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3「武器庫にて」

武器庫の中は薄暗く、ひんやりとしていた。

広い空間ではあるが、武器はまばらにしか置いていない。いや、量が少ない訳ではないが、剣や槍な


どの武器らしい武器が置いてあったと思われる場所が、軒並み歯抜けになっていた。

残っているのは、三節昆だの弓矢だの、使い方が今一分からないモノばかり。

それらの不人気武器もSR以上は殆ど残っておらず、RとNしか見当たらなかった。


「皆来て欲しい、Rの剣が残っていた」


長身の女の子、ユウに呼ばれて、トウタ、ケイジ、タクシの男子3人が集まってくる。

彼らはNとN+の4人。時間が勿体ないとの理由で、4人いっぺんに武器庫に詰め込まれた。


「私達は残り物の武器を掴まされる上に、スキルのレア度も低い。協力が必要だと思わないか?」


ユウの言葉に、3人は顔を見合わせる。協力が必要なのは理解できたが、低レアが協力した所で何ができるのかと疑問も浮かんでいた。


「Rのこの剣は、私達の中で一番運動が得意な、トウタくんに任そうと思う。いいだろうか?」

「え?」


ユウの言葉に、3人は更に顔を見合わせた。指名されたトウタは、殊更に戸惑う。

確かにトウタは元バレーボール部で、運動は得意だ。しかし、スキルの存在するこの世界で、そんな事が活かせるとも思えなかった。


「そ、それは無いんじゃないかな!」


トウタが答えられずにいると、タクシが強い声で否定した。

ユウはタクシの物言いに眉を顰める。


「どういう事だろうか?」

「お、俺はN+で、トロタはNじゃないか!剣は俺が持つ!」


タクシはぶっきら棒に言って、ユウから剣を奪う。ユウが抗議の声を上げる前に、とっととRの剣を装備してしまった。


「お、俺は行くから、お前たちも早くしろよな!レア度高い人達、待たせてるんだからな!」


タクシは捨て台詞を残すと、逃げる様に武器庫から出ていってしまった。


「良かったのか?トウタくん」

「え、いや……ありがとう……僕は他の武器を探すから」


トウタは力のない笑顔を見せると、ユウの視界からすぐに外れる。

協調性の無い2人に溜息を吐きつつ、ユウはケイジに愚痴を零した。


「協力しないといけないのに、皆何をしているのだろう?」


ユウの苛立ちを察したものの、ケイジは仕方ないと肩を竦めた。


「現実感がないんだよ。いや、現実を見たくないのさ」

「だから敢えてゲーム感覚や、日常の延長線上にいるように振る舞うと?」

「意図的ではなく、無意識的なものじゃないかな?」

「度し難いな。それでは改善の余地がないではないか」

「いや。きっとすぐに現実が襲ってくるさ」

「……それだと遅いではないか」


そうだねと呟いて、ケイジは武器と防具を探し始める。

ユウはまだ何か言いたそうだったが、仕方なしに自分の武器を探すのだった。



「武器がない……」


分かり切っていた弱音を吐きながら、トウタは無為な武器探索を続けていた。

鉄の胸当てに、腹を守る金属の板。脚は重くならないように、脛当てだけを装備した。スキルはついていないが、それなりの防具を揃えられたと考えて良さそうだ。


実際、木の棒で各防具を叩いてみたが、傷やへこみが出来る様子は無かった。

問題は武器だ。さっき見たRの剣以上のものが見当たらない。


「木の棒とかしかない……これでまだマシな方だし……」


レア度Rの木の棒を軽く振りながら、トウタは深い溜息を吐く。木の棒で魔王を倒すなど、通常攻略に飽きた人の縛りプレイの域だろう。

かと言って、そこにあるブーメランよりは、木の棒の方が現実的だ。さっき投げたら普通に飛んでいったので、ブーメランに勝手に手許に戻ってくる機能は無いらしい。


あそこにある、トウタの背丈ほどのハンマーについても同様だ。

重くて持ち上がらず、戦闘に使えたものではない。


「ゲームなら……装備するだけで使えるのに……」


『勝手に戻るブーメラン』『重量を考慮しなくていいハンマー』。ワクワクさせてくれるゲームみたいなご都合主義は、この世界に適用されないらしい。


いや、この世界と元の世界の大きな差異はスキルの有無だ。

きっと心躍るスキルも存在するのだろう。実際タクシのスキルは、武器の扱いに応用できるらしかった。


「こっちは……レア度Nのナイフ……」


持ち運べない武器は邪魔になるだけと、何の気なしにナイフを手に取ってみる。


攻撃力はさっきの剣よりも低く、有効範囲も狭い。スキルは付いていたが、『火で燃える』とよく分からない事が書いてあった。

ファイヤーボールなどの火系スキルなら、何かしら活用方法があるらしい。


「僕のスキルじゃ……使い道なんてないよ……」


ちょっとした吐き気を堪えながら、トウタはナイフを棚に戻そうとした。

しかし、ジュンなら使えるのではないか?という思いがよぎり、ナイフを戻す手が止まってしまう。


「未練がましいね……」


トウタは唇を噛んで、ナイフの横に在った手甲を掴む。手甲のレア度もN。

この際レア度Rに拘るよりも、使い方の分かる武器を探すべきかもしれない。


手甲は肘から指先まで覆うタイプで、それなりに軽い。使い道なんて、殴り掛かればいいのだろう。攻撃力は低いが、防御力はある様子。スキルも1つ付いているらしかった。

スキル効果は『自分を大きくする』。巨大化かと一瞬期待したが、どうも違うようだ。


「触っている相手も……『対象:自分』の範囲内にする……」


トウタのスキルなら、自分も相手も遅くなるのだろうか。

それは間抜けと言うかなんというか……微笑ましい光景に思えた。


「意味ないか……そもそも相手に近付いて触れる……?」


この世界の敵がどんなものかは分からないが、ジュンのファイヤーボールを思い出して身震いしてしまう。

一歩間違えれば死んでしまう攻撃を掻い潜って、相手に近付いて、触って、一緒に遅くなったところで……何ができる?


「考えたくない……」


考えたくないが、出来るとすれば囮だろう。

敵と一緒に遅くなって、後ろから打ち抜いて貰えばいい。


思い出されるのは撒き散らされる熱風。

敵の巻き添えを食らって、自身もダメージを受けてしまう恐れもある。


――そもそも自分に被害が及ばないように、配慮して攻撃してくれるかどうか。


「……でも」


どうせ何もできない自分であれば、その程度人の役に立てもいいのではないか?

生まれ変わったらヒーローになりたいという狂気に、ふさわしい末路ではないか?


「止めておこう……」


トウタは震える手で手甲を棚に戻す。

しかし腕の自由を奪われたようで、掌を開くことが出来なかった。


「おら、レア度Nども!早くしろや!」

「は、はい!?」


武器庫の外から誰かの叫び声が侵入ってきた。

脊髄にしみ込んだ反射が、脳を介さずにトウタを動かした。


怒鳴られたらダッシュ。

叩きこまれた犬みたいな習性が、手甲を掴み、トウタを武器庫の外に連れていくのであった。

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