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第1話 『現実』

 『現実』は味方をしてくれなかった。

ただでさえ苦痛で苦痛で仕方がなかった現実はさらに追い打ちをかけてきた。

 苦しい・・・

 逃げたい・・・

 消えてしまいたい・・・

 どこか、楽な場所に行ってしまいたい・・・

毎日そんなことを思う。


 朝、学校に登校する為に家を出ると、「おはよう!」と快活に声をかけてくる女子が2人。

 この女子たちは、2歳の頃からの幼馴染のゆうと、中学に入ってから知り合った愛実つぐみだ。

(相変わらず朝から元気だな・・・)

などと考えていると、友が右腕に、愛実が左腕にくっついてきた。

「今日も来たんだね。」と僕が言うと、短く、

「そうよ。」と友が答えた。

1ヶ月ほど前から毎朝このように、2人はなぜか迎えに来てくれるのだが、理由を聞いてみても答えてくれないのだ。

 僕も健全な男子中学生だ。

理由がわからない以上、もしかして僕のことが好きなのか?と思ってしまう。

冷静に考えれば、そんなわけは到底ないのだが、やっぱり少し期待してしまう。


富貴とき、行くわよ!」と友が言ったので、「うん。」と答えた。

 そんな、友との会話の直後、左腕に『ぎゅっ』という擬音がふさわしい力がかかるのを感じたので、視線を落とすと、愛実がふくれっ面になっている。

僕が1歩踏み出そうとしたタイミングだったので少しばかりよろけてしまったが、倒れることはなかった。

そんな様子を見て、友も足を止めてこちらを見ている。

突然どうしたんだろうか。

「富貴君、また友ちゃんとばっかりお話ししてる~!」

 どうやら友に嫉妬したようだ。

(まだ会話らしい会話などしていないんだけどな・・・)

とは思ったが、ここは弁明しなくては。いざ、そんなことは無いと弁明すべく「そんなこ」まで言ったところで、

「そんなことあるもん!」とすばやく答えられてしまった。

(僕に弁明の余地はないのね・・・)

「人の話をさえぎらないでもらっていい?」

と言うと、ふくれっ面のまま、

「私も富貴君と話したいのに~」

と言った。

つぐちゃんだって、休み時間は富貴と一緒に話してるじゃないの。」

「休み時間だけじゃ足りないもん!それに友ちゃんだって私たちのクラスにわざわざ来て富貴君と喋ってるし~!」

 会話からもわかるように、友と愛実はクラスが違う。

僕と愛実は同じ2組なのだが友だけ1組なのだ。

1年生の頃は3人とも同じクラスだったのだが、2年生になってからはクラスが変わってしまった。

それが原因かはわからないが、友が今まで以上にくっついてくるようになった。タイミング的にも、多分そうだろう。

そんなわけで、友が今まで以上にくっついてくるのはまだわかるのだが、なぜかそれに対抗するように愛実までもが今まで以上にくっついてくるようになったのだ。なぜだろう・・・。

そんな事を考えていると、

「クラスが違ったって私も少しでも多く富貴と会いたいし、話したいの。同じクラスだからって独り占めは許さないんだから。」と友が言った。

 愛実はと言えば、またふくれっ面になっている。

とにかく、いつまでも家の前で止まっているわけにもいかないので、

「とりあえず、歩こうか。」

と2人に声をかけてみたところ、何とか2人は歩き出してくれた。


 今僕は、僕を巡った2人の喧嘩?を聞き、仲裁しながら歩いている、

しばらく歩き、学校が近づき、だんだん生徒が多くなってきたので、

「そろそろ2人とも離れてくれるかな・・・」

とお願いしてみると、

「「嫌だ」」

と2人から言われてしまった。

 あまりに息ピッタリだったので、もしかして2人共、本当は気が合うのでは?と思ってしまう。

そうは言っても、くっつかれたまま学校に入るわけにはいかないので、

「そこを何とか!」

と再度お願いしてみた。

「じゃあ、帰りも一緒に帰ってくれる?」

そう聞いてきたのは愛実だった。

断る理由もないので、

「良いよ」

と答えた。しかしすぐに、

「ダメよ!富貴は私と一緒に帰るんだから!」

と友が起こったように言った。

・・・う~ん、そんな約束した覚えはないが。

(離れてもらうためには、何とか納得してもらわないとな)

と思ったので、

「じゃあ、帰りも3人で帰ろう?」

と提案してみた。

すると、

「う~ん・・・本当は富貴君と2人が良かったけど、まあ、一緒には帰ってくれるなら3人でも良いよ。」

「仕方ないわね。富貴がそういうなら、それでいいわよ。」

と、2人が返事をしてくれた。

良かった。何とか学校につくまでには納得してくれたみたいだ。

2人は、僕の腕にくっつく強く力を一瞬強くした後で、離れてくれた。

 2人が離れてからふと考えると、ここまで、自分の取り合い(というのは自惚れだろうか)ともとれる会話を聞いていたと考えるととても気恥ずかしい思いでいっぱいになる。

――顔が熱い。

  赤くなっていなければいいが。

「あ、富貴君、顔赤くなってる! 大丈夫?具合悪い?」

――ダメだったみたいだ。

「あ、うん。大丈夫だよ。(2人の会話のせいとは言えない。)」

「そう?調子悪かったらいつでも行ってね。」

「うん。ありがとう。」


 毎日こんな感じで2人と登校するのがルーティーンとなりつつあるのだが、これが苦痛のひとつの原因なのだ。もちろん、決して2人のことが嫌いなわけではない。

何なら2人共、とてもかわいいと思うし、かなりモテている。

きっと何度も告白されているだろう。

しかし、僕は2人が恋愛対象として好きなわけではない。

 恋愛対象として好きな人はもうこの世界には居ない。

2人と居ると・・・というより、女子と居ると、好きな人のことを思い出してしまって辛いのだ。

――もし今ここにあの子が居たら。

――もし今僕の隣にいるのがあの子だったら。

そんなことを考えてしまう。


 学校に到着し、2年生の教室がある2階まで上がると、

「じゃあ、また休み時間に行くわ。」

と友が言って、自分の教室に入っていった。

友が友達に「おはよう」と言う声を背に、僕と愛実は自分たちの教室へ向かう。

「やっと独り占めできる♪」

今の友は、玄関でのふくれっ面が嘘のように笑顔になっている。

自分たちの教室に近づき、

「じゃあ、先に入るね。」

と、愛実が言った。

 僕と愛実の間で、教室に入るとき、約束してあることがある。

それは、『同時に入らない』ということだ。

モテてる愛実と僕が一緒に教室に入りでもしたら男子たちから『視線』という名の拳銃で打ち抜かれてしまうからである。ただでさえクラスで陰に属する僕が、本来一緒に居るべきではないのだ。

これは、愛実だけではなく、友に関しても同じだ。

友と同じクラスだった1年生の頃も、教室に入るときにはタイミングをずらしていた。


 愛実が教室に入るのを見届け、僕は少ししてから教室に足を踏み入れた。

すると、男子たちが一斉にこちらを見た。

睨むような表情をこちらに向けている。

女子たちは仲の良いグループで集まってひそひそ何か話している。笑っているような声も聞こえる。

「お前、よく平気な顔して学校来れるよな。」

誰かがそう言った。

それに反応するように、他の子たちは一斉に笑い出した。

「俺なら絶対無理だわ。」

「やば~www」

と、言っている奴もいる。


 僕は黙って自分の席に向かう。

席に着き、リュックから教科書やノートを取り出して机に入れると、〈何か〉入っている感覚があったので、手を入れてみると、濡れている〈何か〉を触る感触があった。


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