4「地下牢への道」
「見張りがいるな」
地下通路を先行していたワシが、曲がり角で立ち止まった。
トウタも追いついて覗くと、そこは広い空間になっていた。
空間の先に、幾つかの通路が伸びている。ワシによれば、それぞれが個別の地下牢に繋がっているらしい。
空間内には見張りの敵が3匹。2足歩行の狼の様な魔物で、体の大きさは成人男性ほどだ。
「誰か遠距離攻撃できるかい?その隙に、あたいがちゃちゃっとしめてやるよ」
「遠距離なら…一応……」
トウタは拳銃を取り出し、手を挙げる。
「よし!なら任せた」
リズは気風よく言うと、突撃体制を整えた。
「俺らも行くぜ!」
「自分だけが活躍したと言われては、たまらないからな」
タカとワシも道具を持ち、走り出す準備をしている。
「行きます……」
トウタは緊張しながら拳銃を構える。
入っているのは、ユリアも使っていた爆発する弾丸だ。
5発しかないが、ここで使うのは間違っていないだろう。
3匹の内一番奥にいる敵に狙いを定め、引き金を引いた。
手の中に軽い反動が生まれ、弾丸が奔り、モンスター達の足元が爆発した。
「外した……」
「あたいには、十分な陽動さ!」
弾丸は直接的な被害を生み出さなかったが、相手を混乱させる効果はあったらしい。
モンスター達が戸惑っている間に、リズが突っ込んで行った。
「『スタンプ』!!」
スキル発動と共に、リズの斧が青く光る。
振り下ろされた刃は衝撃波を生み出し、モンスターをリンゴの様に押し潰した。
「俺も行くか、『ストンプ』!!」
スキル発動と共に、ワシの足が光り出す。
地面を踏み付けると強烈な反発が発生し、ワシは一歩で魔物の間合いに入った。
「『千影脚』!」
スキルを活かした技とでも言うのだろうか。
ワシは連続する蹴りで、モンスターを壁に押し潰していく。
「俺も行くぜ!『投擲』!!」
タカは走りながら複数本の短刀を構え、スキル発動と共に敵に投げつけた。
短刀は最後に残っている魔物に飛翔し、刃を喰い込ませていった。
ガアアアアアア
短刀の突き刺さった魔物は怒りに燃え、タカへと突撃しようとする。
タカは走る勢いのまま剣を引き抜き、敵を屠ろうとした。
しかし、
「ほら!止めだ!」
リズが斧を振り回し、タカとワシの獲物の首を跳ね飛ばしてしまう。
「一丁上がり!」
あっという間の出来事だった。
3体の魔物は塵と消え、空間が静寂に支配される。
「てめー、人の獲物横取りしてるんじゃねーよ!」
「そんな事より、斧に巻き込まれそうになったんだが」
「あたい達仲間だろ?細かいこと言ってんじゃないよ!」
いや、勝ち誇る3人の声が、すぐに静けさを追い払った。
タカとワシは文句を言っているが、リズは笑って取り合おうとしない。
(皆……強いんだね……)
これなら任務は何とかなりそうだと、ほっと胸を撫で下ろした。
トウタは銃を腰に差し、3人へと近付いて行く。
「トウタの兄貴!危ない!!」
「え……?」
油断したトウタの上方より、強大な爪が迫りくる。
「『ディレイ』!!」
咄嗟に腕を頭上に上げ、スキルを使用する。
気色の悪い遅延世界で、敵が猫の様なモンスターだと確認。スキルを停止させて敵の横側に回り込むと、爆発する弾丸を叩き込んだ。
「上から沢山来るよ!!」
猫の様な魔物は息絶えたが、リズの言葉の通り、天井から沢山の魔物が降ってきていた。
(待ち伏せされたのか……)
トウタは少し下がれば空間から出られるが、3人は魔物に囲まれるだろう。
トウタ1人で拠点から脱出して、仲間を呼びに行くのが最善手だろうか?
いや仲間が助けにこれる状況下も分からない。
なら神の御使いや神の使途を助けに、一か八か進むべきとも思う。
しかしどの道が目当ての地下牢に繋がっているのか、分からないらしいのだ。
間違った道に進めば、紙の使途と合流できずにただ追い詰められてしまう危険性がある。
(どうすれば……)
『こっちだ!』
「……!?」
突如トウタの脳内に声がして、眼前に地図が広がった。
「今の声は……レイカ先生……?」
神の御使いがトウタに通信し、地図を見せているのだろうか?
なら地図にある赤マークに、レイカ先生がいる筈だ。
「間に合うか……」
もうすぐ大量の魔物が地面に到達する。
この場所を埋め尽くす魔物を潜り抜けて、指定された場所まで行ける気はしない。
「いや……もしかしたら……」
トウタは昨日のタカ達との戦闘で、ワシの蹴りを避けた瞬間を思い出す。
(僕のスキルは…別の使い方が出来るのかも知れない……)
確信はない。
でも、出来なくてはならなかった。
「『ディレイ』!!」
スキルを発動させると、世界がぐにゃりと変化する。
体が重くなり、周りが高速で動き出す。
(走れ……走れ……走れ……!!)
体は殆ど動かないが、トウタは自身に走れと念じ続ける。
地面に溢れていく魔物の間を縫って、レイカ先生がいる筈の穴へと駆け抜ける自分を思い描く。
(!!)
動かないトウタを狙って、目の前の敵が腕を振り上げた。
倍速の掛かった高速の一撃に、遅くなったトウタの防御は間に合わない。
「うぐ……!!!」
攻撃を食らう直前に、スキルを停止した。
ハンマーに殴られたかの様な重い衝撃が、トウタの胸の中で暴れ回った。
しかし、それはモンスターの攻撃によるものではない。
(成功した……)
トウタは思い描いた通り、穴の近くまで移動していた。
後方を確認すると、トウタを狙った一撃は空振り、地面を抉っていた。
「トウタの兄貴すげえ!瞬間移動かよ!」
タカがはしゃいでいる。
彼にはトウタの動きが、瞬間移動に見えたのだろう。
しかし、何という事はない。
トウタは5秒程度スキルを発動し、発動中は元の場所に留まっていた。
そして、5秒間走り続けていたら本来到達していたであろう地点に、スキルを切った瞬間に移動しただけだ。
「使えないスキルだよね……」
ユリアのスキルであれば、この魔物達を一掃できただろう。
ジュンのスキルでも、一撃で複数の魔物を倒せた筈だ。
(いや……力不足を痛感している余裕はない……)
トウタは顔を上げると、地図の場所へと繋がる道へ進んだ。
「こっちに神の御使いがいる筈です……行きましょう……!」
「分かったぜ、兄貴!」
トウタの後ろを、タカがはしゃぎながらついてくる。
「頼んだぜ!後ろは、あたいに任せな!」
「俺も残ろう。そこが外れだった場合、追い詰められてしまうからな」
リズとワシは空間に留まり、穴を塞ぐように並び立つ。
「リズさん…!ワシさん…!」
「トウタの兄貴早く!この数だ、ワシが居ても、長くはもたねえ!」
トウタは唇を噛んで前を向き、歩を速める。
後方では魔物達の唸り声と、肉を砕く轟音が反響していた。