開けた直後、友は抱き着いてきた。
――強く抱き着いてきている。体が震えている。
「友!?」
突然の出来事だったのでほぼ反射的にそう声が出た。
「・・・た。」よく聞き取れないくらい小さな声で何かを言っている。
「良かった。」友はそう言って抱き着く腕に更に力を込めた。
「昨日、愛ちゃんから、教室で何があったのか聞いて、私すごく心配だった。
学校が終わってすぐ愛ちゃんと富貴に会いに来たけど会えなくて、余計に心配になった。
だから、顔が見られて、良かった。」と友はゆっくり言った。
「心配させちゃってごめん。」そう僕は答えた。
「もう少しこうしてて良い?」と聞かれたので、「いいよ」と言った。
その後少しして、友は離れた。
離れてから「入っていい?」と聞かれたので「どうぞ」と返した。
愛実と出かける準備していたのでやや散らかっている部屋を見て、友は「何してたの?」と聞いてきた。
「愛実と海に行くことになったから準備してた。」と特に隠すことなく答えた。
「はぁ!?あんなことがあった次の日に出かけようなんて!何考えてるの!? 家でゆっくりしてなさいよ!!」完全に怒っているような口調でそう言われてしまった。
しかしそうは言われても1度行くと決めたものは行きたい。
なんとかしなくては。
そんなことを考えていると、「大体、また独り占めなんて許せないわ。」と友が言ったのを聞いて、
「じゃあ、友も一緒に行く?」と聞いてみた。
正直、友がこの誘いを受けて一緒に行くか、最後まで僕を休ませようとするかはわからなかった。
友は「わかったわ。私も一緒に行く。」と答えた。
そんな会話をしていると、またインターフォンが鳴った。
もしかしたら愛実かもしれない。そう思い時計を見ると時間は9時を少し回ったところだった。
その後、友の時と同じく、階段を上がる音が聞こえてきた。
足音が止まった、そう思った直後「何してるの?」と聞く声がした。やはり愛実だ。
愛実は友の方を向き、「なんで友ちゃんが富貴君の家に居るの?」と言った。
「何よ、来たら悪いっていうの?」
「私と富貴君は一緒に出掛けるの。だから早く出て行って。」
「私も行くわ。富貴から誘ってくれたから。」
「え?」そう言って僕の方を見た。
「ごめん、愛実。実は・・・」と理由を説明した。
「はぁ~、富貴君が良いなら仕方ないか。」愛実は、本当は不服そうな声で、そう言った。
一瞬ピリッとした空気が流れたものの、無事に出かけることになり、3人でそろって1階に下りて、玄関に向かうと、いつの間にか来ていたお母さんが、「行ってらっしゃい」と言って送り出してくれた。
「まずは駅に行かなくちゃね。」と愛実が言ったので、「そうだね」と答える。
「それにしても、まさか同じような夢を見るなんてね。」と愛実が言うと、それに反応した友が、「何よそれ、どういう事?」と言った。
僕が友に説明すると、「ふ~ん、私は見てないんだけど?」と言ったので、
(お怒りだ・・・。)と心の中で思った。
友は少し考え、「それってアレじゃないの?共同見夢ってやつ。」聞いたことが無い単語だったので、「何それ?」と聞いた。
すると、友が答えるより先に愛実が答えた。
「簡単に説明すると、例えば『友達』みたいに関係が比較的深い人同士が同じような内容の夢を見る、っていうことだよ。」
「なるほど~。」わかりやすい説明だった。
確かに『共同見夢』だとすると説明がつく。
しかし、なぜ突然そんなことが起こったんだろう。
「とにかく行ってみよう。行ってみれば何かわかるかもしれないし。」そう愛実が言ったので、僕は「そうだね。」と答えた。
――不思議と『もうすぐ願いが叶う』、そんな予感がした。
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