婚約破棄
財産を全て奪われた。
「婚約破棄だ……クレメンタイン」
フラッド伯爵は、わたしを騙していたんだ。
背中を蹴られ、わたしは畑に落とされた。泥まみれになって……散々。
「酷いわ。どうしてこんな……」
「投資に失敗してしまってね。借金の返済に追われていたんだ。悪いが、君には犠牲になってもらう」
「……そんなことの為に! 最低よ、伯爵!!」
「騙される方が悪いのさ」
「く、うぅ…………」
泥の中でわたしはボロボロ泣いた。
こんな男に……騙されて……悔しい。
意識を失って――どれくらい経っただろう。
雨に打たれ、わたしはすっかり冷たくなっていた。……このまま死ぬのかな。
けれど、声がした。
「君。そこの君……大丈夫かい」
「……ぁ」
「こんなにボロボロになって……どうした」
「……捨てられました。いっそ……消えてしまいたい」
「そうか。だが、命を粗末にするな。死ぬことはこの僕が許さん」
わたしは泥まみれなのに、その人は手を引っ張ってくれた。……優しく抱きしめてくれて、励ましてくれた。……どうしてこんなに優しいの。
全てを失い、泥まみれのわたしなんかに価値なんて無いのに。
「……助けて、ください」
「いいだろう。我が城へ来るが良い」
「し、城って……」
「我が名はジュリアス。ナイトフォール帝国の皇帝だ」
「こ、皇帝!? こ、これはご無礼を……お許しください」
彼が『悪逆皇帝』で悪名高いことは誰もが知っていた。彼に逆らえば容赦なく処刑されるし、意見など絶対許されないという。
恐怖で民を弾圧しているとさえ聞いていた。
……でも、今の彼を見て、わたしはそうは思わなかった。だって、わたしを助けてくれたから。