表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/35

4「強襲」

空は厚い雲に覆われ、日の傾きすら分からない。

不気味な獣の声が方々で響き、周りの岩々を震わせていた。


トウタ達が呼び出された召喚神殿は、険しい山に建っていた。神殿と言っても参拝を目的としたものではなく、魔的な場所を抑えるための護封の意味が備わっているらしい。


山は鋭い岩々で形作られており、道も整備されておらず、下るには険しい秘境。

右手には崖のような急斜面、左手には高さ50メートルの絶壁。生徒達は崖の途中にかろうじて残っている狭道を、少々隊列を崩しながら進んでいた。


「ねえ、ちょっと相談があるんだけど」


最後方で歩くトウタ、ユウ、ケイジに声を掛けてきたのは、隊列の中程に居る筈のユリアだった。


「ど……どうしたの?」


学年で2番目、学校全体でも2番目に可愛いと言われるユリア。

話しかけられたトウタが、にわかに緊張の色を見せた。


「大事な話があるの。いいでしょ、別に?」


ユリアは、3人の後ろを歩くレイカに質問する。


「私、一応SRよ」

「まあ、いいだろう」


難しい顔を見せたレイカだったが、程なく了解を出した。

ユリアを含めた4人は、歩きながら話をする。


「言ってしまうとね。私、隊列の後ろにいたいの」

「後ろとは、ここかい?」


ユリアの提案に、ユウが戸惑いを見せる。


「そ!隊列の外」

「交代ということか?」

「交代でも、変更でも、どっちでもいいわ。私がここにいられるなら」


意見を求める様に、ユウ達はレイカの方を見る。

レイカは結論を逃がすように、視線を空に向けた。


「ただで、とは言わないわ」


ユリアはそう言うと、背負っていた布袋を開ける。

赤茶の布から現れた剣に、3人から驚きが漏れた。


立派な装飾のされた剣のレア度はSRで、付与されているスキルは『大斬撃』。

カズオも持っている、全体攻撃系の剣撃らしい。


「これをあげるわ」

「いいのか?」

「私のスキルって、ゲームで言うと魔法使いなのよ。その剣は、多分役に立たない。念のために持ってきただけ」

「ふむ……私としては、先の通りトウタくんに持っていて貰いたいのだが」

「僕は良いよ……これがあるし……」


トウタは懐からレア度Nのナイフを取り出して見せた。

ナイフを使う気はなかったが、SRの剣を渡されても困ってしまう。


「僕の能力は……ディレイだけだから…剣を持って前に行っても仕方ないよ……」

「私はフリーズだ……ケンジくんはムーブだったか」

「うん。モノを動かすスキルさ。サイコキネシスみたいに、使い易いモノじゃないっぽいけど」

「うーむ……交代は別として、使いこなせる者が剣を持つのは必要だ。どうすべきか?」


――誰も剣なんて使いこなせないよ。僕らはただの学生なんだから。


トウタが無意味な提言を飲み込んだ時、爆発と誰かの悲鳴が響いた。


「きゃあああ!!化け物よ!!」


恐怖に引き攣る女生徒の怯えの先。黒い悪魔の様な獣が、崖の上から駆け下りて来ていた。

獣は走り様に、連続して熱線を吐き出し、岩や生徒達を焼いていった。


「あ……あ……」


目にした異形は悍しく、恐怖は内臓をも鷲掴み。

隊列に響き渡る爆音は、血管すらも焼いていく。


方々から狂騒する悲鳴、鋭く精神を切り裂いて、

学友が焼ける香ばしさに、矛盾倒錯を知覚した。


「ケイジ、ムーブっていうので……化け物を移動させる事ってできないの!?」

「止まっているものか、ほぼ止まっているものしか動かせないんだ!」

「ユリアくん!剣を借りるぞ!」


混乱するトウタとケイジを尻目に、ユウはSRの剣を持って前に出る。


「『大斬撃』!」


ユウがスキルを振るう。

斬撃が崖を切り崩しながら、化け物へと向かっていった。


「……くるぞ!」


しかし、斬撃は化け物の右腕で叩き消されてしまう。

化け物は口を開けると、大きな咆哮を上げた。


「うわあ!」

「ぎゃあ!」


咆哮は隊列の真ん中に着弾し、爆発を引き起こす。


「トウタくん、頭を下げて!」

「っつ!?」


ケイジの声に反応して、トウタは身を屈めた。

さっきまで頭が在った所を、巨大な蝙蝠のような何かが引き裂いていった。


「痛ぇ!いてえ!!」


トウタへの攻撃を外した蝙蝠は、勢いのままにジュンに噛み付き、押し倒していた。


「は……放れろよ!!」


トウタは地面に転がっていた誰かの剣を拾い、蝙蝠に打ち付けた。


「硬っ!」


蝙蝠は非常に硬く、刃が全く通らない。

衝撃でコウモリは吹き飛び、ジュンからは引き剥がせたものの、ダメージを受けた様子はない。今度はトウタに襲い掛かってきた。


「『ファイヤーボール』!!」


鋭い牙がトウタに向けられた時、ジュンのスキルが蝙蝠を吹き飛ばした。

蝙蝠は苦しむような悲鳴を上げ、灰と消えていく。


「たすか……」


った、と礼を言おうとしたが、ジュンはトウタを怒鳴り付けた。


「レア度Nが、俺を助けたつもりかよ?格好付けずに、後ろに下がってろよ!」

「あ……ごめん……」


トウタは下を向き、剣の束を握りしめた。

ジュンは鼻を鳴らすと、隊列を取り囲もうとしている魔物達の迎撃に加わる。


「また来るぞ!」


カズオ達と共に化け物の相手をしているユウの声が、急斜面の上の方から降ってきた。

見ると、化け物は口を開け、再度の咆哮を放とうとしていた。


「うわ……!」


化け物の攻撃に備えようとした時、地面が大きく揺れた。

いや、崩れた。


「きゃぁ!!」


トウタが後方を見ると、足場を無くしたユリアが崖下へと落ちていくのが目に入る。


「ケイジ……ムーブを頼んだ!」

「無理だ!動いているモノは動かせない!」

「僕が止める……!」


崖は高さ50メートル。落ちれば助からないだろう。


「ユリアちゃん……!」

「え、トウタくん?」


トウタは無我夢中で飛び出し、空中でユリアの腕を掴んだ。

ユリアを引き寄せて腕の中に隠すと、スキルを発動させる。


「『ディレイ』!!」


瞬間、世界がゆっくりになり、音も皮膚感覚も消え失せる。

蟲の様な吐き気が胃の中を暴れ回り、喉を突き破る錯覚に襲われた。


「『ムーブ』!!」


ディレイが切れて、世界が正常に戻ったと思ったら、今度は無辺世界に放り出された。

物理法則を無視した速度で、トウタとユリアは斜め下に吹き飛んでいく。


痛みもなく地面に擦られながらも、異常な挙動は止まらない。

暫く大きな岩にぶつかり続け、ようやく無痛と無重力が終了した。


「助かった……?」


トウタは立ち上がり、自分達が飛んできた方向を見上げる。

崖の上では、ケイジらしき人物が覗きこんでいた。心配そうだった彼だったが、トウタとユリアが動き出したのを確認してか、ほっと胸を撫で下ろした。


そして――


「きゃああ!!」

「ケイジ!」


黒い羽根を生やした悪魔が、ケイジの顔面を破砕した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ